シーン7

2019/10/15 22:52

(病院:自室へもどる)

 マークがパイプ椅子に腰掛けて腕を組んでいる。

 エスメラルダが戸を開けて入ってきたことに気づく。

「待ってた」

 エスメラルダはマークが怖い。

 警戒している。(強気に出る:内心、怖い)

「何でしょうか?」

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 簡単な自己紹介。

 エスメラルダもそっけなく。


 マークはこれからの予定について話す。敵意が無いことも。

 エスメラルダは視線をそらす。

 

 エスメラルダは試すように、おそるおそる、街(ウッドロッド)で

 タブーとされている言葉を使った。

 マークはきょとんとしている、反応はなし。

(街の秘密を聞きたがっている事を察して強気に出た)


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 エスメラルダはこの世界についての身の振り方を知らない。

 強い女性の仕草は映画で覚えた。

 強くなった気がして、内から力湧いてくる。



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2019/10/15 22:59

(カクヨム内、12日分より)

 自室へ戻るとマーク・シルベストリ(変える予定)がいた。

 パイプ椅子に座って腕を組んでいる、いつもの事だった。

 エスメエラルダが病院内を散策している間、こうして彼女の病室に座り込んでいる。

 珍しく彼が声をかけてきた。

「    」

 エスメラルダはいぶかしんだ。いつもなら、一言行って、外へ出て行く。

「    」

(明日の予定を話す)

「映画好きか?」

 エスメラルダは小さくうなずいた。

 マークの仏頂面が少し和らぐと、張りつめていた空気が少し緩くなった。

 彼女の側には堆く積まれたBDやDVDのケースがきれいに並んでいた。

「そうか。お前が気に入りそうなものを皆で選んだんだ。

そうか、それを聞くと皆、喜ぶよ」

 彼はまるで我が事のように、静かに喜んでいる。

 エスメラルダは少し安心した。相手の秘密を暴かなければ、この喜びが憎しみに一変する事はない。詮索しなければ事なきを得られる。

「お話とは?」

 マークは一瞬、いぶかしんだがニヤリと笑った。

 この世界の振る舞いがわからないので、映画を参考に考えた。

「007か?」

「いや」

「そんな感じだったぞ。クールで、それでいて品がある。セクシーって奴だ」

「私はジョン・マクレーンのつもり・・・・・・」

 そこまで言いかけてエスメラルダは顔が熱くなった。

 マークが声を出して笑った。

「結構な、おっさんじゃないか」

「強くなりたかったから。どんな酷い事でも笑い飛ばして戦う、そういう所が。この世界では強い人はあんな感じなんでしょう?」

 マークは頷いた。

「強くなりたいのか?」

 エスメラルダは少し考えて、ええと答えた。

「大事な人を助けにいきたいから」

「・・・・・・じゃあ、俺の前ではマクレーンでいろ」

「はっ!?」

「マクレーンがいると俺も心強いよ、いや、皆、元気がでる」

「ははは・・・・・・そうだと、いいな」

 映画の話題で、部屋が和んだ。


「話がそれてしまった、悪い。明日、ジェイコブも連れてサンエスペランサ内を案内したい」


 エスメラルダは窓の外へ目を向けた。遠く、闇の中で色とりどりの光が賑やかに動き回っている。焦りが募る、観光などしている場合ではない。そんな感情をマークは読みとったのか、


「・・・・・・すまない。どこかに潜伏する必要が出てきた、俺とジェイコブはそのための護衛だ。女性スタッフも勿論、いる。身の回りの事は彼女にお願いする事にした」


「カーリンが、あの男がいるんですね」


「ああ」


 エスメラルダはマークの顔を見た。

 いつもの仏頂面、窪んだ眼窩の奥で鳶色の瞳がここにはいない悪魔を追いかけ続けている。強い目だった。

 彼女が病院にいる間、外で何かが起こったらしい。

 エスメラルダは何も言わなかった。

 マークが椅子を立った。


「あの、この世界で何か禁句のようなものはありますか?」

「・・・・・・ある」

「それは映画の中には・・・・・・」

「ほとんどないな。そういうものを選んでいるという事もあるが」


「世界、と言われると口にしてはいけない事はたくさんあるが、FBIに関しては特別に禁句は存在しないと伝えておく。何でも話してくれ」


 私が犯罪者でも、と言おうとして止めた。

 エスメラルダは馬で追いかけてくる語り部を銃で撃った。

 神の槍だと思っていた頃は相手の命まで気にかけなかった。

 ジェイコブの話を聞く限り、マークの行方不明の娘は足が不自由で、金髪という事だった。語り部は歩けない、馬に乗っていた時、上体だけでバランスをとりながら必死にしがみついていた。


 彼女は追いついた所でエスメラルダやネイサンに何もする事ができなかったはずだ。彼女も一緒に逃げたかったのではないか、今はそう思う。

 あの時はネイサンに促され・・・・・・いや。


『あの女は一緒に来て欲しくなかった、そうだろう?』


 頭の中で、誰とも知れない声がする。

 この国で言う、クールな物言い。エスメラルダの知らない知識を有し、カーリンとの戦いでエスコートしてくれた声。

 別人が自分の中で生きているようだった。


『私は、あなたの娘を撃ったんです・・・・・・言わない方がいい、今は』


「お前はマクレーンだろ?」


 エスメラルダは我に帰った。


「彼は仲間だ。仲間を手にかけるような事はしない」


「・・・・・・はい」

 エスメラルダが無理に作った笑顔は惑いがぬけ切れてはないなかった。

 

「マクレーンはそんな返事はしないぞ」

 マークはおどけたように、人差し指をつきだして旋回させた。

 彼は病室を後にした。


 いずれ話す時が来る。

 その時は、それでも彼は、笑っているだろうか。

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