ギャル、第一冒険者発見!
森を突っ切り、川岸に辿り着く。
開けた道に出て安心したのだろう。
不用意に、チョ子は草むらを抜けようとする。
「待ってチョ子。隠れて」
チョ子をその場にしゃがませ、遙香も草むらに身を隠す。
川の側で、野宿用の品々が置かれている。
岩に囲まれたスペースでは、パチパチと小さな炎が揺らめく。
テントや小物類のサイズを見ると、利用者は若い女性のようだ。
「どうしたん?」
遙香は、川の側に目をこらす。「誰かが戦ってる」
銀髪の少女と、牛の頭を持つ巨人が、対峙していた。
川にあるキャンプ用品は、少女のものであろう。
「何あれ?」と、小声でチョ子が聞いてくる。
「ミノタウロスっていう、伝説の怪物よ。おそらくかなり強い」
「助けにいかなきゃ!」
身を起こしかけたチョ子を、思い切り押さえ込んだ。
「無理よ! 多分、私たちが加勢しても、一瞬でペチャンコになるわよ」
ミノタウロスが、手に持つ斧を軽々と振りかぶる。
なのに、少女は微動だにしない。余裕の気配すら感じさせる。
「おい、そこの忍者。来ないのか?」
少女が、視線を木陰に向けた。
何もなさそうに思えたが、黒装束の男性がそろり、と姿を見せる。
更に驚くべきは、ミノタウロスの様子だ。
相手の視線が別方向へ移っているのに、踏み込まない。
体中が脂汗でベトベトだ。
「前方に強い殺気を持つ相手を送り込み、わざと勝たせて油断させておいて、後ろからブスリ。大方、そんな作戦だったのだろう。にしては、今一歩甘い」
少女が、相手の攻め方を分析する。
「隠れたつもりだろうが、気配を消し切れていない。心音は落ち着いたがね」
緊迫した状況で、心臓の音すら聞いていたとは。
「快感を求めて殺すのではなく、仕事なのだろう。だが、相手が悪かったな」
あくまでも冷静に、少女が武器に手をかける。
刀だ。この世界にも日本刀はあるらしい。
「み、見逃してくれ」
「ダメだ。ワタシが見過ごせば、キミらは同じ罪を犯す」
ミノタウロスが斧を振り下ろした。
同時に忍者も腰の短剣を抜く。
勝利を確信したのではない。きっと、恐怖に耐えきれなくなったのだ。
どちらの攻撃も、少女は紙一重でかわす。
武器を構えた状態のまま、二体のモンスターは意識を失った。
倒れている二人に、少女が近づく。
ミノタウロスの角を刀で切り取って、忍者の刀を没収した。
興味をなくしたかのように、少女は懐からカードのようなものを取り出した。
「賞金首を二名撃退。回収を頼む。場所は……」
カードに向かって、少女が語りかける。無線のようなアイテムだろうか。
刀を鞘に収め、少女はたき火へと戻っていった。
串焼き中だった魚をチェックする。
「焦げたか」とつぶやき、煤だらけの魚にかじりついた。すぐに少女は顔をしかめる。
少女がたき火に近づいたことで、遙香は少女の造形をハッキリ確認できた。
尖った耳。瞳の色は青い。
肌が白く、白地に複雑なポンチョを羽織っている。
こちらに気づいたか、少女がたき火の前で立ち上がった。
遙香も背の順では前の方だが、彼女は遙香より頭一つ分は低い。
少女に向かって、チョ子が全力疾走で飛びついた。
「すっごい! あんたって、めっちゃ強いね!」
いつの間に遙香の側からいなくなったのか、遙香にすら分からない。
「うっわ、耳が長い! このポンチョもオシャレ! どこで買ったん?」
「こ、これは我が民の民族衣装だ」
ポンチョを賞賛され、少女が少し得意げに語る。お気に入りなのだろう。
「腰に差してるのは、刀? ひょっとして日本人?」
「ううむ。『にほんじん』というのは知らん。だが、カナタではあるな。これも我が民族の伝統武器である」
質問攻めにうんざりする様子もなく、少女は淡々と回答する。
「もう」と溜息をついて、遙香は草むらから出た。「驚かせてごめんなさい」と、少女に詫びる。
「いや、構わない。で、キミらは? ここはゴブリンの巣もある。まさか観光ではあるまい。さしずめ冒険者といったところか」
「ええ。私は
「うむ。わたしはエクレール・キールストラ。エクレールと呼んでくれ」
「それにしても強いわね? 見事な手際だったわ」
遙香が絶賛すると、エクレールは「そうでもない」と謙遜した。
「失礼だけど、見た感じ、人間族ってワケではないのね? 差別的な意味ではなくて」
「うむ。エルフという種族だ。アルヘイト村は分かるか? ワタシはそこから来た」
「ごめんなさい。存じ上げないわ。エルフはなんとなく知っているわよ」と、遙香は首を振る。
「いわゆる妖精族だな。魔法が得意だが、頑丈ではない種族だ」
今度は、チョ子が手を叩く。「ああ、妖精王みたいな感じ?」
「ほほう。妖精王を知っているのか」
エクレールが身を乗り出す。
「我らエルフ族以外とは交流しないと聞いたが」
「そいつの手で、私たちはこの世界に飛ばされた来たのよ。漂流者って感じかしら」
かいつまんで、エクレールに事情を説明した。
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