第42話彼女の事情

「私が両親から逃げていたの……父が二度と起き上がれないと宣告されて、私は学校をやめなければならないと思った……」

「それと、あの男とどう、関係があるの?」

「弱みを、見せてしまったのね。私、簡単に心を許してしまった。彼が、ヒーローだったから」

「違う! 真希奈さんは違う! ヒーローが人の弱みにつけこんだりするもんか!」

「ええ、そうね……私は間違っていた」

 そこで真希奈さんは涙をハンカチで拭いた。

「馬鹿みたい。あんな人だったなんて、知らなくて。あの人が、あんなことをするなんて……」

 真希奈さんは、ぽろぽろと涙をこぼした。

 救いたくて、救えなくて、オレも目頭が熱くなって声をひそめた。

「真希奈さん……あなたは気高く、同時にあわれな人だ。違いますか?」

「……自分ではわからない」

「勉強なんてどこでもできる。実際にあなたは、スナックの二階で教科書を開いていた。そうでしょう?」

「そうだったわ」

「ただ、学校には友達がいます。彼に頼らず、本当の友達に相談して、オレを……頼ってくれさえすれば……オレは、オレは……」

 オレはそのとき五歳児だったのだが、その悔しさが自然ににじみ出てしまった。

「そうね……」

 多くを語らない、そんな真希奈さんに涙があふれた。

「真希奈さん……オレが、あなたを守ります。必ず」

 あたたかなぬくもりが、胸にぶつかってきた。

 オレはそれを心地よく受け止めた。

 真希奈さん……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る