第二話 現状分析
-村での探索が終わり、宿屋に戻っていた俺たち
マップデータを女性陣に転送し、俺たちは各自の部屋に向かった。
部屋に入るとベッドと机、丸椅子と随分とシンプルな内装だった。無駄に飾られていない分、落ち着くことが出来る。
かなりの距離を歩いていたため心身ともに疲労していた。
ベッドに横たわり、目を閉じる。...そのまま気を失いそうになった。
その前に確認しておかなければならないことを片付ける。
左腕に取り付けられた腕輪にそっと触れる。すると、メニュー画面が表示される。
ここに来るまでにメニュー画面の設定が使えなくなっていること、アイテムポーチ、マップ機能、ゲーム内通貨、時計機能、クラン機能は使用できることを確認できていた。その他の機能はどうなっているのか確認したかった。
-まずは、一番上の装備ボタンを操作する
すると...自分のアバターが立体映像化された。そこには、いま装備している武器や防具が表記されている。表記された装備の名前に触れると、その装備の説明や装備の変更ができるようになっていた。
仕様が少しばかり変更されていたが、装備の着脱、変更は出来るようだ。
-スキルボタンを操作する
すると...そこには《剣士》としか表記されていなかった。いま自分が取得しているスキルに関して一切の表記がなかったのだ。
...スキルがなくなった?
いや、それはあり得ないだろう。ここまで来るのにみんなが幾度となくスキルを使用していた。実際に俺も剣士スキルである《アクア・エッジ》を使用している。
...スキルという枠組みがなくなった?
これは十分に考えられると思う。スキルという枠組みがなくなり、自由に使えるものになった。つまり、スキルの取得上限数がなくなり、自分の職業以外のスキルも使用できるようになったということだ。
-試してみるか
宿屋の中庭に出る。
自分が以前、取得していたスキルを順番に使用していく。
《アクア・エッジ》、《ストレート・ライン》、《シャープ・クロス》、《インビジブル・ソード》。
【ストレート・ライン】
剣士用スキル。一直線に敵に目掛け、黄色く光った剣を突き出す。少し離れた相手に接近する際に使用するのが効果的である。
【シャープ・クロス】
剣士用スキル。紫色に光った剣をXを描くようにして切り裂く。二連撃。
【インビジブル・ソード】
剣士用スキル。装備している武器を透明にし、相手に視認されなくなる。
どれも何も違和感なく使用することが出来た。既に取得しているスキルに関しては問題ないようだ。
次に、ユウナが使用していた回復スペル《ヒール》を使用してみる。ヒーラーは多い方がいい。
「わ、我らに奇蹟の癒しを...ヒールっ!!」
...何も起こる気配がなかった。それから何度か試したものの、マジックポイントすら減ることがなかった。どうやら、他の職業のスキルは使用できないようだ。
なら、同じ職業のスキルは使用できるようになるのだろうか?
-試してみるか
「フレイム・エッジっ!!」
【フレイム・エッジ】
剣士用スキル。炎属性を付与する。
剣に炎を宿すイメージを脳内で作り上げる。すると、少しばかり剣が熱を帯び始める。それと同時に微かに震え始めた。...いまだっ!
-剣を突き出す
...が、一瞬で炎が消える。結果的に見れば使用できてはいないが、同じ職業のスキルは使用できる可能性がある。あとは熟練度、つまりは練習が必要だろう。
最後にもう一つだけ確認したいことがあった。それは...オリジナル・スキルだ。
スキルという枠組みがなくなったとすると、オリジナルのスキルも使用できるのではないかと思った。
...どのようなスキルが良いだろうか?
...どのようなスキルが役に立つのだろうか?
ベヒーモス戦を振り返ってみる。一瞬、吐き気に襲われたが何とか堪える。
みんながベヒーモスにやられたシーンを思い返す。
...攻撃...受け身...ダメージ...回避...防御...そうだ!防御系のスキルを考えよう。
剣で敵の攻撃を防ぐスキル。そんなスキルを作ってみるか。
それから考えてみたが、いいイメージが生まれてこない。
-スキルはイメージが肝心
先ほどの《フレイム・エッジ》のようにその名前の由来になるものをイメージする。フレイムは炎だから、炎のイメージを作る。エッジは刃だから、鋭いものや剣をイメージする。あとはそのイメージを崩さずに繰り出せば、スキルとして成り立つ。大抵の人はイメージまでは出来るが、それを維持することが出来ない。だから、熟練度というものが設けられていたのだ。
-今日は取り敢えず休むか
オリジナルスキルについて考えていると、いつの間にか辺りが暗くなり始めていた。
疲れているとき、無理に考えてもいいイメージは湧いてこないだろう。
そう考えた俺はシャワーを浴びて自室へ戻った。
...気が付くと意識は暗闇の中にあった。
-ここはどこだ?
四人で食卓テーブルを囲んでいる。テーブルの上には質素ではあるが美味しそうな料理が並べられている。
俺の向かいには髪を三つ編みに結んだ妹が座っている。妹の横には優しそうな顔の母親がいて、俺の横には眼鏡の掛けて穏やかな表情をした父親が座っていた。
どんな話をしているのかは分からないが俺以外、笑っている。
-急に暗闇に引き戻される
先ほどの温かい雰囲気とは、打って変わって冷たく暗い雰囲気に包まれた教室にいた。
先ほどと同様に周りが笑っている。俺のことを指さして...
男子の大きな笑い声に、女子達のクスクス笑い。それらが非常に不愉快だ。
-また暗闇に引き戻された
今度はリアル・ワールド内の風景だ。
ここは確か...夏音、雄大、東たちとよくピクニックをした奇跡の丘だ。
空気が気持ちよく温かい雰囲気に包まれている。俺も含め、みんなが笑っている。
...すると急に辺りが暗闇に包まれ、周りを見渡すとみんなが血を流して倒れていた。
俺はその光景から目を伏せるように両手で顔を隠した。その時だった...
『...ベチャ』
という効果音が聞こえた。
恐る恐る自分の両手を見ると...その両手は真っ赤な血で染まっていた。
自分自身の身体も血しぶきを浴びたように真っ赤な血で汚れている。
俺は受け止めきれない現実を前に...ただ、ただ、ただ、ただ、叫んでいた。
-いきなり意識が戻った
全身は汗だくになり、呼吸が乱れていた。
...汗か
仮想世界ではなかったものが、また増えた。
夢見た光景を忘れようとカーテンを開いた。すると、朝日が目に刺さる。あまりにも眩しくて目を細めてしまう。
俺の夢を、感情をあざ笑うかのように外は雲一つない晴天だった。
取り敢えず、顔を洗おうと中庭の井戸へ向かった。
井戸の前に誰かが立っていた。どうやら、先客がいたようだ。
俺に気が付いたのか、こちらを振り返ると挨拶してくる。
「おはよう」
「...おはよう」
と平然を装って返すが、あの光景のせいで顔を直視することが出来なかった。
「顔色が優れないようだな。無理はするな」
そんな俺の様子を見た東が心配をしてくれる。
一刻も早く一人になりたかった俺は東を避ける。
「...ああ。あとで話がある」
「わかった」
そう言うと東は去っていった。
恐らく何か勘付かれているだろう。それでも、あいつは無理には聞いてこようとしない。言ってくれるのを待つ。...本当に助けられてばかりだ...
東の優しさに何度救われたことだろうか?
東だけじゃない。夏音、雄大にだってそうだ。
...だから、余計にあの光景が鮮明に脳にこびりついているのだろう。
それから、少しばかり気持ちを落ち着かせてから、顔を洗い終わると食堂へ向かった。
食堂には既にみんなが集まっていた。東を見ると頷いた。どうやら東が集めてくれたようだ。
まずは腹ごしらえ。
そして、みんなが朝食を取り終わるのを確認したら昨日、確認したことと、俺の考えをみんなに伝えた。
すると、みんな同じように確認をしていた。
ただ、スキルの考えについては深く考えなかったようで俺の考えを真剣に聞いてくれ、考えてくれた。
...一人を除いて。
「...戦略の幅が広がるということか」
東が言う。
使用できる数が増えれば、様々な作戦もたてられる上に、臨機応変に対応できるだろう。
「...大変そうだな」
雄大が言う。
確かに名前や効果を覚えるのは大変だ。
「...もしかしたら、ユーリアの腕を...」
夏音が言う。
《ゴッドネス・ケア》以外にも見つかるかもしれない。
「...カズマとシュンを...」
ユーリアが言う。
蘇生スペルだってあるかもしれないし、作ることが出来るかもしれない。
「...この世界から抜け出せるかも」
ユウナが言う。
それについては...何とも言えない。
それから、あれこれ話し合った結果、スキルのことにしろ、この世界からの脱出にしろ、オーブのことにしろ、情報が少ないため、情報収集をすることにした。
まずは、フラヌイ村を中心に活動し、最終的にはギルド本部のあるTOKYOを目指すということになった。
先の見通しがついてきたため、みんなの表情も少し和らいでいた。ユウナは少し疲れ気味だったが...
「じゃ、まずはフラヌイ村およびフラヌイ村周辺の聞き込みね!...さぁ開始するよっ!!」
夏音の勢いの良い掛け声と共に聞き込みが始まった。
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