ギャル、お着替えタイム(武装)

「他に必要なのは、装備品か。好きなの使ってよ」

「制服じゃダメ?」

「止めないけど、さすがに死ぬよ。国によっては四季もあるし」

 チョ子の質問に、妖精王は即答した。


「でも、何を持ったらいいんだろ? ちゃんと扱えるのかなぁ」


 チョ子の疑問はもっともだ。

 剣や弓を携帯しても、知識がなければ結局誰とケンカになっても負けてしまう。

 

 鞘に収まった大剣が目にとまる。

 ファンタジー世界が舞台のゲームで、遙香の持ちキャラは騎士だった。

 背負うタイプの大きな剣を構え、攻防一体の技を繰り出すのだ。


「鎧はどうするの?」


「武器を持ってみな。外見が変わるから」

 遙香の心配よそに、妖精王が話を続ける。


 恐る恐る、遙香が剣の柄を握る。

 チョ子はまったく警戒せず、銃のグリップを手に。

 

 剣を振ると、一瞬で服装が変化した。

 ブレザーのデザインを崩さない程度の装飾が施されている。

 それでいて、制服本来の清潔さ、気品を損なわない。


 鞘から剣を抜く。

 刀身が薄い。

 向こうの景色まで透けて見える。軽そうだが、扱えるかどうか。


「持ち主の魔力を刀身に変えるタイプだから」

 なるほど。魔法剣士タイプの武器か。

 

 腕輪に円形の金属がはめ込まれていた。

「これはなんなの、時計?」

 

 スマホと化したダイフグがいるなら、時計なんて必要なさそうだが。


「シールドだよ。それも魔法で発動するから。物理、魔法攻撃、どっちも弾く」


 考えるだけで、盾を展開できた。

 

 半透明で一見すると頼りないが、効果は実際に戦わないと分からない。

 剣が薄く軽いため、盾を構えながら攻撃ができるのはありがたい。


 そういえば、ステータスを見られると言っていたではないか。

 早速試してみる。

 ダイフグの肌に指を滑らせた。

 職業と能力を確認する。


 遙香は『聖騎士パラディン』というタイプだった。

 剣と盾が得意な前衛職で、回復魔法も使えると書いてある。

 ここでも騎士とは。なにか、運命を感じた。


「かわいいね、ハッカ。ニーソのトップに付いてる赤い宝石がポイント高いよ」


 チョ子に茶化されて、スカートの裾を押さえた。


「マントもいい感じ。普通ならダッサイけど、ハッカなら許せちゃう」

「やめてよ」


 遙香の装備からは、上品さが漂う。

 聖騎士というクラスも手伝っているのだろう。


「ねえねえハッカ、『ダークハンター』だって。どの武器を持てば?」

 ダイフグを弄りながら、チョ子が聞いてくる。

 遙香をハッカと呼ぶのは、周りではチョ子だけだ。


「だから、その渾名はやめてよ。さっきから」

「いいじゃん。ウチだって、チョ子って呼び名で通ってるし」


 それは本名だから仕方ない。

 彼女は千代子と書いて「ちょこ」と読むのだ。

 演歌歌手が好きな祖母に付けられたという。

 だが、『お菓子の名前にしたい』と両親が反対して、呼び名だけ変えられたらしい。


「アイコンで表示されているでしょ? 二丁拳銃よ」

「ああ、これか」


 ちょうどチョ子の目の前に、二丁の黒いピストルが×の字に飾られている。


 銃を手に取った瞬間、チョ子が痴女へ変貌を遂げた。

 そういう店のコスプレか、と思わせるくらいの。


 制服の前が開き、カーディガンは革ジャケットに変形した。

 ただでさえ主張していたFカップも、革製の衣装によって更に強調される。

 白いジーンズスカートの中は、黒いインナーらしい。


「うっわ。ナノミニとかエッロイ! でもカッケーッ! 気に入った!」

 本人が満足気味なので、よしとしよう。


「で、どんなことができるん?」


「レアクラスだよ。素早さがトップクラスで、戦闘もこなせるし、銃から魔法を打てる」


「チョ子の腰にあるのって、ピッキングツールよね?」


 ダークハンターと化したチョ子の腰には、ベルト型のホルスターが巻かれていた。

 ベルトと一体化したポーチの中身は、鍵開けの道具だ。


「へえ、何でも知ってるね、ハッカ」

「あ、兄貴の受け売りよ!」

 兄のお下がりのソフトを遊んでいくうちに、遙香はゲーム好きになったのだ。


「それは、後々ダイフグを通して説明するから。まあ一言で言うと、ガッツリした戦闘より、搦め手や、探索向けの職業かな?」

 要は実践で確かめろと。冒険前にいちいち解説するのは諦めたようだ。


 妖精王の説明だと、遙香の職種はやはりガッツリ戦闘タイプらしい。


「リロードは考えなくていいから。魔力が切れるまで撃ち続けられるよ。究極の中二武器だね」


 妖精王から、チョ子はアドバイスを受ける。


「中二? うち、高二なんですけど?」


 そこから教えないといけないのか。


 再び、妖精王が銃の仕組みを解説する。


「私が前衛に立って、こいつがバックで魔法主体ってことになりそうね」


「そうでもない。冒険していれば、だんだん特徴が分かってくるから、行ってみな」


 説明ばかりでも面白くない。習うより慣れろか。


「お金は勘弁ね。所持金をこっちの世界に換金するくらいしかできないから。冒険者ってのに登録したら、お金とカードがもらえるから。それは現地で調達してちょうだいな」


「自分たちで稼げって?」


「そういうこと。いきなり金もレベルもマックスとか、つまんないっしょ?」


 言われてみれば。


 いくら不注意で召還されたとて、全てができてしまってはそれも退屈だろう。

 不便さもひっくるめて楽しみたい、なんて思う者だっているはずだ。


 それが、遙香に当てはまるわけでもないのだが。


「待ってよ、最強じゃないの?」

「最強になれるかどうか、それとも不便でもエンジョイ勢として異世界に生きるか、それはあんたらで決めてね」


 気のせいか、妖精王の世界が、段々とぼやけてきたように思える。


「え、ちょっと無責任じゃない?」

「いいじゃん。行ってみよう」


 とうとう、異世界の入り口へ向かう。

 

 そこには何が待っているのか。


「じゃあねー。一応、死なないように要所要所でちゃんとフォローするから」

 

 妖精王の声が、ついに聞こえなくなった。


「そもそも、あんたがあのフグをバックに写真を撮ろうとしなければ!」


「だって、あんたずっと独りぼっちだったじゃん」


 自分はいいのだ。


 クラス代表だから。

 

 多少煙たがられても。


 昔からそうだった。

 

 ドロップで好きな人が少ないハッカと呼ばれている。


「ウチはハッカ好きだけどなぁ」

「いきなり何を言い出すの!?」


 大胆な告白は百合漫画だけの特権だ。

 現実でされても困る。


「いや、ハッカドロップでしょ? 中身がハッカだけの缶も売っててさ。ウチ、あれ好きなんだよね」


 アメの話だったらしい。


 咳払いを一つ、遙香は話を戻す。


「いいのよ、私なんかに気を遣わなくても」

「遣うよ! せっかくハッカと一緒にアチコチ巡ろうってプランがさあ!」


 からかわれているのかと思った。


「私と一緒なんて、つまんないわよ。友達と撮影すればよかったじゃない」


「ハッカと二人で撮りたかったし!」

 チョ子の眼差しは真剣さに満ちている。

 人を騙すような女ではない。 


「……んもう」

 チョ子の言葉に、少し喜んでる自分が悔しい。

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