第三話 再戦!ベヒーモス
夏音、雄大、東の後ろに見知らぬ四人がいた。
「優真~!彼らは今回のベヒーモス戦で一緒に戦うことになったパーティーの方たちよっ!」
夏音に、どうぞ、と言われると4人組が前に出てきた。
ここで補足なんだが、基本パーティーは最大8人まで組むことができ、レイドバトルでは16人まで可能だ。
爽やかな青年が一度お辞儀をする。俺はそれにつられて軽く頭を下げた。
「初めまして、僕はクラン《奇跡の出逢い》のリーダーを務めさせて貰っているカズマだ。今日は、よろしく頼むっ!」
奇跡の...もしかして、それがクランの名前なのか...
そう言えば、俺たちのクランには名前がなく空欄になっていたな...
気が付くとカズマに半強制的に握手をさせられてしまっていた。
少し馴れ馴れしいところが癪に障るが、根は良いやつそうだ。
リーダーのカズマが事故消化を済ませると、次々とパーティーメンバーが自己紹介をし始めた。
大きな魔女の帽子を被っているのがユウナ。
小柄な身体に大きな斧と不釣り合いな格好をしているのがシュン。
赤く長い髪を二つに縛っているのがユーリア。
「初めまして、俺はユウマ。今日はよろしく」
このときユーリアが俺のことを睨んでいることに俺は気が付かなかった。
それからベヒーモス戦までには多少の時間的余裕があったため、作戦会議を含め親睦会をすることとなった。
親睦会の席ではカズマたちの昔話を聞くことができた。
カズマとユウナは同じ学校の部活仲間で、シュンとユーリアはゲーム内で知り合ったようだ。
俺と似たような境遇で、ニュービーのカズマとユウナが困っていた時に助けてくれたのがシュンだそうだ。
それから三人で冒険を続け、ソロプレイヤーだったユーリアと出逢い、色々な出来事がありパーティーを組むことになったそうだ。
その出来事は、股の機会に教えてくれるそうだ。
...というかまた組んで戦うのかぁ
別に彼らが苦手というわけではない。優しくて親切な人たちだ。むしろ好感を抱いている。
だけど、今まで4人で頑張ってきたというのに、そこに新しくメンバーが加わるのは...あんまり嬉しくはない。
そこんとこは夏音も分かってくれているとは思うが...
外の空気を吸いたくなった俺は親睦会の席を離れた。
ギルド本部の外側にはカフェテリアがある。そこはとても静かな場所で俺のお気に入りの場所でもある。
俺はそこへ向かった。
窓際の一番奥の席に腰を下ろす。
「...はぁ」
大きなため息をつく。
先ほどにも思った通り、彼らと組むのはあんまり嬉しくない。
それは彼らの問題ではない俺たち、いや、俺の問題だ。
一年もプレイをしているのにも関わらず、俺は一向に上達する気配がない。
幾度となく夏音たちを危機に陥れ、迷惑をかけてきた。
俺はこのゲームに向いていないのだ。
-カズマたちにも同じような目には遭わせたくない。
だから、組みたくないのだ。
「...どうしたんですか?」
「うわぁあああっ!」
俺は驚きのあまり大声をあげてしまった。
なぜなら気が付かないうちに白髪の美少女が俺の目の前にいたからだ。
とても儚げのある少女だった。見つめれば見つめるほど吸い込まれていく不思議な雰囲気が漂っている。
「...ごめなんさい。驚かせるつもりはなかったの」
深々と頭を下げる。
「...それで何の用?」
いくら可愛くても見知らぬ人だ。
警戒は怠らない。といってもここは安全圏なので全ての攻撃無効だし、全てのダメージも無効になるのだが...
最近は女性プレイヤーを利用した詐欺グループもあると聞く。
「...いえ、特にこれといった用はありません。ただ、少しばかり悩んでいるように見受けられましたので声をかけさせて頂きました」
変わった子なと思った。
他人が困っている様子だから声を掛けるなんて、知っている人や見かけたことがある人なら未だしも...
「そっか、ありがとう」
心配をしてくれたみたいだったので、一応、お礼をお礼をしておく。
「このゲーム、難しいですよね」
「...えっ?」
思わず声を漏らしてしまった。
だって、俺が思っていることを目の前の少女が口にしたから。
まるで俺の心を見透かしているように感じられた。
「凄く現実的というか、とにかく難しくて未だに慣れません...」
と笑いながら話す。
俺も同じ悩みを抱えていたせいか、自然と頷いていた。
すると、頷く俺を見て微笑むと言う。
「まぁ、貴方もそうなんですね。...あっ!」
いきなり少しばかり大きな声を出す。
そんなに気になるような声量でもなかったが、恥ずかしかったためか口元を押さえて顔を赤くしていた。
わざとらしい咳払いをして話を続ける。
「...自己紹介がまだでしたね。私はオプティマスと申します。もし良ければ、貴方の名前を聞かせてもらえないでしょうか?」
オプティマス...
姿に似つかわしくない名前だなと少し感じた。
「俺は、ユウマ」
「...ユウマ、ユウマですね」
俺の名前を何度か繰り返すとオプティマスはまた微笑む。その顔を見るたびに何故か優しい気持ちになれた。
そして、それからは少しだけ会話を交わした。オプティマスとの会話は酷く居心地の良いものだった。
いつの間にか、そう感じていた。
時刻を確認するために、左腕に付けられた腕輪をそっと触れる。
すると、メニュー画面が表示された。新着メールが3件来ていた。開くと、全て夏音からだった。
どうやら、先に遺跡へ向かうということだった。
まだ少し余裕があるのに...相変わらずせっかちな人だと呆れる。
「もう行かれるのですか?」
本当は行った方が良いのだろうが、俺はまだオプティマスと話したいと感じていた。
同じような悩みを抱えている人に出逢ったのは本当に久しぶりのことだった。
こんな機会はなかなかない。
「いや、大丈夫」
そう答えると少しばかり嬉しそうにしていた。
「そうですか、良かったです」
また微笑む。
「まぁ、そう言ってもベヒーモス戦まで時間はそう長くはありませんね...」
今度は悲しそうな、寂しそうな顔をする。
なんとまあ感情表現が豊かな子なんだろう。東も見習ってほしいものだ。
「...最後に一つだけ、お聞きしても良いですか?」
そう言うと身体を前に乗り出してきて俺に近づく。
そして、小声でこう囁く。
「ユウマさんは、ゲームが、仮想世界と現実世界の見分けをどうやって付けますか?」
唐突な質問に答えられずにいた俺に、さらなる追い打ちをかけるように質問をぶつけてくる。
「仮想世界が現実世界になったら?...この世界での死は現実世界での死になるとしたら...?」
などと訳の分からない質問をぶつけてきた。
何も考えずに、俺はこう答える。
「...そんなこと、あり得ない」
答えを聞くと席に戻る。そして少し乱れた衣装を整える。
「...そうですか、そうですよね」
最後もまた微笑んだ。
だけど、言葉じゃ説明できな違和感に包まれた笑顔だった。
それじゃ、といって俺は席を立つ。
「ええ、また機会がありましたら...お話、しましょう」
その言い方が何か含みのある言い方だった。
席をあとにした俺は転移ゲートへ向かった。
「...あり得ない、か。ユウマ、面白い少年だ。...強く生きろよ、少年...」
転移ゲートに向かって走る少年の後姿を眺めながら誰にも聞こえないような声で言う。
-ベヒーモス遺跡
それから転移ゲートでパーティーメンバーのところへ転移した俺は夏音たちと合流していた。
遅れてやってきた俺は夏音に、「どこで油を売っていたのっ!?」と怒られてしまった。
そして、俺たち一行はベヒーモス戦用に設けられた特別な遺跡へ向かっていた。道中は敵がポップすることはない。だから準備万全で挑むことが出来る。その代り、ボス自体がとてつもなく強いのだが...
遺跡の前に着くと改めて作戦会議が行われた。
「前衛は雄大とカズマ。その後方に優真とシュン。私とユウナは後衛。基本的に東は後方支援で、ユーリアは前方支援。みんな、よろしくねっ!」
いまさらだが、このクエストメンバーはバランスが良い構成になっている。
雄大はタンク、カズマはパラディン。俺は剣士、シュンはバトルマスター。夏音はヒーラー、ユウナはシスター。東はアーチャーで、ユーリアはアベンジャー。
8人時の基本フォーメーションである、2-2-4(前衛4人、支援2人、後衛2人)が出来ている。
みんなが頷く。
「...よし。それじゃ行くよっ!」
夏音の掛け声で雄大とカズマを先頭に歩き出す。
遺跡の入り口をくぐろうとした時だった...
-なんだろう
特に理由もないのだが不思議と変な違和感を抱いていた。
恐らく、オプティマスが変な事を聞いてきたせいだろう。でも、多少なりと空気が違うと言うか...
土を踏む感触や頬を撫でる風、自然の匂い、遺跡の壁の質感。それらが酷く現実味を帯びたものになっていた。まるで、ここが現実世界のような...
-そんなこと、あり得ない
俺は心の中で叫んだ。
それと同時に雄大とカズマが叫んだ。
「「ベヒーモスだっ!」」
みんなが一斉に戦闘態勢になる。
遺跡の通路を抜けるとコロッセオみたいな広い闘技場が現れた。
そして、その奥にベヒーモスが待ち構えている。
「それじゃ...みんな、やるよっ!」
夏音が叫ぶ。俺たちもつられて雄たけびを上げる。ベヒーモスも雄たけびを上げた。
それが開戦の狼煙となって...
俺たちとカズマたちの合同パーティーによるベヒーモス戦が幕を開けた。
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