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エスメラルダは話の展開の変わりように戸惑っていた。
(今日もいい天気……確かに。突然、天気の話……車の話はまずいって事?)
(マーク、下らない事で心理戦している場合じゃない。切り出すぞ)
「エスメラルダ。我々、組織内でたくさんの人と話あって決めた事なんだが」
「何です?」
「この街で生活するには知らない事が多すぎて、困る事が多いと思う。平和に見えるがそうでない部分もあって正直な話、君を一人にするわけにはいかないんだ。だから、住む場所は勿論、君を保護する人物も必要だ」
エスメラルダは頷いた。この街に滞在する間、どうするか考えていたが全てFBIが御膳立てしてくれるなら彼女にとってはいい話だ。
「だが、君のケースは特殊だ。凶悪犯は逃げたままだし、君を狙ってくる可能性がある。強い保護者じゃないと困る。これは君だけの話じゃなくて、我々も君に何かあったら困るんだ。赤い霧の日に行方不明になる事件が多くてね。情けない話なんだが、君が数少ない生還者で貴重な情報源でもある」
「私は誘拐されたわけではありません」
「その通りだ。だが、気になる点がいくつかある」
「私の書いた絵ですか?」
「そうだ。言葉だけでやりとりするよりも、いくつか絵を書いてもらって詳しく質問を重ねていく形式の方が具体的な話ができる。君の友達を救い出す最善の手だ」
「だから、俺が君を守らなければならない」
「『俺が』!?」
エスメラルダは突然、話に割り込んできたマークの台詞に声が裏返った。嫌な予感がしたからだ
(変なタイミングで話に入ってくるな。42の親父が未成年にプロポーズしてるみたいで気持ち悪いぞ)
ジェイコブは運転中にも関わらずマークを肘でついた。車が左右に揺れてエスメラルダは座席に倒れた。
「この男は口下手で、腕はいいんだがコミュニケーションが苦手なんだ。気にしないで」
「いえ、『俺が』っていう事は保護者はマークさんなんですか?」
車内から言葉が消え、このまま時が止まってしまっても、動いてしまっても嫌な予感しかしない妙な間が空いた。エスメラルダの表情が恐怖に染まる。震えている。
ジェイコブを見る緑の眼が『違いますよね?』と訴える。
(そんなに嫌なのか)
「……そうなんだ」
「嫌だっ!!」
「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌。無理無理無理無理無理無理無理無理」
「助けてやったのは俺たちだぞ」
「それは感謝します。ただ、一対一というのは嫌だ……嫌です。違うんです、外の顔と中の顔が人間というのは。そういう人に追われて、逃げてきたので」
「俺も悪魔に見えるか?」
エスメラルダは返答に困っていた。目を伏せて思いに耽る様がマークに答えを告げていた。
「……それは残念だな」
「私もなり得ます。悪魔と戦うには、それに負けないための心が必要だと思います。私もそうでした。もし、あなたに私が悪魔だと見なされてしまったら……」
エスメラルダは
「君が悪魔に見えるというのは……?」
「身の危険を感じればいい顔はできません。私にも目的がある。必死にもなります。お互いの事が分からない上に、文化や常識だって大きく違うかもしれない。何が引き金になるかわかりません。それが、怖いんです」
精一杯のフォローだった。正直な話、マークが持っている何らかに対する執念への恐怖だったが、別の理由を探している内に自己にある無意識を言葉にできた気がした。
「俺の家に、女性をもう一人待機させる。それならどうだ?」
「……」
「歳も君と近い子で、とても大人しい。俺もよく知ってる女性だ。実を言うと彼女に一度会ってもらいたかった」
「君の書いた絵の中に、俺の娘の……二十年前に行方不明になった娘の持ち物に似た絵が描かれてあった。馬鹿げた話だと思うだろうが、君の中に俺が探している娘の手がかりがあるんだ。だから、他の連中には任せられないし、君に最悪な事があっては困るんだ」
エスメラルダは一瞬、気圧されたが立場の優位な人間が、言葉に自由に意味付けしてそれを隠蓑にする癖があるのを知っている。彼女を追いかけてきた悪魔は聖職者の仮面をかぶっていた。神に祈って神が使わした人間も、人間である限り例外ではない。
「神に誓って手を出さない」
「私を追いかけてきた悪魔は聖職者をしてました。神に毎日のように祈りを捧げていた人物なんです」
ジェイコブが二人の間に割って入った。
「どうだろう? マークの言う女性と会ってから判断するというのは。
2019/09/14 01:52
エスメラルダを襲った人間の情報を聞きたいが、もう少し様子を見ることにした。
「FBIってどういう意味なんですか?」
ジェイコブは突然の簡易な質問に不意をつかれた。
エスメラルダは彼が羽織っている紺色のジャケットを見つめていたので、理由が分かった。
「ああ、この文字か。我々が所属する組織の略名だよ。正式名は 。簡単に言うと するのが仕事だ」
「あの悪魔も捕まえてくれるの?」
「悪魔? 君を襲った男なら今も探している最中だ」
「
「確かに悪魔だな。奴のやった事は全てスマートフォンに証拠が残っていた」
エスメラルダは物憂げに視線を床に落とした。
「だから逃げてきたんだろう?
「それは・・・・・・」(恐れている)
「他に追われる理由があったか?」
ジェイコブは優しく話しかけた。彼女は口を結んで何事かを考えている。目は床に伏せたままだ。彼は少しの間、彼女が口を開くのを待っていたが話題を変えた。
「それ以前は、街の生活は楽しかったか?」
「・・・・・・ええ」
エスメラルダは寂しげに笑った。ジェイコブは意外に思った。
シンプルだがこの質問で彼女が監禁状態の中でどんな思いでいたかが分かると思ったが、彼女の静かな微笑みからもう故郷へ戻れない事への寂寞とした感情が読みとれたからだ。
つまり、本当に彼女にとって楽しい場所だったのだ。
「サンエスペランサもいい街だ。きっと気に入る」
「サンエスペランサが私を気に入らなければ?」
「どういう意味だ?」
「この街にも悪魔はいますよね」
犯罪者の事を言っているのだとしたら、いるという返事になる。
ジェイコブは気になった事を変わりに聞いてみた。
「君の言う悪魔とは? どういう人間を指しているんだ」
「人間が人間に見えていない。そんな人達」
「・・・・・・いるな。だから、我々のような人間がいる組織がある」
床に色鉛筆が落下する音がした。
エスメラルダが顔を歪ませ、痙攣する右手を庇っていた。
絵を描くために無理をし続けたのだ、まだ彼女の傷は完治していない。
「続きはまた今度にしよう。多分、近い内になると思うが」
「・・・・・・まだ、大丈夫です」
エスメラルダの手を止めようと駆け寄
彼女の書いた絵の方に引き付けられ体が止まった。彼の見覚えのあるものが追加されていたからだった。
「エスメラルダ。この車椅子の絵は何だ?」
「それは領主様の車椅子です」
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「奴の
「
「ジェイコブさんは、私にとても気を使ってくれてますね」
「
小さな家や農場で監禁されていた可能性が高い。
エスメラルダにとってはそこの出来事が全てで、彼女の世界だった。
サンエスペランサの迷宮入り事件『赤い霧事件』で連れ去られた人達がそこにいる可能性がある。彼女は軽い凍傷を負っていた。
遙か北部、東部の寒冷地帯から馬で長距離を駆けて逃げてきた可能性もある
「ウッドロッドは外の人との交流はあった?」
「四方は山と雪に囲まれ、その周囲を赤い霧がいつも漂っていました。
たまに旅人が迷い込んでくる事はあります。私達は異邦人と読んでいました」
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(ジェイコブとマークとの会話でエスメラルダのシーンの補足)
犯罪組織が限られた空間の中でだけ通じる常識で
人々を洗脳していた可能性が高くなってきた。ウッドロッドを見ない事にははっきりしな
「彼女の記憶を絵に描いてもらい記録する。それを元に聴取したい。
だが、聞き手が負傷していて長時間の執筆は不可能だ。サンエスペランサ内での生活を通して監禁状態での洗脳を解きながら、傷を治療しながらの聴取になる、時間はかかってしまうな」
「車椅子に乗っている領主様についての話は聞いたか?」
「体の痛みで質問どころじゃない。切り上げたよ」
「エスメラルダの護衛は俺がやる、いいな」
2019/09/14 18:39
バックグラウンド
過去にサンエスペランサで大規模な誘拐事件が起きた。
あまり、マスコミにも大々的に公表されず
FBIやCIA、ワシントンとの間で情報のやりとりがなされ
地元の警察は事件の捜査に参加してはいるが全貌は知らない。
ハワード・マジクという人物から
当時は機密扱いだったFBIやCIAの情報を国民へ公開しろと
脅しの電話が入った。機密を公開しなければ赤い霧が出る夜に
一人ずつ人質にとると。
機密内容は詳細にハワードの口から語られ、そのどれもが間違いない情報であることが調査でわかった。
ハワードはFBIやCIAにだけ脅迫の連絡を寄越し、
マスコミやその他メディアには情報を漏らさなかった。
そして、赤い霧が出る度にサンエスペランサから一人、また一人と姿を消した。機密情報を公開するかどうかで組織内、他組織間で大揉めになったが、結局機密解除には至らなかった。
サンエスペランサは以前から他郡の大都市に比べ、行方不明者数が多い街で地元民や警察でも立ち入れない暗黒街やスラムが集まる一画もあり
マスコミも大きくは取り上げなかった。(都市部が抱えているよくある問題の一つではある)
FBIにハワードから名指しで誘拐する人物を指定される度に
その人物が消えていく。一部でのみ事件扱いされ、極秘に捜査されていた。一人を除いて生還者はいなかった。
二十年が過ぎて機密情報が解除された。
マスコミやジャーナリストが記事に、書籍にし、全世界の知るところとなった大規模な国民監視ではあるが、誘拐された人々は帰ってこなかった。ハワード・マジクが機密解除前に死体で発見されていたからだ。
ハワード・マジクの赤い霧誘拐事件は表沙汰にはなっていない。
二十年ぶりに赤い霧が街を覆った時、一人の少女が殺人鬼に追われて
街へと迷い込んだ。
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(ストーリーあらすじ)
十五歳の少女エスメラルダは処刑されかかっていた
友達のネイサンを助けだし、共に街から脱出を試みるが追っ手が迫る。
ネイサンの助けでエスメラルダは街の外へ出る事に成功するが
執拗に追いかけてきた 。
ウッドロッドの街はかつて緑色の目をした魔女に支配され
その時の恐怖が住民の記憶に残っている。
魔女にかかった呪いは死ぬまで治らない。
エスメラルダは鏡に映る自分の眼が緑色に変化している事を知った。
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