ギャル二人が『魔法効果付与《デコ》』で異世界を守るんですけど!? ~最強なんて、目指さない! ギャルは生きてるだけで最強だから!~

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第一章 異世界に来ちゃったんですけど!?

ギャルふたり、異世界をかける

 白ギャルの白雪しらゆき 遥香はるかと黒ギャルの津波黒つばくろ 千代子ちょこは、遠い異世界の地でゴブリンに追いかけ回されていた。


「ちょっとチョ子、こっち来ないでよ!」

「ムリムリ、キモイキモイ! ハッカ助けて!」


 遥香は一応、聖騎士のヨロイに身を包み、武器も聖剣を持たされていた。

 相棒のチョ子も、ミニスカ二丁拳銃という出で立ちである。


 だが、つい数分前まで普通の女子高生だった二人に、戦闘などできるはずがない。


 どうしてこうなった?


 全部あのフグのせいだ。


~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~


 大阪で最も高いビルの屋上で、白雪しらゆき 遙香はるかはアイスを舐めながら佇んでいた。


「もーらいっ」と、横から声が掛かる。


 横から現れたポニーテールの少女が、遥香の手にあったアイスを一口かっさらう。


「あっ! チョ子、あんた!」

「うーん、チョコミント最っ高!」


 褐色の少女、津波黒つばくろ 千代子ちょこがニカッと笑った。


 幸せそうな顔を見せられ、遙香は何も言い返せなくなる。


 苦手な相手だ。

 悪いヤツではないのだが、気後れしてノリに付いていけない。


「一緒に回ろうよ、ハッカ。同じ班なら先に行っちゃったよ」

 ローファーの爪先で、チョ子がリズムを取った。

 その度に、短すぎるスカートが揺れる。

 チョ子は遙香のことを、幼い頃からハッカと呼ぶ。滑舌もよくなったのに。

 

 社会科見学の実行委員は忙しい。

 迷子はいないか、トラブルはないかチェックの連続だ。

 遙香と同じ班は、とっくに別のルートへ。

 そのストレスが、遙香を甘いものへと走らせた。


「チョ子、やめなよ」「白雪さん、困ってるよ」

 取り巻きの女子がチョ子の袖を引っ張った。

 彼女たちの髪もチョ子と同じく茶色い。

 もちろん校則違反の色だ。


 自分の姿が窓ガラスに映った。

 黒髪のショートボブの少女が、気まずさを露わにしている。

 アイスを買う前に、女子トイレでスカートの裾も大胆に上げてみた。しかし、この場では遙香だけが黒髪だ。

 自分の方がおかしいのでは、と思えてしまう。


「あなた、隣のクラスでしょ? 私は平気。それと、ハッカって呼ばないで」

 その呼び名は、あまり好きではない。


「いや、なんか黄昏れてたじゃん。どーしたんかなって?」

「なんでもないわよ」


 高さ三〇〇mの下に広がる景色は、求める経営イメージではなかった。

 自分の欲しいビジョンは、上から人を眺めることとは違う。

 大阪の新名所、超高層ビルの五八階にある庭園から、チョコミント味のアイスを片手に、地上を見下ろす。

 この眺めは、自分の身の丈に合わない。


 このビルに支社を持つ父から、「事業を継ぎなさい」と言われた。


 けれど、遙香は顧客と同じ目線に立つ事業がしたいのだ。

 小さくてもいいから。

 店を開いて雑貨を売って、お客さんとおしゃべりして、といった、余裕のある事業を。


 社会科見学そのものに不満はなかった。

 行くところ全て楽しく、味わい深い。

 中でも、フグ料理屋の看板がツボに入った。

 単なる社会見学なので、食事は楽しめなかったが。

 

 それでも、食事巨大フグのオブジェは今でも印象深い。

 あの地に足の付いた愛嬌の良さこそ、今後目指す目標となった。



 そう、ちょうどガラスの向こう、目の前にいるような……!? 



 どうして目の前に、フグのオブジェが?


「ちょ、ハッカ、なにあれ!?」

 突然、チョ子が窓にへばりつく。


 フグが光り出した。遙香たちへ、ゆっくりと迫ってくる。

 この場所とは別の方角に、フグ屋はあるはずだが。


「え、ちょ、こっちに近づいてくる!」

「みんな逃げ……えっ!?」


 クラス代表である遙香は、生徒達を避難させようとした。


 しかし、生徒達どころか、先生の姿すら見当たらない。


 ここにいるのは、チョ子と自分だけ。


 チョ子の取り巻きも、みんなもう逃げた後のようだ。薄情すぎないか。



 それにしても妙である。

 以前から人の気配がなかったような違和感が拭えない。



「チョ子、あんたも早く逃げ――何やってるの!?」


 あろうことか、チョ子は遙香の肩を抱き寄せた。

 スマホを構え、自撮りの準備を始める。

 

 チョ子の茶色いポニーテールが頬をかすめた。

 一瞬、意識を持って行かれそうなほどの芳香が、鼻と脳をくすぐる。

 だが、すぐに冷静さを取り戻した。


「あんた、今の状況が分かってんの!?」

「シャッターチャンスじゃん。アンタも目線ちょうだいって」

「バカじゃないの!? 逃げるのよ!」

「なんで? 『オイシイ』じゃん? だったら乗っかるしかないっしょ!」


 この女は関西の水に毒されてしまっている。

 あるいはタダの脳天気か。


 ガラス窓を抜けて、巨大フグのオブジェが、ビルに入ってくる。


「きゃあああ!」

「いええええええい!」


 フグが口を開けて、二人を飲み込んだ。



       ◇ * ◇ * ◇ * ◇


 気がつくと、遙香は見知らぬ土地に倒れていた。

 辺り一面には、小さな花が咲き乱れる。


 隣では、チョ子が同じように横になっていた。

 遙香が揺り起こすと、目をこすりながら起き上がる。


「いやあ、やっと帰ってこれたでぇ。ホンマおおきにですわ。お二人さん」


 話しかけてきたのは、フグのオブジェだ。

 オブジェが破れ、中から透明なスライムが飛び出す。

 ピンク色のゼリーだか、わらび餅のようだ。

 野球のボールくらいの大きさである。

 

 遙香とチョ子は同時にのけぞった。

 

 だが、わらび餅に敵意はないらしい。


「お二人にはスマンことしましたわ。お詫びをさしてもらうんで、詳しくは王女様と話してくれまっか?」


 ピンクのわらび餅が、隅の方へ引っ込んだ。


 二人の正面には石段があり、頂上には王座があった。

 スケスケの衣装を着て、シロツメクサの王冠を被った女性が座る。

 子どもが作るような単純さはない。

 芸術家がデザインしたような、立派なモノだ。


「おかえり、ダイフグ」

 玉座のガングロ女性が、わらび餅に声をかけた。


「ご無沙汰でしたなぁ、女王さま!」


 ダイフグと呼ばれたわらび餅が、身体を弾ませて階段を上り、ガングロの膝に乗っかる。


「私は妖精王。言ってみれば、この幻想世界ア・マァイモンの管理者ってカンジ?」

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