フラヌイ村編
第一話 隻腕の復讐者と修道女
「来るよっ!」
俺は剣を構える。
次の瞬間、その影が倒れこむ。月光がその影を照らし、正体を暴く。
「...ユーリアっ!?」
俺はその影の正体である女の子の名前を叫んだ。
夏音が急いでユーリアのもとへ駆け寄る。
ユーリアの容態は酷いものだった。利き腕である右腕は肩から先がなく、顔には大きな詰めの後があり、所々には火傷の痕があった。
「急いでみんなを呼んでっ!」
夏音の指示に従い、俺はみんなに知らせに行く。夏音は既に回復スペルの詠唱をしていた。
みんなに事情を話すとユウナが走ってユーリアのもとへ向かった。
東は追手などがいないか、単独で確認しに向かった。
雄大に野営地の警護を任せた。どうやら休息をとれたお陰で本調子に戻りつつあったようだ。それはユウナにも言えることだった。
俺は再びユーリアのもとへ向かった。
夏音とユウナによって治療が施されていた。出血は止まり、傷口も塞がりつつあったが...
片腕、顔に出来た爪痕、火傷の痕は残ったままだった。
一通りの治療が終わるとユーリアを担いでテント内に移動した。ユウナは付きっきりだった。
その様子を見届けると俺と夏音はテントをあとにした。
「...ふぅ」
息を吐く夏音。
「...どう?」
「...うん。取り敢えずは大丈夫かな。でも、傷痕と火傷の痕、それに右腕は...」
回復スペルは外傷や出血を治すことが出来るが、傷痕やなくなったものは再生できないそうだ。
「...高位の回復スペルなら、戻すことが出来るかも知れないけど...」
高位の回復スペルを使える人は今はいない。
シスターが使える回復スペルで《ゴッドネス・ケア》というものがある。だが、それを使えるシスターはほとんどいない。取得するために複雑なうえに高難易度のクエストをクリアする必要があるからだ。
【ゴッドネス・ケア】
シスターが取得できるエクストラスキル。神の祝福を受け、対象者の命および状態異常、体力を全快する。一日に一度しか使用できない。
【神の祝福】
あらゆるダメージ、状態異常を受けない。また、死んでも復活することが出来る。
「...それにリアル・ワールドには欠損することがなかった...」
言われてみればそうだ。
幾度となく攻撃を受けてきたが、腕がなくなったり、足がなくなったりと身体の一部が欠損することはなかった。シュンのときもそうだ。あの時は、そんなことを気にしている余裕がなかったため、気が付くことが出来なかった。
「そうだった...」
「...ユーリアには申し訳ないことをしたよね」
「...そうだね」
夏音の言う通りだ。
俺たちはユーリアを一人置いて行ってしまった。でも、それを間違いだとは思ってはいない。
あの時の彼女は復讐心に囚われた復讐者、アベンジャーそのものだった。
あのまま戦い続けていたら、もっと犠牲が出ていただろう。最悪の場合、全滅していた。
それから東が帰ってきて、雄大を含め、四人で今後の方針について軽く話し合った。ユーリアのことはユウナに任せることで決まった。
東の報告では追ってはいなかったということだったが、四人交代で見張りをすることにした。
-何事もなく朝を迎えた
目を覚ますと俺は真っ先にユーリアのもとへ向かった。
既にユーリアは目を覚ましており、ユウナと何やら二人で話していた。
出直そうと思い、テントから離れようとするとユーリアに引き留められてしまった。
取り敢えず、中に入ってくれと言われた俺は素直に従う。
「...どうだ?」
「すこぶる調子がいい。...これはないがな」
いきなりの自虐ネタを突っ込まれて反応に困る。
そんな俺を見ていたユウナがユーリアを叱る。どうやら、ユウナも同じパーティーメンバーが無事だったお陰で少しは元気を取り戻したみたいだった。それでもどこか悲しそうで虚しそうだ。
一応、まだ警戒をしていた方がよさそうだ。
「...みなに聞いてほしいことがある。集めてくれないか?」
ユーリアが真剣な眼差しで伝えてきた。
ユーリアから話があると、みんなを呼び集めた。
野営地の中心にみんなが集まる。
片腕を失くしたユーリアが言う。
「みな、聞いてくれ。私はベヒーモスを倒したっ!二人のパーティーメンバーと命と私の右腕を犠牲にして...得られたものは、これだ」
一瞬でみんなが驚愕した。8人で苦戦したベヒーモスを一人で倒したと言ったのだ。
夏音は信じられないといった様子で口元を押さえ、東は目を見開いている。雄大は何故か平然としていた。
信じらない...それは俺も同じ気持ちだ。間違いなく、逃げ、最悪の場合は戦死すると思っていた。それどころか...たった一人で倒してしまったのだ。
ユーリアの計り知れない強さに俺は恐怖心すら抱いてしまった。
みんなが驚きを隠せずにいると、ユーリアはポケットを漁り、透き通った綺麗なガラス玉を取り出した。
そのガラス玉がみんなにも見えるように空にかざした。すると、そこには《猪》と刻まれていた。
「ベヒーモスを倒したときにドロップしたアイテムだ。このアイテムの説明欄にはこう書いてある。...十二闘神の一つ《猪》のオーブ。十二のオーブを集めたとき、パーティーメンバーの願いを叶える...と書いてある」
十二闘神...ベヒーモスは猪...
どうやら、干支をモチーフとされているらしい。
ということは、あんな強いボスを残り11体も倒さなければいけないということなのか...
考えるだけで、心身ともに殺られそうになったので考えるのをやめた。
誰も発言しないことを確認したユーリアは続ける。
「...私は12のオーブを集め、カズマとシュンを生き返らせる。だが...手負いの私とユウナだけでは十二闘神は愚か、そこら辺の魔物にすら苦戦するだろう。だから...私たちを夏音のクランに同席させてほしいっ!!」
一つ一つの言葉に熱意が込められていた。
「...この通りだっ」
そう言うと片腕と両膝を地に着き、頭も地に付けた。いわゆる土下座っていうやつだ。
その光景を目のあたりにした夏音が慌てて顔を上げてと言う。
プライドが高そうな彼女が土下座までした。彼女の気持ちは本物だろう。
ユーリアを立ち上がらせた夏音は言った。
「...私たちこそ、ユーリアやユウナに取り返しのつかないことをしてしまった」
ユーリアの両肩に手を置く。
「...私の方からお願いしたい。ユーリア、ユウナ。私たちに力を貸してください」
ユーリアとユウナの目を見て、はっきりと言った。
夏音の言葉も同様に熱意が込められていた。夏音の言葉で、ユーリアとユウナは涙目になっていた。
そんな二人を夏音がそっと抱きしめた。
「「...ありがとう」」
小さな声でユーリアとユウナが囁いた。
-それから、野営地を片付け...
俺たちの目的地であるフラヌイ村に目掛けて出発した。
休息をとることが出来たお陰で昨日より歩く速度が上がっていた。これなら夕方前には着きそうだ。
道中、モンスターと何度か出くわしたが、この辺は低レベル層なので東の《デス・スピア》で即死だった。
そのお陰で足を止めずに進むことが出来た。
【フラヌイ村周辺の出現モンスター】
《ラベンダー》
植物型モンスターの仲間。紫色の花弁が特徴的。長く伸びた二本のツルを使って攻撃してくる。
《ウッドネス》
植物がた型モンスターの仲間。紫色の葉を付けた木型のモンスター。穏和な性格で自ら、プレイヤーを襲うことはない。
《カウ》
動物型モンスターの仲間。白と黒の斑点模様に大きな二本の角が特徴的。角を使った突進攻撃を繰り出す。
《ドロメラルド》
無形型モンスターの仲間。エメラルド色に輝く泥状の体が特徴的。目撃情報がなく、希少なモンスター。
結局、一度も休憩を挟まずに歩き続けた結果、昼過ぎごろに到着した。
フラヌイ村は大きくはないが自然に囲まれた、とても居心地の良いところだった。ここでなら心身の疲労を回復することが出来るだろう。
俺たちは空きのある宿屋を探すと、どこも空きがあり、最終的には村の真ん中にある宿屋にすることにした。
女性陣は一刻も早くシャワーを浴びたいそうにしていたので、男性陣で村の探索をすることになった。
連戦だった東には休んでもいいと伝えたが、ついていくと言った。
そんなに俺と雄大は信用できないのか...少しばかり悲しくなった。
一番最初に転移ゲートの確認をしに行った。途中で雄大がいなくなってしまった。
「...はぁ、期待したけどダメか」
安全圏内の転移ゲートは機能しているかと思ったが、安全圏内でも関係ないようだ。
こうなると恐らくは他の転移ゲートも機能していないと考えた方が良さそうだ。
遠方への移動は骨が折れそうだ。どこかへ移動する際には綿密に経路を考える必要があるな...
それにしても俺たちは幸運だったとしか言いようがない。
この村の周辺は低レベルのモンスターばかり。仮に高位のモンスターがうろついている地域だったら...
「取り敢えず、道具や武具屋の位置は確認しておこう」
ついつい考え込んでしまった俺を促すように東が言う。
「これ上手いぜ~!」
そう言いながら雄大が走ってきた。
片手にはソフトクリームが握られていた。
「ラベンダー味なんだぜ。初めて食ったわ~」
東は呆れていた。俺も同じだ。
でも、雄大のお陰でゲーム内通過は通常通りに使用することが分かった。
これでポーションや武具の購入・修繕等が行える。
オーブを集めるために情報収集しつつ、こういったシステム関係も確認していかなければいけない。
取り敢えず、やることが多いな...
-道具屋・武具屋、ギルド支部の位置をマップにプロットした
一通り村を探索した俺たちは宿屋に戻った。
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