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2019/09/23 02:29

(サブテクスト)

 ジェイコブは顎をさすって何事か考えていた。

 エスメラルダは落ち着かなかった。ソファに座り、先程初めて出会ったシルヴィアという女の子の事を考えていた。

 恐怖と命の助けを請う青い歪んだ眼をしていた。

 見覚えがあった。故郷を出る時に、そんな眼をした人々が後に、顔を俗悪な絵画に描かれる悪鬼と変えて襲ってきた。


 マークは床に座り込んでうなだれている。

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 ジェイコブが口を開いた。彼は窓の外を見ている。

「シルヴィアからは事件について何も聞き出せなかった。怯えて、震えが止まらず、最悪痙攣し、卒倒する事もあった。体を拘束されて暗闇の中で放置されていた。点滴をつけて。無理もない」

 エメルを見た彼女の反応がそれに似ている事が気になった。

 いや、もっと酷いかもしれない。

「二人とも落ち着くまでにはもう少し時間が必要みたいだな」

「私は落ち着いてます」

 エメルが毅然と言い張った。ジェイコブは顎をさすって何やら考えながら、彼女の眼を見ていた。

「気になるか? シルヴィアの態度が」

「・・・・・・ええ」

「例えば・・・・・・具体的に教えてもらえるか?」

「私は故郷を追われました。カーリンだけではなく、街の人々、子供を除いた全ての人に」

 ジェイコブとマークは顔を見合わせた。初めて聞く話だった。

 それなら、敵はサイコパスだけでなく、複数人いる組織犯罪になる。

「街の人々に追われたという話は初めてだな、エメル。カーリンだけじゃなかったのか?」

「街には緑色の瞳をした魔女の言い伝えがあるんです。彼女は魔法をかけて他人の体の中に住み着いてしまう、永遠の命を得るために。体は死んでも他人の中で生きるんです、それを恐れて・・・・・・」

「そんな馬鹿な話で、命までは取らないだろう」

 マークはエメルにではなく、この場にいない誰かに向かってなじるように言った。ジェイコブはエメルの反応を観察していたが、嘘は言っていないと判断した。魔法というワードは初めて聞いたが、彼女の描く絵は、

教会や魔女、異端審問会など、中世期の時代を思わせるものだった。魔法という概念が存在してもおかしくはない、ただ言葉通りのものではない、別の何かだ。


話の内容も大きくそれてはいない。それでいて、絵の中に、銃や現代の車椅子のようなアイテムも混ざっている。危険な、FBIや警察にも知り得ない団体が動いていると当たりをつけている。


 超常現象で人を不安にさせて、魔法を信じ込ませるマインドコントロールを受けている可能性がある。だが、それでは説明がつかない事がある。

「エメルはきみの街での生活は楽しかったと言ってたよね。緑色の瞳に問題があるなら、もっと早い内に、生まれた時から危険視されるのではないか?」

 エメルは天を仰ぎ、眼を伏せ俯いた。

「・・・・・・緑色に変わったんです」

「手術か何か? 何かされたのか?」

 エメルから毅然とした態度が消えつつある。答えたくない何かがあると

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2019/09/23 01:10

 真っ暗で何も見えない。

 両手が体の横にぴったりとくっつき

 両足も互いに合わさって

 体の何カ所かを厚いゴムバンドのようなもので固定されているらしく、力を込めても身動きがとれない。足や頭を上下左右に揺さぶる事もできない。口には(高速具の口の部分)喋る事もできない。喉の奥を振るわせ、うめき声を上げるのが精一杯だった。

 

 暗闇の中に緑色に光る二つの眼球が浮いていた。

 何者かが彼女を見下ろしているのだ。

 緑の眼が彼女のすぐ目の前まで下りてきた。

 そいつは囁いた。男性のようで女性でもあるような、中性的で凛々しい声だった。


『外で子供達が遊んでいて、母親達が顔をつき合わせて井戸端話をしている』


 彼女には聞こえなかった。

 ふいに、縦に一筋の光が走り、部屋に僅かな明かりが差し込んだ。

 子供達の笑い声が聞こえる。無邪気にじゃれ合うヤンチャ声。

 親は街やテレビで見たニュースの話題で盛り上がっている。

 サンエスペランサで頻繁に起きる誘拐事件の事を。


『君の話をしているな』


 彼女は喉の中から必死に叫び声を上げたつもりだった。喉がひりつき、切れたような鋭い痛みが襲った。それでも必死にすぐ側の希望にすがった。希望(とびら)は閉ざされ、再び闇が訪れる。緑の双眸が振り向いた。こんなに近くにいるのに。


 彼女は生きて帰るための希望を頭に描いては試そうと試みた。

 その尽くが失敗に終わり、希望と可能性が費えた。

 彼女の中に既存の何かが消えてなくなり、生きているが、動かない死んだも同然な肉の檻の中で、終を感じた。それは言葉にできない、特別な感情だった。


 時間は永遠に感じられ、空腹や喉の乾きも覚えたが死ななかった。

 彼女が発見された時は点滴を受けながら拘束具の中で憔悴しきっていた。

 叔父から緑色の眼の悪魔は死んだと聞いた。

 それは嘘だ。今も彼女の頭の中で緑の眼は輝いていて、呪いの言葉を囁いている。


 眠るとその時の特別な感情がいつも襲ってきて、悲鳴とともに眼が覚める。

『魔法をかけたんだ』


 部屋を出て行く時に、そいつは言った。


 シルヴィアは自身の腕を傷つけたが、魔法使いが自分の中から出て行く事はなかった。『魔法使いは私の中に住み着き、最後には乗っ取る気だ』

 

 昨日、マークが魔法使いを連れてきた。あの緑の瞳、間違いない。

 誘拐事件での、彼女の他の、もう一人の生き残り。

 違う、『追いかけてきたんだ』。


 シルヴィアは尽き掛けていた勇気が少し戻ってきたような気がした。

 緑の眼の魔法使い、魔女を殺すために。


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