第四話 仮想世界から現実世界へ
雄大とカズマは共にシールドバッシュを使う。
開幕と同時に前衛がベヒーモスのタゲをとり、後衛たちとのスペルの詠唱時間を稼ぐ。
俺とシュンはチャンスを見て攻撃をする。
東とユーリアは前衛の援護をする。
俺とシュンは前衛からスキル範囲の位置で攻撃チャンスを伺う。
東は大きく後方へ下がり、弓からの支援攻撃をするつもりだ。ユーリアは俺とシュンに攻撃力アップ付与するのスペルを使用しようとしている。
金属とツメが触れるたびに甲高い音が響く。そして、たくさんの火花が散る。
今のところ前衛は消耗していないようだ。
「我らの受ける傷を、悲しみを減らしたまえ...プロテクションっ!」
【プロテクション】
防御支援スペル。対象者の受けるダメージ量を減らす。対象者範囲に制限はないが、対象者が多いほど、その効果は減少する。
夏音がうけ防御支援スペルを使用する。
パーティーメンバーみんなの身体がオレンジ色の光に包まれる。
「我らに奇蹟の癒しを継続させたまえ...リジェネっ!」
【リジェネ】
回復スペルの一つで、継続的に体力を回復することができる。その回復量は使用者の熟練度と奇蹟力に比例する。対象者範囲は二人。
雄大とカズマの身体の周りに緑色の光の玉が漂う。
その光景を見て綺麗だと感じた。何度も見たことのある光景なのに...
何度か攻撃をはじいていると、ベヒーモスが疲れたのかダウンした。
それを見逃さなかった東が叫ぶ。
「ベヒーモスダウンっ!」
共に幾度となく戦ってきたが、東の洞察力は凄い。
俺とシュンは頷く。
「武を高める者に、技を高める者に、魔を高める者に、加護を...ポジティブ・エフェクト《アタック》」
俺とシュンの身体が赤く光った。
どうやらユーリアの攻撃支援スペルだろう。
【ポジティブ・エフェクト】
一定時間、対象者のステータス値を向上させる支援スペル。アタックは攻撃力、ディフェンスは防御力、マジックは奇蹟力・魔法力を向上させる。対象者範囲は二人。
それと同時に俺とシュンはスキルを発動させる。
俺の剣がオレンジ色に輝き、シュンの大きな斧が赤く光る。
「フレイム・エッジっ!」
「炎ヶ惨っ!!」
【アクア・エッジ】
剣士スキルの一つ。水属性を付与する。
【水ヶ惨】
バトルマスタースキルの一つ。水属性を付与する。
これまでの戦闘でベヒーモスは水属性が弱点だっていうことは把握していた。
だから、二人で弱点属性、さらに攻撃支援を受けた一撃を叩きこむ。俺の剣はベヒーモスの右肩に食い込み、シュンの斧はベヒーモスの左の脛辺りに食い込んだ。
次の瞬間、その傷口から鮮血が飛び、ベヒーモスがうめき声をあげる。その声が本当に苦しそうで妙に生々しかった。
「離れろっ!」
東が叫ぶと同時に紫色の弓矢がベヒーモスの左目を捉える。
彼の武器種スキル《デス・スピア》だ。
【デス・スピア】
武器種スキルの一つ。漆黒の弓の固有スキル。闇属性の攻撃スキル。また、下位レベルのモンスターを一撃で殺すことが出来る。
左目からもたくさんの鮮血が飛ぶ。
ベヒーモスは左目を抑え、またも大きなうめき声をあげる。
俺とシュンは大きく後ろへ後退する。ベヒーモスも同様に後退する。
恐らく、この後は目が赤く光りブレス攻撃がくる。
「ブレス準備っ!」
夏音が叫ぶとみんなが雄大とカズマの後ろに集まる。
パーティーメンバーみんなに夏音の《ヒート・レジスタント》の効果がかかる。
ユウナがみんなの体力を回復させる。
「我らに奇蹟の癒しを...ヒール」
【ヒート・レジスタント】
防御支援スペルの一つ。対象者の炎属性に対する体制を向上させる。また、火傷状態を回避させる。
対象者範囲はパーティーメンバー全員。
【ヒール】
回復スペルの一つ。対象者の体力を微量回復させる。対象者範囲はパーティーメンバー全員。
ベヒーモスの目が赤く光る。
そして、口元から炎が漏れ始める。間違いなく炎属性のブレス攻撃が来る。
ベヒーモスが大きな口を開けた。
「来るよっ!!」
夏音が叫んだ。
だが...次の瞬間...
-ベヒーモスが目の前にいた
大きく鋭い爪を振り下ろす。
凄まじい衝撃波と共に雄大とカズマが吹き飛ばされる。
俺たちも衝撃波に耐え切れずに吹き飛ばされてしまった。地面に強く叩きつけられる。
その瞬間、今までに味わったことのない痛みに襲われた。
「...ぐはっ!」
その痛みに、思わず、声が漏れる。
骨が軋み、頭からは血が流れていた。頭がガンガンと痛む。そして、その血は生温かった。
その痛みに耐えながら何とか立ち上がり、自分の体力を確認した。レッドゾーンには至っていなかったものの、かなりの量が削られていた。ポケットから回復ポーションを取り出し口にする。
飲み終わると周りを見渡した。すると、後方にいた東、ユーリア。それに夏音とユウナは既に立ち上がっていたが...前方で盾を構えていた雄大とカズマは倒れていた。
-まずい
あのままでは雄大とカズマは殺される。
何とかして彼らを回復させる時間を稼がなければ...と思っていた時だった。
無事だったシュンが雄たけびを上げながら一人でベヒーモスへ向かって行った。
「...おいっ!」
「大丈夫っ!時間を稼ぐだけだっ!!俺が死んだら、あとは任せるからなっ!!」
思わず叫んでしまう。
あんなのに単独で挑むのは不可能だ。
いや、そんな理由で叫んで止めようとしたわけではない...本当にこれは...
ゲームなのか?
仮想世界なのか?
「優真っ!援護をしてあげてっ!!」
夏音とユウナの方を見ると既に二人は回復スペルの詠唱を始めていた。
東とユーリアは各自で動き始めていた。
落ちている剣を拾おうとした時だった...
-仮想世界が現実世界になったら?...この世界での死は現実世界での死になるとしたら...?
先ほどのオプティマスの言葉が頭を過ぎった。
あのとき、俺は、あり得ないと否定した...でも、今は...否定できない。
土を踏む感触や頬を撫でる風、自然の匂い、遺跡の壁の質感、ベヒーモスのうめき声、生温かい血、リアリティーのある痛み。
今までの仮想世界では味わったことのない、現実世界と何も変わらない感覚だった。
もし、この世界が仮想世界ではなくなって現実世界そのものになっていたとしたら...
-俺たちはここで死んだらどうなる?
剣を拾おうとする手が震える。
膝すらも震えだした。遠くからは夏音たちの叫び声が聞こえる。でも、何を言っているのかまでは聞こえない。
やがて、俺はその場に座り込んでしまった。
キャーとユウナの叫び声が聞こえた。何があったんだろうと顔を上げると...
シュンの身体が真っ二つに引き裂かれていた。
裂け口からは、たくさんの血が噴き出し、臓器のようなものが飛び出していた。
その光景を目のあたりにした俺は吐いてしまった。
...吐く?リアル・ワールドでそんな動作はなかったはず...
不幸な事にパーティーメンバーの死のおかげで、俺は確信することができた。
-あぁ、これは仮想世界ではない現実世界なのか
そのお陰で多少なりと冷静さを取り戻すことが出来た。
『ごめんな、シュン』
と心の中で謝る。
落ちている剣を拾い、鞘に納める。この状況で戦ってはいけない。負傷者を救助して撤退する。
頭の中でするべきことを整理していく。
自分でも恐ろしいくらい冷静だった。人は吹っ切れると怖いと言うが正にこのことなんだろうなぁと思う。
「夏音とユウナは回復スペルの準備っ!まだ使用するなっ!」
大声で二人に指示をする。二人とも、状況を未だに把握できていない様子だったが返事をした。
「東は遊撃を頼むっ!。ユーリアは...」
俺が指示する前に既にユーリアは動き始めていた。
「...大事な時に剣を握れない者の指示には従わない」
彼女の言う通りだ。
だから、彼女の好きにさせることにした。
俺は倒れている二人の安否確認をしに行く。ユーリアと東が多少なりと時間は稼いでくれるはずだ。
まずは近くにいた雄大のもとに駆け寄る。アドレナリンが分泌されているのか、回復ポーションが効いているのか分からないが、自然と痛みは感じなかった。それに出血も既に止まっていた。
雄大のもとに着くと呼吸と心音の確認をする。ともに以上は見つからなかった。
恐らく気を失っているだけだろう。取り敢えず外傷を癒すために夏音とユウナに回復スペルを指示した。
長居はせずに直ぐにカズマのもとへ駆ける。
同じく呼吸・心音の確認をしたが共に止まっていた。恐らくは即死だろう。
自分の役目を果たした俺は叫ぶ。
「雄大は無事っ!。カズマは死んだっ!」
次の瞬間、そんなああああ、とユウナの叫び声が響いた。
ユーリアは一層攻撃の手が雑になったような気がした。
「みんな聞いてくれっ!恐らく、これは仮想世界ではない、現実世界だ。死んだら終わり...だから、撤退するっ!!雄大の治療が終わり次第、この遺跡から逃げるっ!!」
「...り、了解っ!?」
「...あとできちんと説明しろっ!」
どうやら夏音と東はなんとなく状況を把握できているようだった。
だが、ユウナとユーリアはそれどころではなかった。
ユウナは精神的ダメージを負い、抜け殻のようだった。
ユーリアは復讐心に火が付き鬼のような形相でベヒーモスと攻防を繰り返していた。
回復スペルが終わると雄大が目を覚ました。俺は雄大のもとへ駆け寄った。
「逃げるぞ」
それだけを伝え、雄大を立ち上がらせる。
回復スペルが効いているのか、鈍いが動くことが出来た。
「撤退するぞっ!!」
俺の叫び声と共に遺跡の入り口に向かって、雄大、東、夏音、夏音に引きずられながらユウナが走る。。
ユーリアは未だに戦っている。
あんな風になってはもう誰にも止めることが出来ない。それにユーリアは強いと聞いた。
だから、一人なら撤退することが出来るだろう。
俺たちは全力で入り口に向かって走り、全力で遺跡の通路を走り抜ける。
走りながら俺はふと思った。
-これから、どうなるのだろうか
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