ギャル、マジックアイテムをGET
エクレールに向き直る。
「あんたの依頼に付き合うことにしたわ、エクレール」
「では、こちらからも依頼料を」
カードを差し出すエクレールの手を、遙香が制した。
「いらないわ。もう受け取っちゃっているから」
遙香が、カードに入っている金額を見せる。
「やはり、キミたちは面白いな」
三人で笑い合った。
「それに、さっきも言ったでしょ? 報酬がなくても引き受けるって」
「かたじけない」と、エクレールが頭を下げる。
「足手まといだから待ってろ、というならついて行かない。でも、私たちにもできることがあるはず。チョ子の地獄鼻はきっと役に立つし、最悪のケースだった場合、私の回復魔法が必要かも」
「うむ。世話になる」
いてもたってもいられない、といった様子で、マイがエクレールに詰め寄ってきた。
「わ、わたしも連れて行って下さい! レベルは三〇あるので、お役に立てるかと」
「学問で取得した経験値だ。実戦で役に立つか」
マイは諦めない。「そうはいっても」
「キミはドーラの帰る場所だ。キミにまで何かあったら、今度こそドーラは生きる気力を失う」
エクレールの説得により、さすがにマイは引き下がった。
「では、わたしの店に来て下さい。正確には、お婆ちゃんの店だけど」
街外れに建っている店まで、マイに案内してもらう。
「ドーラは、あなたの祖母なのね? 他の家族はいないの?」
「両親は王家で働いています。離れて暮らしています。わたしの父、つまり祖母の息子テンカイは、亡くなった祖父の代わりに、全世界の冒険者ギルドを総括。母のイータは、冒険者カード及び魔法通貨の管理をしています」
キャクストン家は代々、身分証や魔法通貨の管理を担当しているらしい。
家系が偉大すぎる。
まるでファンタジー作品の主人公のようだ。
「魔法でお金を作るなんて、すごいね。電子マネーみたい」
チョ子がドーラの功績に感心した。
「カード決済は、海外では主流らしいわ。イギリスは屋台でも電子マネーやクレジットが使えるのよ」
「マジで!?」
日本と違い、海外は偽札が横行している。
なので、カード払いの方が発達したらしい。
「キャクストン家が魔法通貨を作った動機は、きわめて不純ですよ?」
キャクストン宗家が道具屋で並んでいるときのことだ。
前にいたお年寄りが小銭を一枚ずつ出してるのにイライラし、『ピッ』でお会計が済むカードを開発したらしい。
「どんだけ堪え性がないのよ、あんたのご先祖様は」
とはいえ、金融のすべてを司るとは。
「よく命を狙われなかったわね」
「古代人文明との掛け合わせらしくて。凡人どころか、魔法使いにもまるで理解できないんです」
危害を及ぼすと、よけいに面倒になるワケか。
管理者がいなくなるから。
「事業を継ぐ気はないの?」
「はい。わたしは学者になるより、祖母のような強い冒険者に憧れているので。学校には通わないで、こちらで修行を」
胸を張って、マイは言う。
実に勇者的な考え方だ。
「ハッカのお家みたいだね」
「そうなんですか?」
「ハッカのお家って、パパさんが社長さんなんだよ。ママさんが秘書さん」
一代で実業家となった、いわゆるエリートの部類に入る。
「よしてよ。自慢できる家柄じゃないわ。あんな家だから、チョ子がギャル化したときに、付き合いをやめなさいって言われたし」
遙香がゲームに没頭し始めたのは、その頃からだ。
遊び相手との縁が、薄まってしまったから。
遙香は、当時を振り返る。チョ子のことを何も知らない両親と憤慨し、どれだけ口論しただろう。
「でも、こうして仲良しじゃん。ウチは、別に気にしないもん」
「ごめんなさい」
「ハッカが謝るコトなんてないんだって」
話しているウチに、店の前に着いた。
玄関上に打ち付けられた看板は落ちかけていて、外観こそ寂れている。
が、中の品揃えは豊富だ。掃除も行き届いている。相当、大切に扱われているのだろう。
「好きなアイテムを持っていって下さい。お金は結構です。報酬の前払いだと思って下さい」
棚に置かれている品々を吟味した。
できるだけ急いで。かつ慎重に。
その効果があったのか、今の自分に絶対必要なアイテムを見つけた。
真っ白い本が、目に飛び込んでくる。
シンプルなカバーデザインが施されていた。
「この本をもらうわ」
遙香が手にしたのは、『回復魔法全集』である。
「ダイフグ、魔法ってどうやって使うの?」
「読んで覚えてください。その前に、本を食べさしてください。解読してスキルとして登録しますさかい」
「分かったわ」
指示通り、本をダイフグに食べさせる。
テニスボールくらいの小さな身体に、分厚い書籍がスッポリと収まった。
電子書籍の欄に、魔法大全が登録されている。
これを読めば、レベル上昇に応じた魔法を使用できるようになるという。
「ウチさ、これにするわ」
チョ子がチョイスしたのは、なんとサングラスであった。
コイツに魔法アイテムを選択させたのは間違いだったか。
「それは、隠し扉などを見つけるアイテムなんですけど、誰にも扱えたことがないんですよ。お婆ちゃん以外に」
「へえ。でもさ、あそこに隙間があるみたいだけど」
チョ子がカウンターの真下を指さす。
「え!? ホントだ! 今まで知らなかった! 何年も店番してるのに!」
マイが数秒で、パズルを解く。
床板を上げると、古銭や年代物の酒瓶がびっしりと出てきた。
どうも床板を動かして開く、仕掛け扉になっていたらしい。
「さすがダークハンターね」
「へへん」と、チョ子が鼻を鳴らす。
エクレールが、床の底から一本の酒瓶を持ち上げる。
「おお、『魔女狩り』か。いいな。ワタシは何も持って行かん。その酒をヤツと酌み交わすことを報酬にしよう」
「思ったより便利だね、これ」
チョ子は、胸の谷間にサングラスを挟んだ。
メガネの輪郭が、谷間へ沈んでいく。
「どういう仕組みよ?」
「ダイフグを胸の中にしまってるの」
チョ子はシャツの隙間に指を突っ込んで、中身を見せてくれた。何の羞恥心もない。
ピンクのダイフグが、チョ子の胸に収まっている。
Fカップのチョ子だからできる芸当だ。
「では皆さん、最後にこれも持っていってください」
隠し収納に入っていたアイテムを、エクレールに渡す。
「これは『帰巣本能の宝珠』と言います。これがあれば、店にすぐ帰れますので」
「分かった。ドーラを発見次第、速やかに帰還する」
「お願いします。では、お気を付けて」
最後に、ロゼットから数日分の食料をもらって、今度こそ出発した。
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