第10話2019/08/29
2019/08/29
2019/08/28 00:12
(襲撃者だと思っているので軋轢があるようなやりとりのほうがいい)
「どーしても、名前変えないといけない?」
「本名だと、お前を追いかけてくる連中が嗅ぎつける可能性がある」
エスメラルダは目を閉じて、考えた。
考えるのは嫌いだ、だが最近はよく考え込むようになり、それは無限にも等しい時間に思えた。考えだすと行き着く先は最悪の結果だ。それに怯えるのが嫌で、終わってほしいのに、思考が尾を引いて彼女の口数を減らしてしまう。この世界での事はよくわからない、取りあえずは保護者の言う事に従う事にした。
----------(Take 2)-------------
「それは駄目!!」
突然の剣幕に乗り物を操っているマークが前を見ながら驚いていた。
「本名だと、お前を追いかけてくる連中が嗅ぎつける可能性があるだろうが!!」
「私を連れ戻しに来てくれるんだ」
「あのなぁ、エメル、いやエスメラルダ」
マークは乗り物を道の端っこに寄せて止めた。肩越しにエスメラルダを見つめている。睨むような目で。
「俺は保護者だ。お前を守らなきゃいけない。
「名前を変えたら、私を探している人が分からなくなる!」
「探している人が『悪魔』だったらどうする?」
エスメラルダは口を堅く結び、何も言えなくなった。
「お前は悪魔を銃で撃ったと聞いているぞ。追いかけてくるのが悪魔だったらどうする? 俺を悪魔の生け贄にするつもりか?」
「・・・・・・ベレッタを返して」
「駄目だ。それにベレッタ一つで何ができる。昼間から拳銃もってふらついている子供なんかすぐに補導されるぞ。拳銃もった大人のお巡りに囲まれたら、結局さっきとは別の場所に連れて行かれて最終的には精神病棟にぶちこまれる可能性もある。最悪、お前が悪魔扱いされて撃たれる可能性もあるんだ。もう一つ、お前がベレッタで作った屍を踏み越えてそれでも前進する可能性。弾は一二発しか装填できない。この街に人間が一二人しかいないわけはない!!」
「そんな事するわけないだろう!!!」
エスメラルダは途中まで黙って聞いていたが、自分が人間を撃つのだと断定されたような物の言い方にカッとなって思わず叫んだ。
「じゃあ、ベレッタ返してどうするんだ?」
「それは・・・・・・だなぁ」
「大人しく言う事聞くんだ。今は分からないだろうが
「まるで子供に言うセリフだ」
「お前は子供だろう」
「私は一五歳だ」
「この国では立派な子供なんだよ。職もない、家もない、資格もない、知人も俺と、お前をカウンセリングした心理分析官ぐらいだろ」
「ぐっ・・・・・・」
いちいち正論を言われる事に苛々するが、どうにもならない。自分は観光客で案内人がいないと
「そういう事でしたら。どーぞ! 何とでも呼んで下さいな!!」
「じゃあ、今からエメルだ。正式な手続きもすぐに済ませてやる。
前についている小さな鏡に、男の嬉しそうな笑顔が映るのを見てエスメラルダは嫌な予感がした。
「手続き・・・・・・!!!」
「どうした?」
「マークさん? もしかして独身なんですか?」
「そうだ」
「降ろせっ!!」
「犯される!!!!」
必死に小部屋のドアノブを掴んで開けようとするが、がちゃがちゃと音がなるばかりで手応えがない。不安にかられて窓を殴りつけるが割れない。2019/08/29 00:48
「異常だっ! 男一人の家に私が住むだって!! やっぱりベレッタがいる。返せッ!!!」
「そんな事するわけないッ!俺はFBIだ! 上級捜査官なんだぞ」
「血のつながりはないんだ、可能性はある。それにあなたは男だ、可能性はある。
「・・・・・・女はいる。彼女と会って欲しい。たぶん、会えばわかってくれると思う。それが嫌ならどうしようもない。ただ、一人で住む家はあてがう事はできない。どこかの施設に入るか、別の里親を探すかになる。とにかく、時間をくれないか?」
-------(次シーン)----------
知らないものばかりの世界で、エスメラルダが唯一知っている の木が林立する森の中を鉄の小部屋に乗って体感した事のないスピードで移動している。
窓から見える現れては後方へと置き去りにするように消えていく木々は馬上で見た景色を思い起こさせる。周囲はあまりいい顔をしていなかったが風が心地良かったのを覚えている。思い出の中のそれとは違い、部屋の中に流れているひんやりとした空気は落ち着かなかった。
森の中を綺麗に固められた石畳の道が伸びている。
一体、どういう技術でこんなものを実現しているのだろうか? エスメラルダの頭は感動で満ち、溢れんばかりの好奇心で瞳は潤んでいた。
「
森を抜けた先は広野になっており、地平線まで駱駝色の砂原が続いている。空は青く、雲はない。
街へ入り込むと、エスメラルダは感嘆の声を漏らした。その後は口を開けたまま
縦に長い家々が密集し、形も様々。その前を行き交う人々の多さと、彼らの纏う奇妙だったり、格好よかったり、可愛かったり、動きやすそうだったり、露出が多めだったり、変だったりな衣服が彼女の感情をかき回す。人種も様々だが、エスメラルダにとって驚きなのは魅力的なカオスが目の前に広がるにも関わらず、皆、平然と生活している事だった。
自分の身に纏っている皮造りのドレスに麻生地の が浮いている。似たような身なりの人間を探したが誰もいなかった。
-------------------------------
「そういう事でしたら。どーぞ、好きにして下さい」
「エメルで決まりだな。元の名前から幾つか残してあるんだ。そんなに悪くないと思うぞ」
まるであだ名で呼ばれているような感じで、エスメラルダからかけ離れた印象はあまりない。自分の中に自然に入ってくる単語で驚く。それとは別に他人が自分の身の施し方を決める事に安心感を覚えて少し、楽にもなった。思考の泥沼から抜けるには信頼できる誰かが必要らしいが、マークという男を信頼しきるには早すぎる。
「フルネームは?」
「エメル・シルベストリだ」
「何だか、強そう・・・・・・」
「誰もシルベストリがエスメラルダだとは気づかないはずだ」
「名前だけ強くてもなあ」
「じゃあ、本当に強くなればいい。
「
「
「
2019/08/28 01:12
--------(サブテクスト)--------
エスメラルダ(エメル)は故郷に帰るつもりだった。
帰るための手段がわからないので、まずは情報を集めることにした。
この男(マーク)は勘違いをしているが、私は被害者ではない。
残してきた幼なじみがいる。
この安全な世界に連れ帰るのだ。
街から逃げると悪魔が追いかけてくる。
---------(サブテクスト)----------
マーク
行方不明者は犯罪者ばかり。例外もあり。
-----------(目的地に到着する)----------------
会わせたいという女。歳はエスメラルダと変わらないように見えた。
白い上衣に薄青色のツナギ姿。
美しい金色の髪が風に揺れてまるで薄絹が流れるように、綺麗に解れては纏まりを繰り返している。
エスメラルダは彼女の中にある不穏なものが気になった。そう思うのは完璧な容姿ゆえに僅かな悪い物が目立ってしまうからだ。
彼女の水晶のような碧眼の中に曇りを見た。
マークの顔にも笑顔ではあるが、うつろな憂いが見える。
何となく事情が分かった。その事情は根本的に勘違いされている自分へ向けられている事情と重なるのだった。何らかの『可哀相な目に遭っている』。そんな子である事が分かった。マークの車中での言葉を思い出した。
『赤い霧の事件、二人目の生き残り』
エスメラルダが戸惑っていると、相手が恐る恐る手を差し出してきた。
手を握る。まるで力がこもっていない手のひらにすがるような小さな力で握り返される。まるで赤ん坊の手を触ったような感じ。
エスメラルダは途端に後ろめたい気分になった。自分は違う。彼女と何も分かち合うようなものは持っていない。
「彼女がエメルだ。仲良くしてや
この男は勘違いをしているが、この場でそれを口にする事はできない。
エスメラルダはシルヴィアと抱擁を交わしたが、それは観念してしまった自分の顔を見られたくないからだった。予想外の役割。やがて彼女を失望させてしまう事に不安になった。長居するつもりはないからだ。
「」
「エメルは俺の家に住む事になった。シルヴィアもいつでも遊びに-」
エスメラルダはマークが言い終わる前に間髪入れずに言葉を挟んだ。
「シルヴィアの家でお世話になる事になったって。これから、よろしく!」
シルヴィアに手を引かれて自宅に案内されるまでの間、エスメラルダは狼狽するマークに冷めた視線を送り続けていた。遠ざかっていく当惑する男は眉間に皺を寄せ何か考え込んでいる。何を考えているのかはわからないがこの男、油断はできない。
故郷へ戻るまでの間・・・・・・闇の中に僅かな光を見たようなシルヴィアの表情がエスメラルダの胸の中で罪悪感の余韻となって、しばらくの間、消えずに残っていた。
2019/08/29 00:42
2019/08/29 00:43
2019/08/29 01:09
★FBI。ドラマではよく聞く組織でハリウッド映画の印象で悪党を見つけだしては牢屋にぶち込む法の番人。さぞかしい設備も立派なものだと思っていたが。
「そうでもなかった」
「心の中で考えている事を喋らなくていい。名前は?」
「ルーパート」
「この国にはいつから入り込んだ? どうやって? 手引きした人間もいるだろう、どこのどいつだ?」
「いい質問だ。答えよう。それは、知らない。知らない。知らない。覚えがない」
「舐めるなよ」
「知ってる事なら何でも話すが、立て続けに知らない事を聞かれても」
「・・・・・・時間稼ぎか?」
ルーパートは目の前にいる尋問担当者に初めて好奇の眼を向けた。男はスキンヘッドで側頭部から頭頂部に行くにつれて薄くなっていく頭髪を短く刈り込んでおり、黒い草原から砂漠に変わっていく世紀末の地球儀のような頭だと思った。鼻高く、窪んだ眼下に綺麗な茶色の瞳がルーパートを見つめている。
「僕が何を待ってるっていうんだ?」
「さぁな? 何を待ってるか教えてくれないか?」
ルーパートは顎を手で指すって何やら考える仕草を見せた。
「よせ、何も考えていないだろう」
「鋭いな、マーク。僕は
男は名前を言われて怪訝な顔を一瞬見せたがすぐに平静を取り繕った。瞬間的なものだった。
「『こいつはどこで俺の名前を?』『そうか、誰かが呼んだのを聞いていたんだな』」
「・・・・・・」
今度はマークの眼の色が変化する番だった。ルーパートはにこにことその日焼けした浅黒い顔に笑みを浮かべた。
「その通り。娘さんと大喧嘩していた時に聞いた」
マークは思わず立ち上がっていた。部屋を出て何やら言い合っているようだった。身体検査をやったとかやらないとかそういう話だ。男が戻ってきた時、質問の答えを先回りして呟いてやる。
「何の機械ももってないさ。あまりに大きな喧嘩だっただけ。丸聞こえでしたよ」
「ふざけるなよ、別棟のやりとりがこんなところまで聞こえてくるわけがないだろう!!!」
「この街は親切な方が多いんだ」
ルーパートが左手を蝶が舞うようにひらひらと動かして見せると、中から一羽の鳥が現れた。激しくバタバタと羽を仰ぎ、尋問室の天井に何度か円を描いた。その後、ルーパートの袖の下に入り込んで行ったが、マークは薄気味悪い夢をみている夢遊病者さながらに立ち尽くしていた。
彼の目には鳥が袖に入り込む前に、白骨化し、空気に溶けていくようにその骨をも粉となって消滅したように見えたからだ。
「今の鳥に聞いた」
マークは腰からグロックをつかみ取り、ルーパートに向けてつきだした。所作に無駄なく、流れるような動き。教科書通りのコンシールドキャリーの美しい構えが印象的で、彼の脅し文句や怒りの表情をルーパートは意に返さなかった、それがよりマークの逆鱗に触れた。
「ふざけやがって!!」
「銃を向けるなら例の警告文を言え、FBI」
マークの怒りの感情がもう一段階上のギアに入る直前、尋問室の扉が勢いよく開かれ、何人かなだれ込んできた。興奮するマークを必死になだめるがそれでも収まりはつかず、場が騒然となった。
「騒がしいな。取り調べはまた今度だな」
「こいつはエメルの言う、悪魔だっ!! 離せっ、離せっ、クソ!!」
同僚二人に羽交い締めにされ、もう一人に前から抱き抱えられ、それでもなお血管を頭に浮き上がらせて向かってくる男は強制的にどこかへと連れて行かれた。
「俺の娘が殺されるんだぞ!! 離せよ、お前等」
「誤解だ。だが、エメルに用はある。彼女と話がしたいんだ。連れてきて欲しい。時間稼ぎの芸ならたくさんネタがあるんだ。FBIの皆さんを相手に気長に待つよ」
誰もいなくなった尋問室でルーパートは誰かに話しかけるように呟いた。もう遠ざかっていった声の主がいる辺りで鳥が羽ばたく音がして、騒ぎが収まった。
「気長にね」
2019/08/29 02:01
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