第三話 情報収集

-フラヌイ村および、その周辺の情報収集を行うことにした俺たち


二人一組で手分けして行動することになった。

俺とユウナ、雄大と夏音、東とユーリアの組み合わせになった。

夏音が、前衛と後衛で組んだ方がいいと言い出し、グーチョキパーで決めた結果、こうなった。


...よりによってユウナかぁ


彼女とはあんまり話したことない上にカズマやシュンの件のことがある...

取り敢えず、彼女から目を話さずにいよう。

俺とユウナはフラヌイ村の北側周辺を探索し、雄大と夏音は東側、東とユーリアは西側を担当する。

宿屋の前でみんなと別れた俺とユウナは、北側の民家を中心にフラヌイ村内から情報収集を始めることにした。

フラヌイ村自体、小さな村なので民家の数は少なかった。昨日のうちにある程度の民家の位置は把握しておいた。北側にあるのは全部で四つだ。

まずは、宿屋から一番近い青い屋根の民家を訪ねた。


「すみません」


ドアをノックして声を掛ける。

すると中から若い女性が出てくる。すっとユウナが俺の背後に隠れる。


「なんの御用でしょうか?」


プログラムされた通りの返答が返ってくる。

元からNPCだったものはNPCのままだ。これも昨日のうちに確認しておいた。

ただ、フラヌイ村のNPCがそうあるだけで、他のNPCたちはどうなっているのかは分からない。

もしかすると...プレイヤーのように意志を持ったNPCも存在するのかもしれない。


「最近、なにか変わったことはありませんでしたか?」


取り敢えず、異変があったのかどうか聞いてみることにした。


「そうですね...」


若い女性が少し深刻そうな顔つきに変わる。


「...フラヌイの森に出掛けた旦那が帰って来ないのです」


...フラヌイの森。

西側にある大きな森だ。たくさんの樹木に囲まれた森である。

一度も足を踏み入れたことはないので詳しいことは分からないが、外から見ると暗くて不気味な雰囲気に包まれた森であることは確かだ。...そこで失踪か。

何かありそうだな...


「原因はわかりますか?」


「...わかりません」


首を横に振り、答える。


「旦那さんは何をしに行きましたか?」


「...紫陽花という花を摘みに行きました」


...紫陽花?

聞いたことのない花の名前だ。


「それは、どんな花なんですか?」


「フラヌイの森にしか咲いていない花です。それも、一年に数回ほどの目撃情報しかない幻の花なんです」


...そんな花を一体なぜ?

お金目的か?名声目的か?...それとも収集家?


「一体なぜ、そのような花を探しに行かれたんですか?」


「...実は紫陽花はあらゆる病気を治してくれるという言い伝えがあるのです」


「もしかして...」


ここまで俺たちのやり取りを無言のまま見ていたユウナが口を開いた。


「...誰かが病気に?」


「...はい」


悲しそうに答えると家の中に案内された。

案内されるがままに若い女性に付いていく。

小さな部屋の前に来た。

そこには小さなベッドに穢れのない真っ白なシーツ。

そして、金髪の美少女が穏やかな顔つきで眠っていた。


「...私の娘です」


そう言うと娘の傍へ行き、そっと優しく頬を撫でる。

その一連の動きと、その光景はNPCにプログラムされたものではなく、本物の母娘のようだった。

その光景を目の当たりにした俺はこれ以上、母親に質問する気を失ってしまった。

母親と娘に礼をすると俺たちは民家をあとにした。

それから残りの民家を訪ねたが、これといっためぼしい情報は得られなかった。

ユウナを見ると表情こそは見えないが、疲れたような様子だった。

村の外れにある大きな木の根元に腰を下ろす。そこは日陰になっており、気持ちのいい風が吹く。

ユウナから口を開くことはなく、お互いに無言のまま時が経つ。

その空気に耐え切れなくなった俺は独り言のように呟いた。


「...可哀想だな」


ユウナの横顔を横目に見るが、前髪で隠れて良く見えない。

そして、ユウナが反応を示すことなく、また微妙な空気に戻る。

草や木の葉が揺れる音に気持ちのいい風が、俺の眠気を誘う。

昨日の悪夢や今日の情報収集の疲れのせいか、俺は気が付くと眠りについていた。


「...ごめんなさい」


-彼女の声は優真に届くことはなかった


目を覚ますと辺りはオレンジ色に染まっていた。

どうやら数時間、寝てしまっていたようだ。辺りを見渡すとユウナの姿がなかった。


...先に一人で戻ってしまったのか。戻る時くらい声を掛けてくれたっていいのに


俺は宿屋に戻ることにした。

宿屋に着くと既に俺以外のメンバーは戻っていた。みんなが食堂に集まっていた。


「おかえり~っ!...あれ、ユウナは?」


食堂に入るなり、夏音が声をかけてきた。


「...え?戻ってきてないの?」


食堂を見渡すがユウナの姿がない。


「優真と一緒でしょ?」


「...昼寝してて、それで、目が覚めると居なくなっていた」


そう言うとユーリアが慌てて俺たちの部屋がある二階に向かった。

すぐに二階から大きな声が聞こえた。


「ユウナはいないっ!」


その瞬間、背筋に悪寒が走った。

先ほどの母親と娘の光景がよみがえる。彼女はあの時から、ずっと暗い様子だった。

いや...ずっと前から...そう、ベヒーモス戦以降、ずっとそうだった。

一番、目を離してはいけないって分かっていたのに...


...俺は、俺はっ、俺はっ!、俺はっ!!


ユウナが向かった場所へ向かう。

間違いなく彼女はフラヌイの森に向かった。...紫陽花を求めて。

急に宿屋を飛び出した俺に夏音が叫ぶ。


「ち、ちょっと優真っ!」


「フラヌイの森だっ!!」


俺は叫んだ。

それだけで察したようで、みんなが走って追いかけてくる。

ユーリアが俺の横に付き、聞いてくる。


「...ユウナはフラヌイの森に向かったのか?」


「...あぁ、間違いないはずだ」


それだけを聞いたユーリアはさらに加速していく。

おそらくスペルを使用している。それに負けじと東も物凄い速度で付いていく。

アーチャーならではの身のこなしだ。

俺と夏音は一番遅い雄大に速度を合わせ、フラヌイの森に向かう。

走りながら、夏音たちが得た情報を聞き出す。


「...なにか情報は聞き出せた?」


「...んーとね、あんまりこれといった情報はないんだけど、面白い話は聞けたよ」


「...面白い話?」


「...うん。フラヌイの森に魔女がいるって話」


「...魔女?」


「...なんか綺麗な花で囲まれた古い一軒家に住んでるっていう噂話の類だよ」


「...綺麗な花」


もしかして...


「...夏音、その家の場所わかるか?」


「...場所とかは分からないけど、魔女に気に入られた人だけ、辿り着けるみたいだよ」


...なんて無茶苦茶な設定だろうか。

それが本当な話なら、いまごろ炎上してもおかしくない。

でも、それはゲームならば、の話だ。いまはゲームとは言えない。

もし仮に魔女がNPCではなくなっているのであれば、十分に考えられる。


-フラヌイの森に入る


フラヌイの森の中は薄暗く、ジメジメしていた。

地面はぬかるんでおり、とてもじゃないが走れない状態だ。

おそらく走ると足元を取られ、危険だ。

俺たちは足元に注意しながら、慎重に先へ進む。

幸いなことにモンスターが出現する気配がない。村で聞いた話の中にも、フラヌイの森で魔物に襲われたといった話は一つもなかった。

もしかしたら、ここも一応、安全圏扱いなのかもしれない。


-それから


どんどん奥に進んでいくと、木と木の間に何か物影が動いた。

目を凝らして見る。

すると、二本の大きな角が生えた鹿がいた。


「...あそこに鹿がいる」


と小声で言う。


「...見えてる」


夏音と雄大も小声で答える。

その鹿を観察していると、なぜか少しだけ違和感を感じた。

その違和感を確認するため、後ろにいる夏音と雄大に聞いてみる。


「...なぁ、あの鹿、変じゃないか?」


もう一度、目を凝らして見ると...

その鹿の体が透けていた。先ほどの違和感はそれだったのだ。

俺は夏音と雄大に向かって叫ぶ。


「...あの鹿は、鹿じゃないっ!」


しかし、夏音と雄大から一向に返答がない。

俺の声に気が付いたのか、鹿がこちらを振り向く。

すると次の瞬間、鹿の体から白い霧が発生し、瞬く間に辺りが霧に包まれてしまった。

慌てて振り返ると...


「...は?」


そこには身に覚えのない舗装された道があった。

横は大きな木に囲まれ、その奥は暗く、何も見えない。

夏音と雄大の名前を叫びながら、舗装された道を歩き始める。


...立ち止まっている余裕はない。早く彼女たちと合流してユウナを見つけなければ


舗装された道を進んでいくと急に...


-光り輝く紫色の花畑が目の前に広がっていた







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