第7話:メイルの村

「ありがとうございました」

「いえ、ここからは1人で大丈夫ですか?」


 メイルの村に無事辿り着いた一行は、門番の検閲を無事に終えて村の中に入っている。

 イリスの丘ではその後何度か戦闘があったものの、最初に襲って来た群れが一番多かったため特に問題なく対処出来た。

 それでも予定の時間を大幅にオーバーして、村に着いた頃にはすっかりと日が傾いてしまっていたが。


「ええ、何度も来たことありますので。取り敢えずいつもの宿に泊まって、食事を頂いたらすぐに横になろうかと。流石に疲れましたので、しっかりと休んで明日からの商売に備えようと思います」

「分かりました。こちらこそ、エルナと荷物を運んでいただき有難うございます」

「いえ……相場より大分安くお願いしてますので、これで少しは帳尻を合わせて貰えると有難いですね」

「これからクエストを行うことを考えると、本当に受けて良かったと思える依頼だったので、依頼料のことは気にしないでください」

「はは、本当に貴方達に依頼出来て良かった。また、機会があればよろしくお願いします」


 外向けのアベルの対応に、ケビンはニコニコと満面の笑みを浮かべてお礼を言うと、しっかりとした足取りで村の大通りを進んでいった。

 その後ろ姿を見送ったアベルが大きく背伸びをして、振り返る。


「さてと、臨時収入もあったし今日はちょっといい宿に「駄目です。そうやってすぐに無駄遣いするから、アベルはお金が貯まらないのよ」

 

 ニッコリと笑って宿のグレードを予定よりもあげるよう提案しようとしたアベルを、ミランがバッサリと切って捨てる。

 

「その代わり、夕飯はちょっとだけ予算アップだから」

「マジ? やった!」


 ガックリとうなだれていたアベルだが、すぐに立ち直って拳を天に突き上げている。

 

「やった!」


 それを見たエルナも真似をして拳を上に伸ばしているが、本人は何が嬉しいのか分かっていない。

 ただ、とても楽しそうだということだけは、表情から見て取れる。


「おにっく! おにっく!」

「おにっく! おにっく!」


 その後、謎の肉の歌を歌い出したアベルに、エルナも一緒になって歌い始めたものだからミランが苦笑いしている。


「ほら、早く宿にいかないと、泊まれなくなるよ」

「ん」


 そんな3人を急かすようにユクトが声を掛けると、ウルも頷いて小躍りしているエルナの脇に手を差し入れて肩に乗せる。


「おにっく! おにっく!」


 ウルの肩の上でも楽しそうに歌っているエルナに、通りに居た人達が優しい笑みを浮かべて眺めていた。

 数人の老人方は、リズムに合わせて首まで振っている。

 やはり大柄な狼人とエルフの子供という珍しい組み合わせは、どこにいっても注目を浴びやすいのだろう。

 

 メイルの村には依頼で何度か来た事がある。

 今回も、3回目に村に来た時から利用している、小さな宿に泊まる。

 それまでに泊まっていた宿に不満がある訳ではないが、ここを愛用するようになったのには大きな理由がある。


「あら、エルナちゃん。あんた!」

「ん? どうした?」

「エルナちゃんだよ!」

「おお! エルナー!」


 本当に小さな宿で、入り口を入ってすぐにカウンターになっている。

 一応、隣に気持ち程度のテーブルセットが1つだけ用意されたロビーがあるが。

 その横はカウンターとテーブル席が1つしかない、喫茶スペース。

 その厨房に居た髭面の男が、カウンターにいたおかみに言われて慌てて飛び出してくる。


「無事だったか!」

「うん! くましゃん、おひさしぶりです!」


 そのままウルの肩に乗っていたエルナを掴むと、腕を伸ばしてクルクルとその場を周り始める。


「あらあら、エルナちゃんが目を回しちゃいますよ」

「キャハハハハ!」


 おかみの注意もなんのその右に左にとエルナを振り回したあと、ようやく満足したのかゆっくりとエルナをウルに手渡す。

 この宿の持ち主だろうが、エルナにくましゃんと呼ばれているだけあって、中々に毛深い。

 というか毛深すぎる。

 頭に熊のような耳がぴょこんと立っている。

 だが、それ以外は毛深い人といった程度の印象。

 聞けば、熊人と人のハーフらしい。

 

「ちゃんと浮気せずに、うちに来たんだな」

「勿論よ! 私達だって、余裕があるわけじゃないですし」

「ガッハッハッハ! いつまでもギリギリの生活で、たまに依頼でこの村に来るくらいが長生き出来て良いぞ?」


 ミランがこの宿を贔屓にしている理由。

 それは、エルナの宿泊料金がただなのだ。

 子供でも大人の半額を取られることが多いのだが、この宿の店主は子供が大好きなのだ。

 自分達の子供が成人してしまったのと、まだ孫もいないのでこうやって子連れのお客さんが来ると、とっても嬉しいらしい。

 それに彼自身熊のような見た目と力強さで、子供達からもすぐに懐かれている。


 夕飯を外で取る事を伝えると、親父さんの耳が分かり易く垂れていたが誰も突っ込まない。

 エルナだけが……


「きょうはくましゃんのごはんじゃないの?」


 とユクトを見上げていたが、困ったように苦笑するのが精いっぱいだった。

 喫茶スペースで食事の提供もしているのだが、臨時収入があったため外で豪勢にいくつもりだったので、エルナー! 余計な事を言わないでー! とミランも必死に目で訴えていた。

 が子供に伝わる訳もなく……


「くましゃんのごはんがよかった……」


 この言葉に、あからさまにガッカリとした男が若干1名。

 諦めの表情を浮かべた男女。

 特に表情に変化の無い狼の顔をした人。


 そして、天に耳と拳を突き上げる熊のようなおっさん。

 おっさんの全身が歓喜に打ち震えている。


「じゃあ、腕によりをかけて”おお御馳走”を作らないとな」

「おにく!」

「ああ、肉もあるぞ!」


 エルナのオーダーに、力こぶを作ってアピールするおっさん。

 まだ金庫番のミランが何も言っていないというのに、前掛けの紐を締め直して厨房へと下がっていくのをみたら何も言えない。


「エルナァ……」

「おにくあるって!」


 恨めしそうな視線を送っていアベルに対して、エルナが嬉しそうに答える。

 流石にその表情を見たら、文句を言うこともできず


「やったぁ……」


 力なくそう呟いたアベルだった。


くまのお宿

夕飯おまかせコース


・水牛のシチュー

・ウーズラ鳥の串焼き

・クルミと茸のサラダ

・自家製パン(おかわり自由)

・山ブドウのシフォン

・エール or オレンジジュース


「エルナちゃんがお肉が食べたいって言ってたからな、今日はスープはやめて牛のシチューだぞ!」


 そう言って、シチューの入ったお皿を並べていく店主。

 なるほど、湯気に混じって美味しそうな匂いが、辺りに漂って来る。

 器に目を向けると、大きく斬られたお肉がゴロゴロと入っていた。

 それでいて、口に入れたらホロホロと崩れ落ちるほどに柔らかく煮込まれている。


「んー! んー!」

「うんうん、お口」

「うめーな!」


 エルナが口いっぱいにお肉を詰めて、言葉にならない感想をあげている。

 表情からも、満足していることが良く分かる。

 横でアベルも、大きめのスプーンでガツガツと凄い勢いでかきこんでいる。

 

「特別に……1杯までならおかわりしても良いぞ!」

「良いの?」

「やったー!」


 太っ腹な店主の言葉に、全員が目を輝かせる。

 それから、次々と出される料理に舌鼓を打つ。

 どれもこれも、美味しいことには違いない。


 アベルも思っていた贅沢とは違うが、いっぱいになって膨れたお腹をさする。

 

「まあ、いつもよりは豪勢……だな」

「そうだね。明日から頑張らないと、お肉がそのまま体に付いちゃいそう」

「いや、久しぶりにお腹いっぱいお肉食べた気がする」

「もうたべられない」

「ん」


 それぞれが口々に満足を言葉に表すと、満面の笑みを浮かべて部屋へと移動する。

 一応湯浴びをしてから布団に入ると、ウル以外の全員がすぐに深い眠りに落ちて行った。

 ウルはショートスリーパーのスキルがあるため、他のメンバーほど眠ることはしない。

 ただそのウルだがやっぱり疲れていたのか、少しだけ荷物を整理すると首を横に振ってベッドにもぐりこむと丸まってスヤスヤと寝息をかいていた。


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