第5話:アベルとミラン
「俺はアベル」
「私はミラン」
「僕はユクトです」
簡単に自己紹介をしながら、これまでの状況をかいつまんで話す。
2人はともに冒険者になったばかりらしく、パーティを組んでからまだ2回目の依頼らしい。
たまたま隣どうして手続きをして、そのまま一緒に説明を受けただけという関係らしいが。
流れで簡単な依頼を一緒に受けてみようかという話になったと。
そこで問題無く仕事が出来たことで、もう一度となって今日は薬草の採取に来ていたらしい。
どうりで、微妙に2人の間に遠慮がある感じがしたわけだ。
アベルは適性がファイターで、騎士の適性が僅かながらあるらしい。
適性が全く無いのと違って、少しでもあればそのジョブのスキルを覚える事も出来るが。
この適性というのは、成長速度に直結する。
適性が殆ど無ければ、レベル上げに物凄く苦労するので大成しにくいのだ。
幸いファイターと騎士ということで、あまりレベル上げの必要行動等に大きな違いがあるわけでもなく、いつかは騎士のスキルが手に入るんじゃないかと魔物も狩れる冒険者に志願したと言っていた。
騎士を目指さなかったのかと聞くと、「いやあ、剣士とか槍士なら目指したかもしれないけど、ほら早熟のファイターって器用貧乏なところもあるし」
と、なんとも現実的な返答が返って来た。
見た処、自分と同じくらいの年齢にしか見えないから、この子も今年『適正職業享受の儀』を受けたのかもしれない。
青銅のプレートアーマーくらいしか目立った装備は見えないが、聞いたら防具はこれだけ買うのが精いっぱいだったらしい。
武器は両手で扱う長剣だった。
が、まだろくに使えないので予備の武器として、ナイフも持っていると。
ミランの方はレンジャーの適性があったらしく、狩人になることも悪くないと思っていたらしい。
が、今年になってなんとなく人生に刺激を求めて、冒険をしてみようと考えが変わったとか。
その理由については、ユクトはなんとなく心当たりがあった。
(きっかけは……まあ、今年あちらこちらの街でブームを起こした、ジャーニーの大冒険という本のせいだろうな)
とある初級冒険者の活躍を書いた物語なのだが、なかなかに胸が躍る内容になっている。
それでいて主人公が16歳の女の子で、そこまで強くないけど何事にも一生懸命で、周囲の人の助けがあり、運も味方したりと全力かつギリギリでクエストを達成していく様子に多くの少女が勇気を貰ったと。
冒険譚には珍しく、女性読者が多くまた好評だった。
おおかたこの子も、その物語に感化されて勢いで冒険者にでもなったのだろう。
地味にそういった子が増えて居るって、ギルド職員さんも言っていたし。
そんな事を考えながら、ミランの身に着けている物をチラッと見る。
服装はチュニックの上に皮の鎧と、腰当をつけていて、厚手のパンツを履いている。
背中まである金色の髪を後ろで1つに結んでいるが、矢筒から矢を取り出すのに邪魔にならないのだろうかと、そっちの方が気になっていた。
それにしても初々しいな。
僕も最初の頃は、こんな感じだったっけ?
いや、一人でスタートした分、もう少しおどおどしていたかな?
ユクトは自分が冒険者になったばかりのころを思い出しつつ、自分の状況をどう説明したものかと頭を抱える。
ポーターとして雇われていたけど、雇い主の冒険者が追剥になったので命からがら逃げてきました。
その通りなのだが、いざギルドに戻った時にきっとあいつらも戻ってきているだろう。
道に迷う事が無い分、確実に先に着いていると考えるのが普通だ。
相手の方が冒険者としての格も上だ。
先に報告されるだけでも不利なのに、ましてや声の大きな方が勝つような世界。
きっと自分にとって不利な情報を流され、厳しい視線の中で職員からも聴取を受けることになるだろう。
改めて自分の状況を鑑みて、嘆きたくなる。
「どうしたんだ? 顔色が悪いけど、大丈夫か?」
「あなたの番だよ?」
自己紹介をすでに終えたアベルとミラン。
心配そうにこちらの様子を伺うアベルと、無邪気にユクトの自己紹介を楽しみにしているミラン。
2人の表情を見て、巻き込めるわけないかとユクトは詳しい事情を説明するのをやめて簡単に自己紹介だけに留めた。
「何か困った事になってるんじゃないのか?」
そして道を教えてくれた礼を言って立ち去ろうとしたら、アベルに肩を掴まれる。
ファイターというだけあって、ガッシリと掴まれた肩はびくともしない。
魔導士という職業柄、戦士系の職業との埋められない力の差に軽く嫉妬を覚えつつも掛けられた言葉に、少しだけ驚く。
戸惑った様子でアベルの顔を見ると、眉を寄せて心配そうにこっちを見下ろしていた。
背はアベルの方が少しだけ高いが、いまはとても大きく見える。
力強さを感じているからか。
理由の分からない頼もしさに、思わず言ってしまいたくなるが……
初対面の人を心から気遣うような相手になら、なおさら迷惑はかけられないと踏みとどまる。
「大丈夫だから、またギルドで会ったら気軽に声を掛けてね」
おそらく、もう会う事はないだろうけど。
心でそう付け加えたユクトは、どうにか笑顔を作り出して2人と握手を交わしてから礼を言って森の出口へと向かう。
そんなユクトの背中を、アベルがジッと見つめている。
「どうしたのアベル?」
「いや、何か辛そうな笑顔だったから気になって」
横で不思議そうな顔で見上げて訪ねて来たミランに、アベルが軽く首を傾げながらも心配そうにその背中が見えなくなるまで眺めていた。
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