第45話もう、いいだろ?
当然ながら、人体に悪い影響を及ぼす毒ガスをまいた科学部は、退学だったが、ああいったものを発明するヤツラが野放しになるのは大変危険だと思う。
あれからどうなったかは知らないが、学園都市にもいられなくなったんじゃないかな。
大学の研究室から、爆弾を盗み出すなんてだいそれたことを、ってのもあるけど。
そもそも大学のヤツらが、科学部のアイデアを盗用したなんて、証拠もない。
一般人には面倒でいい迷惑な事件だった。
まあ、そのおかげでオレは真希奈さんの真の姿に気づけたし、親しく口をきいてもらえることになったのだ。
こういうの、なんてんだ?
怪我の功名、だっけ?
それに、オレは……幼等部のときの初恋の娘に、もう一度恋をした。
中等部に編入してきた黒髪美女の真希奈さんは、もともとは金髪だったんだ。
容貌といい、すばらしく目立ってしまうので、周囲になじめるように、せめて髪だけでもと、黒く染めていたそうだ。
逆の意味で目立っていたけれどね。
オレはなぜ、すぐに彼女だと気づかなかったのだろう。
オレは、キーホルダーに忍ばせた彼女の写真を見つめる。
ハニーブロンドのツインテールに青灰色の瞳。
記憶の中ではそうだった。
茶道部での黒髪日本髪の真希奈さんとはえらいギャップだった。
もちろん、それを狙ってわざわざ中等部に編入してきたのだろうけれど、変わりすぎだ。
それが、彼女の父親が入院してからというもの、生活ががらりと変わり、もうなりふりをかまっていられなくなり、髪を切って、金髪に戻したそう。
思えばそちらの方が似合っている。
なんてったって、フランス人とのハーフだから。
オレの一つ上の、幼等部を卒業したのと同時に母親の郷里へと旅立ってしまった真希奈さん。
あれで、結構気を張りつめていたらしくて。
どうして自分だけ周りと違うのか、どうして周囲に騒がれるのか、悩んだ末のことらしい。
『自分のことを、何も知らない世界に行きたいと、思ったんだ』
オレは、そんなことは考えられないな。
オレ自身が、自分のことをよくわかってないから、そんなことを思うのかもしれないが。
でも。
真希奈さん。
悩んで、逃げた先に何があった?
親しい友達? 優しい先生?
わからないよ。
わからない。
現に、金髪に戻った真希奈さんにはいろんなことが、いろんなしがらみができたけど、でも悪いことばっかりじゃなかったんじゃないか?
「「令嬢」のママだって、心から心配してくれて安全地帯になってくれる本当の友達だって、いたじゃないか」
それは、オレが喉から手が出るほど欲しくて、でも叶わなかった――叶わないと思いこんでいたものばっかりだ。
「オレだって、五歳児に戻らなかったら、その稀少(きしょう)な存在に気づけなかった」
充分じゃないか?
オレも、真希奈さんも。
うまれに不満や不足があったわけじゃない。
周囲にいる人間が変わっただけだ。
うわっぺらのつき合いが終わって、新しい未来が待ってたんだ。
そういうのって、ワイルドだけど、気持ちいいじゃないか。
「新しい居場所が、できたんだ」
真希奈さんにも、オレの仲間たちにも。
心に空いた隙間を、やさしく埋めてくれる存在が。
真希奈さん……。
もう、あの頃に戻らなくていいんだ。
逃げなくていいんだ。
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