ギャルと、元ギャルの妖精王

「異世界ってか、私たち死んじゃったの?」


「死んでない、死んでない」

 妖精王と名乗る少女が、手をヒラヒラと振る。

 手に、なんらかのアイテムが。

 どこかで見たことがあるような。


「ていうか、えーっ!?」

 遙香とチョ子は、驚きのリアクションを取った。


 妖精王が持つアイテムが、携帯電話だったからである。

 しかもガラケーだ。


「あんたも、ギャルだったん?」

 馴れ馴れしく、チョ子が問いかける。

 黒ギャル同士だから、シンパシーを感じたのだろうか。


「昔はあんたらと同じギャルだったんだけど、こっちでオトコ作っちゃってねー。今、二人の子持ち」


 元々の管理者の判断で、転移者が世界の管理を任されてしまうこともあるという。

 元の世界に戻す方法を指示したり、転移者に強力な力を授けたりと、仕事は様々だ。


「それで、私たちがここに連れてこられた理由は?」

 異世界に飛ばされる以上、何か管理者でも制御しきれない問題が生じたのかも知れない。


「ウチらをさらって、なんかして欲しいとか?」

 同じくチョ子も、妖精王に問いかける。


「特には。この世界を満喫してもらうだけ」

 妖精王は、ダイフグに地球を見晴らせ、様子を探っていた。

 大した異変は見つからなかったという。


「役目が終わったんで、本当はコイツだけ回収するつもりだったんだけど、あんたらの魔力が強くってさ。引っ張ってきちゃったんよ」


「あなたの責任ではなく、私たちの責任だと言いたいの?」


「そういう意味じゃないよ。こればかりは、不可抗力だったからね。こちらもフォローするんで、それで勘弁して欲しい」


 ダイフグが、「ホンマすんまへん」と、何度も詫びる。


「私たちの力は、必要ないのね?」

「特にないよ。現地で解決できそう」


 本当に、管理者側のミスだったらしい。 


「モンスターとか、危険じゃないの?」

「ちゃんと気をつけていれば、危ない世界じゃないよ。戦う能力も渡すし」


 異世界転移される者にはハイレベルの能力が授かる、定番の展開だ。


「元の世界には戻れないの? 困るんだけど」

 遙香が聞くと、妖精王は首を振る。


「今のところ、方法はないよ」

「そんなぁ。向こうにも生活があるんだけど」


 チョ子は向こうにも友達が多い。そんな声が漏れて当然だ。


 遙香の方も、両親が心配しているだろうし、顔だけでも見せに行きたい。なにより……。


「冗談じゃないわよ! せっかくあっちの世界でお店を開業しようとがんばってきたのに!」

 頭をかきむしって、遙香は不満を爆発させる。


「面倒くさい手続きとかいーっぱいあって、どれだけ勉強したと思ってるのよ。家でバイト禁止だからお年玉を貯金するしかなくて。その苦労が全部パーよっ!」


「まあまあ落ち着こうよ、ハッカ」

「落ち着けるもんですか!? どうしてくれるのよ!」

「変顔になってるから!」


 チョ子に指摘され、遙香は正気に戻った。

 学校ではクールキャラで通しているのに、チョ子の前だと調子が狂う。


 声のトーンを落として、ダイフグが謝罪した。

「こればっかりは、分かり次第お伝えしまっせとしか言えまへん。堪忍してな」


 どんなにかわいく弁明されても、許すとなると話は別だ。


「分かった。帰る方法を探しておくから」


「絶対よ! 嘘だったら承知しないから!」

 遙香は妖精王を指さして念を押す。


「それはそうとして、元の世界をチェックしたんだけどさ、それ便利だね」

 妖精王は、遙香たちの携帯電話に興味を持ったようだ。

 ここの世界では使えないのだが、彼女のケータイがガラケーなところを見ると、使い道はあるのかも知れない。


「スマホが?」

 遙香とチョ子は、妖精王にスマホを渡す。


「これを、ダイフグの腹にゴックンチョ、と」

 何を思ったのか、妖精王はスマホを二台とも、ダイフグに食わせたではないか。


「ちょっと何すんのよ!? 五万も払ったのよ!」


「あーっ! せっかくデコったのに! 三時間の努力が無駄になっちゃった!」


 怒る二人を、「慌てない慌てない」と、妖精王が宥める。


「コイツに、あんたらの持ち物と同じ機能を持たせたの。コキ使っていいよ。わたしら、それだけのことをしたんだから。わたしもサポートするし」


 妖精王が、ダイフグの肌を撫でる。

 ダイフグの中に、スマホでよく見るアイコンが無数に浮かび上がってきた。


「え、それ、アプリ?」


「そうそう、これで、持ってるアプリをチェックできるよ。まあ、触ってみ?」


 ダイフグの頭に、妖精王が軽くチョップを食らわせた。

 それだけで、ダイフグが真っ二つに割れる。

 片方のスライムが、銀色に変色した。

 銀色の個体が、遙香の手の平に載る。

 

 ピンク色の別個体が、チョ子の肩に。ちゃんとデコも体中に反映されている。


「色に違いがあるの?」


「あんたらの、スマホ? とかいう電話の色で分けたんだけど。ちなみに、こいつら勝手に雑草とか食べるから、エサの心配はないよ。魔力を電力に変換できるから充電にも困らない。もちろん、そんな身体だから、クッション性も抜群だし」


 確かに、遙香のスマホは銀色だった。

 お気に入りだったのに。こんな形になって大丈夫だろうか。


 肩に乗ったダイフグを、チョ子は恐れもせずに手で掴む。

「ムニムニして気持ちいいね。これは、使えんの?」

 チョ子が差しているアイコンは、検索機能の横にあるマイクのアイコンである。


「翻訳機能。この世界の言葉が理解できるし、読み書きも可能」


 元の世界で使う機能と同じだ。

 外国人に道を聞かれたときは重宝した。

 

 恐る恐る、遙香もダイフグを指でついてみる。チョ子の言うとおり、プニプニの手触りだ。


「じゃあ、これは? 見たこともないんだけど?」


 一見、PCのフォルダアイコンに似ているが、微妙に違う。


「えっとね、アイテムボックス。まあいわゆる、なんでも出し入れできるポケットね。生き物以外なら、なんでもしまえる。保存も利くよ。あと、パラメータを見ることができる。レベルがどれくらいとか、持ってるスキルとか確認して」


 隠れゲーマーの遙香は、なんとなくこの世界のお約束に順応しようと、頭をフル回転した。


 だが、チョ子は何度も首をかしげている。一ミリも理解できていないのだろう。

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