カウンセリング

2019/09/08 14:53

 保護した少女から事件の事について聞き出せ、上からの命令だが

 彼女のトラウマを刺激して追いつめないように何をすべきか悩んだ。


 保護した少女に絵を書かせてみることにした。

「芸術療法」も兼ねた聞き取り調査だ。

 彼女の言葉にならない領域での心の状態を知る手がかりにもなるし

 表現活動を通す事でカタルシスを得てトラウマや恐怖の解消に繋がる可能性もある。それに、彼女の周囲の常識を絵を通して垣間見るチャンスでもある。

 さっそく、色鉛筆にクレヨン、ボールペンの入った箱を3つと画用紙を手に休憩室へと立ち寄った。

 エスメラルダの右手の甲は負傷していて包帯が巻かれていた。

 芸術療法は当分先だと思った。

「私にそれを渡して絵を描かせるつもりでしょう」

    

「そのつもりだったが。急ぎじゃない、もう少し日を空けてからにしよう」

「描きます。骨折してないし、軽傷だって」 

 

    は室内に作った面接ブースを離れ、自分の作業デスクから彼女の作業を眺めていた。

 エスメラルダは少し痛むのか右手を庇いながら熱心に絵を描いている。

 絵心はあるが、出来上がった絵は藁屋根の家の絵に、三角帽子のような塔がいくつもついた教会に見える神秘的な建物。地平線の彼方には軽く鉛筆を走らせ、その上を赤い色鉛筆を寝かせて薄い線をのばしていた。

(赤い霧か・・・・・・)

 行方不明者の対象リストにはあがっていないが、この少女も何らかの関連があると見て間違いはなさそうだった。

  は作業に集中する少女に優しく声をかけた。

「エスメラルダ、作業は順調? 疲れたら言ってくれ飲み物やおやつぐらいなら用意できるよ」

 エスメラルダが手を止めて   を見た。その表情に楽しいという感情はなさそうだった。何かの使命感に憑かれた顔で、  に訴えかけている。

「そんなに難しい顔してしなくてもいい。もっと気楽に。時間はたっぷりあるから」

「いえ、時間がない。街に友達を残して私だけ逃げて来たんです。

 街に悪魔が戻る前なら、異端審問会も開かれないはず。絶対にまだ生きてるんです」

 エスメラルダの絵は上手い。線がまっすぐ、綺麗に引けていて型くずれを起こしておらず、建物や周辺の各パーツの比率の案配もよく、何が描いてあるのか一目でわかった。街だった。中世ヨーロッパ風の。ルネサンス期の

 伝わらないと不安に思った箇所に文字で補足情報が書いている

 綺麗なブロック体の英語で。彼女は、FBIに何かを伝えようと必死になっている。それが友達を救う事になると固く信じているのだった。

「異端審問会か・・・・・・」

「この街にもありますよね」

「遠いご先祖様が大陸を渡って、アメリカ大陸に来る前の時代なら。あると聞いているけど」

 エスメラルダは黙々と絵に集中している。冗談を言ったつもりだったが反応がない。

「つまり、この街には異端審問会はないんだ。裁判所ならある」

「裁判所って・・・・・・?」

 作業を止めて振り向いた彼女はとても不安げに   を見た。

「もめ事を解決する場所だよ。ごめんね、邪魔をした」

 エスメラルダは、絵の中の教会に『この中で異端審問が行われる』とメモ書きした。相手に伝わらないのを恐れていたらしい。


    はデスクに戻ってコーヒーのお代わりを注いだ。

「それは貴重な手掛かりになる。君の友達を助ける事を約束する。

 紙は何枚でもあるし、他にも必要なものがあれば何でも持ってくる。

 建物だけじゃなく、君が出会った人達の事でも、食べ物でも何でも書いてくれ。こちらで分からない事は後で質問する」

 エスメラルダの表情の、不安から喜びの色に変わっていく様が

    はそれを見て微笑んだ。患者や犯罪者相手に余裕を見せるための表情の作り方は馴れたものだったが、自然な喜びを見せたのは初めてだった。

 一方で、    は彼女の絵が完成に近づくに連れて奇妙にも思う。

 詳細で緻密な絵がかけるのは観察力に秀でた証拠だ。何度も何度も目にしているのだろう、じゃなければ(絵の緻密な描写)

「それはどこを書いているの?」

「私の故郷」

 アメリカのどこにそんな街があったろうか。

     には記憶を辿ってみたが心当たりはなかった。

 デスクの上の資料に目を通す。

 彼女が最期まで手放すのを拒否した拳銃、ベレッタセンチュリオンモデル。登録者番号を調べれば持ち主がわかる。何かの手掛かりになるだろうか? スライド部やグリップが写真越しにでも傷だらけで年期の入ったものである事が窺えた。



----------- 参考[図説:臨床心理学]------------------------------

 魔導書を読むと、書かれてある文字が脳に特殊な運動をさせる。

 催眠効果があり、文字や図面から音や視覚的な映像を錯覚させ

 より催眠効果を上げる。脳は特殊な物質を出すようになり、

 神経や肉体、臓器が長い時間をかけて改造されていく。

 脳の発達に伴い、発達した脳が生み出した別人各が出来上がる。

 肉体や臓器の細胞が死んでも次々と新しいものが作られていく。

 老化は遅い。

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