sm47
a2019/09/04 03:16
玄関に立っていた黒い影が滑るように家の中へと入り込んだ。
光に暴かれ影のヴェールが取り払われると、そこにカーリンの姿がはっきりと現れた。エメルの皮膚を怖気が走りまわり、思わず後ろへ下がっていた。
「どこかへ行くつもりだったのか? それは危なかった。外は危険だ。さぁ、お家に戻って・・・・・・」
どこで自分がここにいる事を知ったのか、
「異世界旅行は楽しかったか? 見るもの聞くものが新鮮で、お前の生きてきた一五年を呪いたいか? もう故郷に帰りたくはないだろう、帰ったら街の連中が馬鹿に思える。何も知らない、純真な連中だった。澄んだ空気に新鮮な水。水は底まで透けていて味も抜群。人も土地も何にも汚染されていない世界を見てどう思う?」
エメルはカーリンをいい気にさせておき、できるだけ長く喋らせる事にした。相づち一つで機嫌を損ねて襲いかかってくる。相手の自尊心をかき立てるものは何かを必死に考えていた。
「さっさと答えろ! トロクサい奴め!! 俺の感想を聞いている間に考えておけ、俺はだなあ、エスメラルダ。小便ひっかけてやりたくなったね。あの透明な水の中に。それを何も知らない人間が川下で水を汲んで持ち帰る。それを何に使っても、、、知らないというのは哀れに思わないか? 知ったらどんな顔をするだろうな? 知らないほうがいいよな」
カーリンは
「先を見通す見識は相手に軽んじて何手も先を打つ事ができる。知らない連中は怯えて踏み出す一歩に勇気が必要だが、それが知らない人間の弱みだ。神や悪魔の看板も効果的だった。知らない人間に愚かで居続けてもらうための壁になってくれた。人智を越えた存在の領域に踏み込越えるのは酷だったろう、エスメラルダ」
目の前の男は、何も知らない人間を騙してただ楽しんでいただけだった。エスメラルダはそんなことを想像もしなかった。カーリンを引きつけなければシルヴィアの存在が知られてしまう。何をされるかわからない、だからこうしてカーリンの言葉に耳を傾けているのだ。この後、カーリンは激高してその人間性をさらけ出す。そうすればシルヴィアは気づき、逃げ出せる。エスメラルダの頬に涙が伝った。どこまで「持つ」のか分からない。知るという事は無知が馬鹿に見えてしまう事なのだろうか?
「スマートフォンが神の石版だと本気で信じてたお前は可愛かったぜ、
エスメラルダ。もう、神様はいないぞエスメラルダ。どうする? 何に祈る?? FBIもここへは来・・・・・・」
(よく喋る男だ。答えに通じる鍵の在処を喋っているぞ。こじ開けてやれ)
頭の中で知らない誰かが喋った。
エメルは心の声を重ねて意図的に思考を構築するが、予期せぬ口調、覚えのない言葉に、別人が突然頭に割り込んできた気がした。
(何を考えている?)
銃だ。戸棚のベレッタを先に回収できれば私が勝つよ。
(その部屋のすぐ先にはシルヴィアが寝ているぞ)
だから、悩んでいる。
(この男に銃なんか必要ない)
エメルは長時間考え込んでしまった事に不安になるが、カーリンがぼさっと突っ立っているのが不思議でならなかった。
「・・・・・・ない」
「何?」
「FBIはここには来ないといったんだが
「それ、さっき聞いた」
君と同じだよ
愚か。こんなことも知らないのか。
ちょっと意地悪をしたくなる。
2019/09/04 23:37
カーリン(銃をエスメラルダに向けてすぐおろす)
「異世界旅行は楽しかったか、異邦人(エスメラルダ)?」
エメル
(何故、カーリンがここに)
カーリン(エスメラルダの荷作りを見て)
「家に帰るつもりか? 赤い霧がでているからか」
エメル
カーリン
「帰らない方がいい。もう以前の君とは違ってここで多くのものを学んでしまった。連中が馬鹿に見えるぞ、純朴、純真、正直者。いい言葉だが、何も知らない人間相手に少し意地悪もしてみたくなる」
カーリン
「例えば透度の高い澄んだ綺麗な水に小便をしてやりたくなる。街の連中は川下でそれを汲んで家に持ち帰る。それを何に使うのかは知らないが、知らなくていいことは幸せだと思う・・・・・・ッククック」
エメル
「最低だな、お前は」
カーリン
「お前も気づいているだろう。あの連中が何を犠牲に生きてきたのかを。
エメル
(そう、今ならわかる。いや、逃げ出したあの時から薄々感づいていた。
カーリン
「赤い霧’人の頭髪、体臭や鉄のにおいがする)意味が分かるか、エスメラルダ」
エメル
「黙れッッッ!!!!!!!!」
カーリン
「あれは’人間なんだよ’エスメラルダ」
カーリン
「あの街で死んだ人間は成仏できずに気体となってさまよい続ける。
霧が次の人(餌)を街に引きずり込むまでな。その後は街の大地に吸収され、雨となり、土と変わる。検証ずみだ。お前の父親のいる交易隊とともにな。謝肉祭の生け贄の儀・・・」
エメル
「いい加減にしろッ!!!」
だから、逃げた。大事な人と。
カーリン
「お前が街を抜けた時、誰が死んであの霧が現れたか想像してみた事はあるか? 帰る意味が本当にあるのか? うんん?」
エメル
「もう、いい加減・・・ぐっ・・・くっ・・・ひっ・・・く」
もう故郷に帰る意味はない。何故ならそこに大切な人がいないからだ。
どれだけ強くなっても、彼はここにも向こうにもいない。
涙が止まらず、のどが痙攣して言い返そうにも声が出ない。
言葉も失い、エメルの全てがなくなった。
(シルヴィアだけは守るんだ)
カーリン
「まだ抵抗するのか? 何かあるな、膝を折れない何かがだ!!」
それを叩き折って全てを失い、無抵抗になったお前を支配してやる。
カーリンの聖職者を装った仮面が崩れ、ニヤケた破廉恥な笑いと闘牛のように猛り立った気質が現れた。シルヴィアを見ると迷わず突進するだろう。エメルはカーリンと自身を隔てていたテーブルの上に飛び乗り、さらにもう一段ジャンプしてカーリンにつかみかかった。
喉に思い切り噛みついて、かみ殺してやる。エメルは必死に組かついたが皮膚の一部を食い破っただけで、カーリンの腕で簡単に引きはがされ、リヴィングの絨毯上へと投げられた。
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赤い霧 赤い霧 泣くな 泣くな
赤い霧 赤い霧 呼んで おいで
ぼくの 仲間 私の 友達
あの子が つれて やってきた みんなの ために
赤い霧 赤い霧 笑顔 繋ぐ 祈りの 輪っか ♪
赤い霧 赤い霧 泣くな 泣くな ♪ ♪
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
荷物を放り投げ、エスメラルダはリビングに向かって廊下を走った。
「エスメラルダァ!! 異世界旅行は楽しかったか?」
背後からの声は無邪気な調子だった。玄関先でFBIの男の顔が天を仰ぎながら、その視線は真横を見ていたのが印象に残った。カーリンにとってこれは遊びなのだ。寝室へと飛び込み、入口の壁に背をつけて息を整えようとした、恐怖で喉が震えて上手くいかない。
「家に帰るつもりか? 赤い霧がでているからか」
ダイニングキッチンの机が派手に倒され、周囲の椅子がなぎ倒される派手な音が家中に響いた。続いて椅子が壁に叩きつけられる、どぉんという鈍い音が何度も何度も空気を震わせた。
「さっさと答えろ! トロクサい奴め!! この世界はどうだッ!!!」
移動する足音の一つ一つに神経を注ぐ。引き出しを開けてガチャガチャと中のものをかき回す金属音が嫌なものを予感させる。
(刃物だ。包丁を探しているんだ)
「見るもの聞くものが新鮮で、お前の生きてきた人生を呪いたいだろう? それでも帰るつもりなのか? あの檻に。理由は分かる、ネイサンだな。帰ったら街の連中が馬鹿に思える、ネイサンもな。きっと見たら幻滅する、後悔するぞ!!」
テレビの音が突然なりだし、その音はみるみる大きくなっていく。蛇口からすごい勢いで水が流れ出し、ラジオから流れる激しい音楽がテレビの音と混じって、家の中の空気が混乱している。上下左右から秩序のない音楽がエメルの神経をかき乱し、方向感覚や空間内で認識できる出来事が狭められて、突然音が現れた。二つ横の部屋の前で乱暴にドアノブをガチャガチャと上下させる様とドアを蹴り飛ばす映像が頭に浮かんだ。
音の中に悪魔が隠れた。
逃げられない。二階ではシルヴィアがきっと震えて膝を抱えて隠れている。
周到な恐怖の演出が、何を選択しても希望一つ見出す事を許さない。
人の嫌がる行為に慣れている。音だけで行動に迷いがないのがわかった。
(皆の知らない所で、
おもちゃを与えられたら絶対に離さない犬の人格を持った人だと思った。
(捕まったら終わりだ。終わりだ。終わりだ!)
その先は考えられない。大音量のアダルトチャンネルが出す喘ぎ声、皮膚がこすり合う音と粘着質な液体の音と、ラジオの音楽からリズムの早いドラム音が混ざっている。吐き気がする。
『このままじゃ死ぬな』
(そうかもね)
『この男は何をしている?』
(私で遊んでる。怖がって無抵抗な様を心の底から楽しんでいる)
『餌があるなら話が早い』
(冗談でしょう!!)
(いつもの頭の中での会話が始まる。時々現れては勝手な事を言って黙り込む。心理分析官に正直に話した。自分の中に別の人格を作って心を守る二重人格という症状だと言っていた。その割にはあまりに他人で、私の知らない事を知っている。そんな存在を作り出せるのだろうか? それにこいつは男)
『女だ、失礼な』
(空想の世界に逃げ込んでいる場合では……)
『人の話はちゃんと聞いた方がいい』
(女なんでしょう)
『餌だ 10秒ほどの間』
エメルの感覚が秩序を無くした音の坩堝に戻ってきた。気づきを得たからだった。心理分析官が言うには
自分が作ったにしては偉そうで冷たすぎるほど冷静だと考えていた。何が起こってもまるで他人事でどうでもいい感じが気に入らない。嫌いな人間を自分の中に作り上げるものなのだろうか? だが、彼と話すと勇気が湧いてくる。
エメルは真っ暗な部屋の中を夜目をきかせて注意深く観察した。
部屋の中へとゆっくりと歩きだす。ガラス窓をスライドさせようとすると全く動かない。淵に液体のようなものが固まってくっついていた。
『それはボンドという』
(解説どうも)
エメルは電気スタンドのコードを抜き、窓ガラスに向かって思いっきり投げつけた。ガラスの割れる音が 何度も何度も
突然、部屋のドアが大きく開かれた。
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シングルベッドが二つ。それぞれ頭の上の部分に窓ガラスがあり、左側だけ粗雑にガラスが割られて、小柄なエメル一人なら抜け出せるぐらいの穴が開いていた。
壊れたナイトスタンドがベッドの上に転がっている。
右側のシングルベッドにはあからさまに毛布が膨らんでいて中に入っているように細工してある。カーリンはベッドの下部も調べたくなった。計4か所の気になる箇所に視線を這わせる。左隅にはクローゼットがあり、わざとらしく少し開かれた状態になっていた。
カーリンは気に入らなかった。恐怖でまずは精神から拘束したはずだった。その後、体の自由を奪い、もてあそぶ。例え浅知恵でも自分が試される側に回るのは屈辱に思う。背後で演出した淫猥で混乱したBGMがまるで効き目がないようで自分が馬鹿みたいに思えてくる。
窓ガラスの周囲には血がついていない。中にいる
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