敵の設定

2019/10/15 15:15

 前回の交易任務以来の、予定外の帰郷になった。

 カーリンは初めて帰郷した日の事を思い出す。

 外に逃れるために、ドブネズミどもを殺しながらサンエスペランサを目指した。





 カーリンはこの街<<サンエスペランサ>>が大嫌いだった。

 街は彼の思い出の中の様相を嫌うように、過去を否定しすっかり様変わりしていた。瀟洒な一戸建て、お洒落なカフェ、賑やかな観光客に、陽気な住民、しばらく   ストリートを歩くと、高層ビルの森が太陽の光を反射して輝いてた。

 人がいなくても街は生きていて成長する、少数の行方知らずなどは特に必要ではないのだ。カーリンは家電売場のテレビをみた。

 誰も彼もが、彼らの存在を気にしてはいなかった。

 


 姿をくらまして後、両親を探して駆け回った。

 かつての実家は何も変わっていなかった。

 彼の顔は自然にほころんでいた、『ここだけは違う』。

 駆けだしていた、心臓が高鳴り、耳の側で鼓動が響いているような感覚。そして、その時は来た。


 彼の期待はみるみる萎み、失望が胸の中を彼の知らない色でグチョグチョに塗りつぶす。両親は、皺が増え、少し腰はまがっていたが---。

 カーリンを素通りした。


 命の危険を切り抜け、苦労を













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 カーリンは両親の血にまみれた顔面を洗いに、バスルームへと向かった。そこに映った顔は不安定にゆがんでいた。

 塗りたてのペンキが壁面を流れていく軌跡のように。

 眼も鼻も口もグニャグニャで、顔の上に指を滑らせると顔のパーツが固定されはじめ、誰か分からない人間の顔になった。殺めた人間の血を浴びるほど、面のカワが厚くなってゆく。カーリンは自分の顔も思い出せなかった。


 別に自分が何者でもかまわないが、これではウッドロッドには帰れない。ある顔だけは固定できるように、血化粧を施す練習をした。

 子供の頃、祈りだの神だの、必ず救われるだの嘘を教え込んだある男の顔だった。何重にも犠牲者の血液を塗りたくった底がこの面だ。


 ウッドロッドへは別人として帰還した。

 

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 魔女の呪いは彼を強くした。


 聖職者の顔の下にある、真実をエスメラルダは暴いた。



 ウッドロッドへの道は閉ざされたままだ。

 ネイサンか、その姉が巧く立ち回っているのだろうが

 直に扉は開く。自給自足が成り立たない街だ。

 飢えと渇きで必ず扉は開かなければならない。


 生贄を捧げるための宣誓に、儀式、それらを正当化する法典作り

 全てが人殺しを正当化するための詭弁だ。

 

 街は人を食べる。

 人を食べる事で、望む天候、ご馳走、入植者、異邦人、武器、道具、家畜、麻薬、音楽、芸などが得られる。

 問題は誰が食べられるかだ。


 それらを正当化するまでが骨が折れた。

 醜い殺し合い。そうして、殺し合いに疲れて残ったものが

 自分たちが引くことのない、誰かがはずれクジを引く仕組みを作った。


 常識で街を覆い、はみ出しものは街に食わせる。

 もちろん、その常識は生き残った人間に都合の良いものだ。

 法、儀式、存在しない神に祈る作業、その全てが殺しに至るまでの詭弁だ。不思議なものだと思う、手順を踏めばどの殺しにも罪悪感が無くなってしまう。

 ネイサンなどはまだ人間のつもりでいやがる。

 ヤツが何人殺してきたか知っている。俺達は共犯者だ。

 

 カーリンは根本的には誰が犠牲になってもいいし、誰が残っても変化はないと考えている。

 


 カーリンは店を出て、向かいの廃ビルの間から表に抜ける高笑いに耳を立てる。中毒者。LSD、脳の空間認知が狂って空を飛んでいるような感覚になっている。この通りは夜になると警官も滅多な事が起こらない限り、パトロールはしない。仲間意識が強い連中の縄張りで、一人二人が法や力で威張った所で、ここでは微々たる強がりになる。たちまち袋叩きになるのがオチだ。

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