第10話:別行動

「辺境の地の村なのに、割としっかりとした外壁があるんだな」

「高さこそ無いものの、これを越えるのは大変そうだ」


 畑で農作業をしていたおじさんと別れて村へと進んでいくと、村の周囲をしっかりと囲んでいる柵が目に入る。

 お世辞にも立派とはいえないが狼や熊のような魔物はともかく、手先が器用で木に登ったりする魔物でも、ゴブリンのような背の低い種族なら越えるのは難しそうだ。

 村を覆い囲むように設置された柵だが、街道に面した場所の一部に出入口のようなものがあったのでそこに向かう。

 そこには木で出来た門まで用意されており、若い男性が暇そうにどこかから運んできた切り株に座ってこっちを眺めていた。

 

「こんにちは」

「こんにちは、うちの村にお客さんとは珍しいね」


 先頭を歩くアベルが声を掛けると、見張りの青年は切り株から立ち上がろうともせずにニコニコと挨拶を返す。

 何かに備えてのことのようだが、対象は人では無さそうだ。

 肩にもたれさせている武器も、長い木の柄にナイフを蔦でくくっただけのなんともみすぼらしい即席の槍だ。


「狼? あれっ、歩いてる? 服着てるし」


 そんなアベルに続いて大柄な狼人のウルが現れたことで、青年は慌てた様子で切り株からずれ落ちていたけど。


「ああ、狼人は見たことないですか?」

「狼人? ほえー獣人さんかい」

  

 そんなウルの横に立って、ユクトが困ったように声を掛ける。

 すぐに立ち上がってお尻をパッパッと払った青年は、下から覗き込む形でぐるりとウルの周りを一周すると腕を組んで感心したように頷く。

 

 これだけ街から離れた場所だと、獣人を見る事はあまり無いらしい。


「おどろかせた。すまん」

「喋った!」


 ウルが言葉を発したことで、飛び上がって距離を取っていたが。

 すぐにニコニコと人懐っこい笑みを浮かべて、ウルに近づいて来ると右に左に身体を揺らしながら楽しそうにウルを見つめる。


 そしてエイっと言って、ウルの身体に抱き着く。


「あったけー……てか、すげー肌触りが良い」

「むう……」


 いきなり抱き着いて来た青年に対してウルが一瞬面食らった表情をしていたが、好意的な感想を聞いてどう扱ったらいいか困った様子でメンバー見回す。


「だめ! パパはエルの!」


 すぐにエルナが駆け寄ってきて、青年を突き飛ばして代わりに抱き着いてきた。

 それを見て、青年がさらに驚いた様子で二人を見比べる。


「んなー! 獣人さんの子供はエルフなのかい? えっ?」


 そうじゃないが、面倒くさくなった一行は適当に誤魔化して、村の中に入れて貰うよう頼む。


「ええよー。別に外から来た人をチェックするもんでもないし」


 やはり、他所の人間を確認するための場所では無かったらしい。

 じゃあ、何のためのとも気になったが、あまりこの青年と長話をする気にもならなかったので、村長に聞くことにしてユクト達は中に入る。


 村の中央の広場まで来たところで、アベルが振り返る。


「じゃあ、ウル宜しく。ユクト達も、しっかりな」

「ああ、頼んだよ」


 そこからアベルとウル、ユクトとミランとエルナの二組に分かれることにしたのだ。

 まあ、村の外であったおじさんの反応もあって、村長の家にエルナを連れて行かない方が良いという結論になった。

 そこで見るからに強そうなウルと、どこからどう見ても剣士のアベルが詳しい依頼の話を聞く係に。


 ユクト達が宿の手配と、村人からの情報収集という役割に分かれることにしたのだ。

 エルナがウルについていきたいと駄々をこねたが、そこはユクトが上手に言い聞かせる。


「パパたちは、この村の偉い人のところに難しい話をしに行くんだよ」

「えらいひとぉ?」

「そう、偉い人を怒らせるととっても怖いから、ユクト達と村を探検しないかい? そっちの方が、きっと楽しいよ」

「たんけん?」

「うん、美味しい物もあるかもよ?」


 そう言ってユクトが両手を広げて村に目を向けさせる。

 普段は自分のことを僕と言っているユクトだが、エルナを宥める時だけ時折自分のことを名前呼びする。

 子供に対してはそうした方が自分と一緒に行動することを、はっきりとイメージしやすいと考えての敢えての言動だ。

 そしてユクトに指示された村の中をグルーっと見回したエルナは、面白い物でも見つけたのか目をキラキラと輝かせ始める。


「エル、ユクトとたんけんする!」

「ちょっとちょっと! 私もいるわよ!」


 ユクトと探検するといったエルナに、ミランが慌てて割って入る。

 自分も居るアピールをするためだ。

 そんなミランをジッと見つめたエルナが、ニカッと白い歯を並べて笑顔になると彼女の手を両手で握る。

 そしてその手を引っ張って、グルグルと回り出す。


「ミランもいっしょ! ミランもいっしょ!」


 変な節の歌と共に。

 

「それではエルナ隊員! まずは、我々の泊る宿を探そう!」

「はい、だんちょう!」


 ようやく満足したらしいエルナがユクトの方を見上げていたので、彼は彼女に対して敬礼をして指示を出す。

 それに対して、おなじようにびしっと敬礼をして答えるエルナ。

 

「それじゃあ、どっちに行けばいい?」

「あっち!」

「じゃあ、急いで探検だ!」

「たんけんだぁ!」


 ユクトは敬礼をしているエルナの脇に手を差し込むと、肩車をして上を見上げて問いかける。

 それから迷うことなくエルナが指を差した方向に、走り出す。

 ユクトの肩の上で、エルナがキャッキャッと笑い声をあげる。


「ちょっ、ユクト、エルナ! 待ってよー!」


 そして、少し遅れてミランが追いかける。

 

「あんなんで、ちゃんと情報収集できんのかね? 今夜宿に泊まれるかも心配になってきた」

「ユクトいる、問題無い」


 その様子を呆れた表情で眺めていたアベルがぼやいていたが、ウルが大きく頷いて否定する。

 誰にも言ってないが、ウルはこのパーティの中でユクトを一番信用している。

 それはユクトがエルナとウルの2人の関係を除いて、一番メンバーと仲が良いからだ。

 基本アベルの面倒を見るのも、ミランをよくカバーするのも、口下手な自分に根気よく付き合ってくれるのも、エルナとよく遊んでくれるのも、一番はユクトなのだ。

 そんなパーティの緩衝材ともいえるユクトに、ウルは言葉にはしないながら物凄く感謝もしていた。

 恵まれない職業でありながら努力のみで必死でくらいついて来る姿も、彼の眼にはとても眩しく映る。


 そんなことを思い直しながら、横に並んだアベルに視線を落とす。

 はぁ……と、自然とため息が漏れたが、アベルには気付かれなかったようだ。


 アベルとウルからちぐはぐにそんな感想が漏れているとは露とも知らずに、エルナの指示に従って宿捜しをするユクト。


 どういった状況で神隠しが起こったのかは分からないが、広場には子供達が走り回っているのが見える。

 立て続けに子供が行方不明になったにしては、不用心なと思えなくもないが。

 何か条件があるのかもしれない。


 子供達のことを気に留めつつ、まずは宿探しからだ。

 子供だったら簡単に色々と話してくれそうな気がしたのだが、声を掛けるきっかけにも困る。

 それに下手に捕まって長々と付き合わされてしまったら、宿が取れないかもと思ったのだが。

 ただ、あまり外からの客が来なさそうな村の様子をみて、ユクトはその心配は必要ないかなと考え直す。


 しかしながら、話のきっかけに悩んだのは事実だ。

 子供ってのは繊細な事が多い。

 もしかしたら、行方不明の子と何か繋がりがあるかもしれない。 

 ふとしたことがきっかけでその時は上手く表せなかった感情が発露して、村の真ん中で泣かれても困る。

 

 子供から声を掛けて来なければ、積極的に近付かない方が良いだろう。

 とりあえずアベル達からの情報が無い時点で、こちらから声を掛けるのは軽率な気がしたため宿の確保を優先したわけだ。 


 村はお世辞にも余裕のある感じはしなかったが、かといってそこまで原始的で貧しい暮らしというわけでもなさそうだ。

 あれだけ立派な柵を作っているのだから、当然なのだろうが。

 村の中には数カ所ほど、屋根付きの釣瓶のある井戸も設置されている。

 川まで水を汲みにいくようなことも、していなさそうだ。


 建物も一部屋根が藁で組まれていたりもしたが、街の周辺の村で見るような基本的な木造の建物が多い。

 通りを行き交う人の往来は少ないが、外の畑に出ているのか、森に採取に行っているのか。


 ただ人の気配のする建物も多い為、村自体に人が少ないわけでは無さそうだ。

 ユクトは横でぽやっとあちこちを眺めているだけのミランを見て、何を見てるのかなと興味を持ったが。

 彼女は何も見ていない。

 漠然と情報を視界から映像として得ているだけで、それ以上のことは考えていないだろう。

 森の中ならともかく、村での情報収集は彼女の専門外。

 まあ、情報収集の専門職はパーティの中には元々いないが。 

 いや、明確に言えば彼女もしっかりと、情報を集めて来てくれるのだが。

 ミランにとって、このようなふわっとした指示は案外苦手だったりする。


 上手い事ユクトが誘導して、エルナの指示に見えるような形で目的の宿へと着くころには、エルナの目もだいぶトロンとしてきていた。

 そろそろ彼女も活動限界だ。

 目的の情報収集が出来ていないので。この際ミランとエルナは宿に残すかなと考えながら扉を開くユクトだった。

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