第44話ダセーぜ

 オレはベタに学園の屋上に二人を呼びだした。

 しかし、なんだ。

 ひたすら待っているだけというのも、退屈だ。

 マンガやドラマのようなシチュエーション。

 どうして登場人物は、途中で飽きたりしないんだろう。

 オレは飽きたぜ。

 つまらねえ。

 早く来すぎたのか……。

 まさか、こっちの手の内がばれて、両方帰っちまったとか……は、ねえよな。

 オレの居場所は貯水槽の影。

 そこから、屋上の出入り口がバッチリ見える。

 お! 来た。

 セオリー通り、シューマの奴からだ。

 ヤツはきょろきょろして、屋上のフェンスの端からはしまで、見回した。

 時計を気にするところを見ると、わりと時間に細かい奴なのかもな。

 お次はサッカー部エース。

 名前は知らない。

 シューマの姿を見るや、胸ぐらをつかみにいった。

 シューマは、何があったのか、理解できていないようだった。

「シュウマ、てめえ。真希奈をどうした!?」

「知らねえ! オレは真希奈に相談があるからって呼びだされただけだ!」

「なにい?」

 二人とも、手にしたルーズリーフの手紙をくしゃりと握りつぶした。

「これは、オレたちを同士討ちさせるための罠だ」

「冗談じゃない。オレがなにをした? 全部あんたのせいだ」

「ち。ちゃちな手で……。してやられたぜ」

 ここで出ていくのは、得策ではない。

 しかし、見破られた以上、しかたねえよな。

「よお」

 オレは、できるだけ自分の体を大きく見せるように、肩をそびやかして言った。

 二人はまだ、わけがわかっていないようだ。

 そうだよな。

 こういうヤツらが、復讐されるのを眼中に入れて悪さをするはずがない。

「オレは人がいいから、誰かを陥れるのなんて得意じゃねんだ」

 言うと、

「おまえか! 姑息なことォしやがって」

「ふざけてっと、痛い目みるぜ」

 おーおー、いっぱしの悪ぶってまあ。

 しかし、暴力でことをおっぱじめるのは、オレの趣味じゃない。

 そういうのが好きな奴だけで、やっていて欲しい。

「降りて来い! 卑怯者!」

「む」

 卑怯とはなんだ。

「じゃあ、くらえ!」

 オレは貯水槽から飛んだ。

 ちょうどそこに、シューマがいた。

「あ? お? おあ!」

 ごん、という音がして、ヤツは頭を打って気絶した。

 あーあー。

 オレも不可抗力とはいえ、しでかしてしまった。

 怒られるなー、これは絶対。

 しかし、サッカー部エースの猛攻に、オレは急所を突いて対抗した。

 これやっちゃいけないよな。

 ヤバいでしょ、本来の意味で。

 二人はあえなくノックダウン。

「なんだよ、あっけないな」

 呟いたら、二人がむっくり起き上がった。

 先ほど以上に殺気立っている。

「これが、おまえの本気なのか?」

「こんぐらいで、勝った気になられちゃこまるねえ」

 ……と、いうことだ。

 今なら大した罪にはなるまい。

 オレはまよわず拳をふりぬいた。

「ふっ」

「なに?」

 かわされた。

 冗談じゃない。

 ふりぬいた後は、オレは隙だらけだ。

 そこを突かれた。

「くそ、なんでいきなり強くなったんだよ」

「いままでは、おまえがどんなもんか、見てたんだよ」

「くそ!」

 振り抜く!

 足払いをかける。

 タックルする。

 それもこれもかわされた。

 一撃いちげきをかわされると、ダメージというか疲労がひどい。

 うーん、これは逃げるしかないんだろうな。

「こんどはこっちの番だ。逃げなかっただけ褒めてやるよ」

 とっさに、ガードするが、そんなものが通用する相手ではなかった。

 苦しい。

 痛い。

 下がったガードの隙間から、みぞおちにくらった。

「ううっ」

 もうだめだ。

 オレは倒れてのたうった。

 みぞおちって、こんな、呼吸もまともにできないほど痛いのか。

「ううーっ。あぐ! うううーっ」

 シューマが苦しむオレの頭髪をつかんで、貯水槽にたたきつけようとした。

 そのとき、ばらばらという足音がして、屋上にクズキたちが駆けつけた。

「大丈夫か、ケイ!」

「助っ人は……いらないぜ」

「そんななりで強がるな」

 オレは身を折って苦悶していた。

 こんな姿を見られるのは屈辱だが、ここはオレにやらせてくれ。

「真希奈さんを傷つける奴は、オレが許さない!」

 渾身のパンチで、相手のアゴを打ったら、シューマはあえなくダウン。

「おや? のどぼとけを狙ったんだけど」

「ふざけるな!」

「それはこちらのセリフなんだよ!」

 サッカー部エースの蹴りはまともにくらうと大打撃だ。

 オレはタックルをかけると、ヤツの腰に手をかけ、ベルトを引きぬく。

「あ! おい、なにをす――」

 こうするんだよ。

 オレは、転落防止用のフェンスにヤツの右腕を、ベルトで高々としばりつけた。

 クズキの声と、腕をならすオギの姿を見て、またオレの頭は拒否反応。

 目が醒めたときには、ダッセーことに、全員、停学処分になっていた。

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