補足:背景(設定シーン)
語り部がエスメラルダに声をかけた。
「最近、私の話を聞きに来てくれないわね」
その声には含みがあった。
「飽きちゃった?」
向けられた笑顔には否定を許さない脅迫めいた感情が裏に潜んでいるような気がした。
「う、ううん。全然。毎日でも聞きたい、でも……」
「でも?」
「私もあなたみたいな語り部になりたい……と思って」
「だから、本にご執心なのか。でも、あなたが語り部をやると美味しいパンが食べれなくなる。それは残念だな」
「仕事はします!! でも、お話する仕事にも憧れます」
「皆の前で語って聞かせるのが好き? それとも『誰かに』?」
重圧のある問いに、動悸が早くなる。エスメラルダは答えを慎重に考慮した。
彼女が何かを言う前に、 が口を開いた。
「最近、
「物語を語って聞かせるには声量も必要だし、現実の不思議だったり、おかしかったり、残酷だったり、感動的な話を小さな子にもわかるように聞かせる方が迫力が出るわ。例えば私は小説の内容を
「千一夜物語の概要はご存知?」
エスメラルダは頷いた。
王様が女性との一夜に満足できず、殺してしまい、とうとう国中から女性がいなくなってしまった。そこへ二人の姉妹が現れ、千日と一夜、王様の興味を物語で引き続け、最後には改心させるという話だ。蠱惑的ではあるが、不思議で魅力に溢れた異世界の物語で、魔法や妖精がたくさん登場する。語り部はこの物語をかみ砕き、小さな子供にも性的な部分をうまくアレンジして語る。
「私はシャハラザードの語る物語の登場人物になりきって、創作する。夜の教会の階段に佇み、心を無にして耳を澄ませる。すると、不思議な出来事に浸る事ができる、物語の深層へと沈み込み、夜の空気と虫の鳴き声がムードを奏でる。すると、教会の地下で王様とシャハラザードが夜な夜なお話をしている幻想を垣間見る。インスピレーションがジンのように体から飛び出て、意識だけが地下の世界へと降りていき、生で語られる物語に耳を傾ける……」
「……いいですねぇ」
エスメラルダは今の話でも情景が浮かんで、しばしその感覚に身を任せていた。
彼女はいてもたってもいられなくなり、語り部に礼をいい、自分もやってみると言った。彼女は夜になるのが待ち遠しかった。教会へ。インスピレーションを受けに。
(業火に焼かれる幼馴染。唖然として見つめるエスメラルダの後ろを語り部が車椅子で通り過ぎていく。(ネイサンが押している))
「(あなたならこの物語をどう語り聞かせるかしら)」
背中にかけられた声はとても小さく、ひょっとしたら聞き違いかもしれなかった。
エスメラルダが振り返ると、語り部の背中は遠い場所にあった。
処刑場で指揮をとっている男たちの背後で、悠々と立っている長身の司祭と目が合った。次はお前だと言われているような。
エスメラルダはウッドロッドしか知らない。
外の世界は無限の荒野だと聞いている。その果てに街があり、交易隊が出かけていく。とても女一人で生きて出かけられる場所ではない。
秘密を知る事で彼女の世界が一転した。
エスメラルダは孤独の世界で一人、立っていた。
当たり前だった世界から色が無くなっていく。全てが灰色に変わる街を彷徨う。
(あなたならこの物語をどう語り聞かせるかしら)
頭の中で意地悪な声がする。
決まってる。
彼なら物語の先に連れて行ってくれるかもしれない。
最後の望みをかけてエスメラルダは走った。
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(語り部はエスメラルダの目的がネイサンだと思っている。
ネイサンは自分の弟分だが、こそこそしているのが気に入らない。
街には秘密があり
(エスメラルダは語り部になりたいと思っている。
ネイサンが気になりはじめている)
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