マズロー

2019/11/02 02:26

 エスメラルダが言っていた男。

 街には気配が無く、死霊の降霊術を広範囲に敷いた事で

 降って湧いた人々の喧噪が街に活気を取り戻した。

 ルーパートの魔力で魂は失われた骨となり、筋肉となり、そこに神経が走り、脳が形成され、疑似形成された臓器が機能するように指示を出す。

 それらが骨にまとわりつく形で魂が定着するのである。

 魂に刻まれた生前の生体データを元にシミュレートされた疑似人間だ。

 そうして疑似的に生み出された人間は記憶を持っている。

 死ぬ数日手前の記憶を。彼らは自分が死人だった事を認識しない。

 魂に刻まれたデータが死亡した時点に到達すると、肉体は骨に帰る。

 ルーパートは骨に帰る瞬間を見るのが、何よりも苦痛だった。


 事情を知らない人間が肉体の急速な衰えに怯えながら憔悴し、やがて骨に帰っていく。魔力を失った肉体はVHSのテープを巻き戻すように少しづつ魂へと形を変えていく。


 ルーパートは地上の様子を窺おうと階段に踏み出した時、銃を構える音が聞こえた。こちらにそれと分かるように所作の衣擦れや銃を抜く音を出している。

 前方の暗がりに一人の男が立っている事に気づいた。

 

「見ない顔だな」

「観光に来たんだ」

「ここがどこだか知っているのか?」

「迷い込んだんだ。 教えてくれないか」


 壁面の小さな窓枠から延びている月明かりが声の主の顔を照らす。

 消え入りそうな微々たる光は彼の表情を暴くには至らなかった。

 ただ、青い二つの眼が僅かに輝いていた。

 月の光を受けて発行する瞳。魔法使いである印だった。


「迷い人が何故隠し部屋の奥を彷徨いているんだ?」

「迷い込んだからだ」


 沈黙が二人を包んだ。時間が止まったようだった。

 ルーパートはこの男がエメルが話していた男、ネイサンだと確信した。

 青い眼の魔法使い。未来を見る男。


「ネクロマンサーか」

「未来で俺がそう言ったか?」


 青い眼が細く歪んだ。

 動いた感情に畳み掛けるように言葉を繋ぐ、考える時間は与えない、未来を見る時間もだ。


「ネイサン=シーモアだな? エメルいや、エスメラルダの連れだ。色々任務があるがお前を連れてサンエスペランサに帰るのもその一つだ。一緒に帰るぞ」

「エスメラルダは?」

「別行動を取っている」

「・・・・・・」


 ルーパートは沈黙の意味を考えた。

 こいつは生き霊(ゾンビ)なのか、本当に生きた人間なのかをだ。

 ルーパートの術式は発動してしまえば、それは分からない。

 死んでいたのならば、ネイサンをエメルに会わせる前にタイムリミットがある事を事前に伝えておかなければならない。

 最初から死んでいるのが分かっている事と、生きている事は違う。

 エメルに後悔はさせたくない。


「余計な事をしてくれたな、ネクロマンサー」

「・・・・・・!?」


 ルーパートは想定外の言葉に嗜好がもつれて二の句を繰り出すタイミングが遅れた。それがネイサンに未来を見る隙を与えてしまったらしい。

 あるはずだった未来でルーパートから何かを聞き出しているようだ。


「分かるように話せ。端折られると何の事かわからない」

「死霊の降霊魔法を街全体にかけた事だ! くそっ」

「・・・・・・何か、あるのか? エメルの話だと彼女が追い立てられる前は平和だと聞いていたが」

「エスメラルダは何も知らないんだ! まさか帰ってくるなんて・・・・・・」

「言え!! 何があった!!」

 ルーパートは苛立ち混じりの声を上げた。

 地下にゆっくりと羽毛のように地上の喧噪が降りてくる。

 非常事態を知らせるようなものではなく、日々の生活を楽しんでいる平和な音だ。


「これから街が死んでいくんだ。均衡が保てなくなって! 術を解け! ネクロマンサー」

「断る。この街(ウッドロッド)が外に影響を持っている事は未来の俺から聞いたか? その調査も任務の一つだ。この魔法に二度目はない」

「お前を殺して術を解いてやる」

「俺が死んでも魔法は解けないぞ」


 ネイサンは地団駄を踏んでいる。

(冷静沈着な男じゃないのか?)


 エメルの話と大きく違う。ルーパートの前にいる男から余裕が感じられない。


「術を解いてくれ、お願いだ。もう、あんな地獄は見たくないんだ・・・・・・」

「ここの外も地獄になりかけた。お前等が死んだ後に何らかの副作用が出ている。見届ける必要があるんだ。お前はいつ死んだ? 最後はどうなった」


 ネイサンの話から考えて十中八九、彼は死んでいると当たりをつけた。

 エメルと別行動を取った事はベストな選択だった。

 彼女にとっては残酷な話をしていて、これからより残酷な現実へと近づこうとしている。聞き役は思い入れのない自分が最適だとルーパートは思う。


「さぁ? 死んだつもりもなかった。何せ、仲間とはぐれて俺一人。生きるのに必死で、何度か気を失いながら生き延びたんだ、今だって俺はそのつもりだぜ?」


 ルーパートは彼の言葉から真意を読みとろうとしたが

 それよりも優先すべき事があった。


「術を解けという事は、街を地獄に変えた問題児がいて、お前はそいつが死んだ事は見届けたんだな? その時の事を教えろ、今は魔法オタクの私と二人。何とかなる」


 魔法オタクとは言い得て妙だとルーパートは思った。

 街にかかった魔法が解けるまで、ただの人間になってしまっている。

 ネイサンを頼りに散策を続けた方がいい。



 未来を体感する。

 起きてはいないが本人んいとっては現実。

精神に負担

2019 11 09 03:50


2019 11 14 13:20


ルーパートとマーク

エメルとデル


ルーパート、先に立ち入り死者を生き返らせる。

エメルに気をつかう。

CIA のデルに疑惑

ネイサンを始末する

証拠隠滅


デルは工作員として前線に出ていたが

仲間がつかんだ偽情報で無実の人間を何人も手にかける

嫌気がさして情報部へとテンゾクするように働きかける


故郷へ帰る前段階で政治絡みで揉めているような状況。

ウッドロッドは静か。

罠や菜にかを恐れて隠れている街人、なにかをきとしている

かのうせいあり。

敵の予定を崩すために死人を生き返らせそれらに紛れてウッドロッドへルーパートとマークは潜入する。


魂の情報にアクセス。

記憶と肉体

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