エスペランサ

2019/09/24 00:09

 エメルは窓から差し込んでくる日差しの熱で目が覚めた。

 外で小さな鳥の鳴き声がする。

 窓から顔を出すと、傾斜路が彼方に小さく見える海に向かって伸びていて、他にも横に斜めに巡る道がたくさんの家々を区切っている景色に見とれた。屋根の稜線が色鮮やかな階段に思える。全てが見たことの無いものばかりだった。

 中でも息を飲んだのが、海の上を巨大な要塞のような橋が陸地と陸地を繋いでいる事だった。

(行ってみたい)


 好奇心が押さえられないが、まずはこの街での生活を安定させる事を優先しようと考えた。シルヴィアに会い、彼女がエメルに怯えるのを見て初めて自分がゲストである事を自覚した。

 命懸けで必死に逃げてきた、まだ完全には逃げきれていない。

 保護してくれるFBIを警戒しているのも、エメルが怯えているからに他ならない。得体の知れない突然の来訪者に怯えるシルヴィアも同じ気持ちなのだろうか。


(魔法ねぇ・・・・・・)

 

 エメルは人差し指をくるくると回し、えいっ、やっ、とかけ声を交えて部屋のあちこちを差しまわった。本やお菓子を魔法で中に浮かしたり、何かに変える事を念じながら。部屋の姿見に映る、奇妙な踊りに夢中になっている自分の姿を見た。コンマ5秒でベッドに戻り、火照る顔を手で扇いだ。

 

 エメルの街で、人々を苦しめた魔女の眼は月の光を受けて緑色に輝いていたと  婆さんに何度も聞かされた。家族のように仲良くやっていた人々の憎しみの眼は二度と忘れる事はないだろう、魔女は単なる嘘や噂話ではなく、本当にいた。でなければ命まで取ろうとは思わないはず。


(シルヴィアを誘拐したのも同じ魔女なのかな)


 カーリンの存在も気になるが、魔女の正体を突き止めれば元に戻る方法があるかもしれない。故郷に戻り、また昔の平穏な街の暮らしに戻る事が。ウッドロッドで暮らした十五年には愛着と安心があった。

(家に帰りたい・・・・・・)

 街の人達に追われていた時の光景が高い壁となってエメルを阻む。

 思い出すと体が震えるのが分かる、怖いのだ。

 シルヴィアと仲良くなりたいと思う。

 ジェイコブと話したり、絵を書くと不安が和らいだ事を思い出した。

 自分も恐怖を抱えている事、攻撃する気もない事をお互い話せばすっきりするはずだ。

 彼女に安心してもらいたい。


 街の人達とも上手くやれる希望にもなる、原因は緑色の瞳なのだから。

 問題はどうやって信頼を得るかだ。


----(別の場所にいれて読みやすくする)-----

 エメルは考えるのが苦手だった。横にネイサンがいれば良い知恵を出してくれるはず。まずは、彼を助け出すのが先決だった。


ーー(この文は別のどこかにいれる)------

 深手を負ったカーリンはこの街のどこかにいる。彼の乗ってきた馬もFBIに繋がれているし、ウッドロッドにはまだ帰っていない

 ネイサンの処分を下す異端審問会の審問官であるカーリンが戻るまでにFBIの助力を得て街に戻る(動機1)

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(信頼かぁ)

 エメルはドアノブに蔓のように絡みついた針金の玉を見た。

 負けん気が強い自覚はあるが、本音は別の所にでてしまうなぁと思う。


「エメル、出かけるぞ」


 階下から大声でマークとジェイコブが呼んでいる。

 返事をした後、出かける準備をして一階へ行くまでに針金を解くのと、尿意との戦いが思っていたより長引いた。FBIの二人が駆けつけたが、為すすべはなく、尿意に急きたてられパニックになるエメルと、事情を知らず焦るマークが喚き散らす中、ジェイコブが提案した窓から進入してエメルを救出する策を実行した。

 二階の窓から垂れるロープを掴んだマークに小脇に抱えられながらエメルは部屋を出た。

 この話はFBIサンエスペランサ支局に広まり、エメルの行く先々で笑い声が絶えなかった。

 

2019/09/24 02:25


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「あれ?」

 上手く針金が外れない。一つ一つ解いていくが、より複雑に捻れあい、混じり合い、薔薇細工のような花を咲かせた。

 強引にドアノブを引こうとするが、動かない。ドアを前後に揺すった。

 ビクともしない。体を何度も揺すると、



「何で針金なんかでロックしたんだ!!!」

「寝てる間に入って来られないようにですよ!!」

「馬鹿!! 入るわけないだろう

「信用できない!! 早く!! 助けてください、お願いします!!」

 ドンドンドンドン!! 

「駄目だ、どうにもならん」

 ジェイコブの穏やかな声はエメルに残酷な余韻を残した。

「早く針金ほどけ! 下で待ってるからな」

 マークの声は呆れて物が言えないといった感じだった。二人の足音が遠ざかっていく。

「ちょっと、ちょっと、ちょっと! 待って」


「何だ?」

「事は一刻を争う・・・・・・」

「わかってるなら早くしてくれ」

 エメルは高速でドアをノックし続けた。

ドンドンドンドンドンドン!!(言わせるな、気づいてくれ!!)

「このノックはただ事じゃないぞ」

「病気か? 持病はないと聞いてたが。まだ直ってない怪我が痛むのかも。おい、エメル何か言え」

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