第41話まだ、終れない

『先輩! 好きです』

「ふわあ!」

 恋愛映画は退屈だ……。

 ああふ。

 あくびが出てしまう。

 なんということだ。

 真希奈さんと、初デートだというのに、オレは寝不足で映画を見損ねた。

「起きて! ケイゴ」

「ううん……むにゃら」

 眠いんだよ。

 ふいに背後をどかっとやられた。

 オレは、目を醒まして背後を見た。

 椅子にふんぞり返っている男のスニーカーの裏が見えた。

「あにすんだ!」

「ふん。真希奈とデートかよ。おまえ、女キライじゃなかったのか」

 オレはぱっぱと袖を払い、相手の出方をみた。

 真希奈さんを呼び捨てにしたってことは、何者だ!

「毎朝の校門でのあれは、やっぱりパフォーマンスだったんだな」

「なに?」

「真希奈。これが、こいつの正体だよ。おまえが本気になったら、即、捨てる気だ。そのときオレに泣きついてきても知らないんだぜ」

「ばかやろう! オレが真希奈さんにそんなことするか!」

「おお、むきになるんだな。そんな顔もできるのかよ。大した男だ」

 フロアが明るくなってきた。

 相手の顔が見える……まあ、多少は予想がついていた。

 聞いたことのある声だったからな。

「シュウマが世話になったそうだな」

 やくざな言い方をする。

「ヤツの仲間か!?」

 ついつい、ヒーローしちゃうオレ。

 見えてきた顔には、真希奈さんが短い声をあげて退いた。

「やっぱり、おまえが真希奈さんの噂を広めていたんだな?」

「オレのところへこないからだ」

「真希奈さんは……ちがう!」

 愛があるなら決してしちゃいけないことを、こいつはしたんだ!

「科学部が御託を並べているから、ちょいとアドバイスをしたんだ。そうしたら、随分みすぼらしい防護服をくれてな。プロトタイプっていうのは、そうしたもんなんだろうな」

 けっ。

「おまえ、プロトタイプでもなんでも、着ていた方がいいぜ」

「んあ?」

「臭うって言ってんだよ!」

 オレは座席を乗り越えて、ヤツの腹を蹴りつけた。

 ヤツも素早くよけて、オレのキックは後部座席にめりこんだ。

 ばくんと陰湿な音がして、まるで弾丸みたいな蹴りが飛んできた。

「ぐお……」

「かわいこちゃんは、おとなしくしな!」

 顔面に蹴りを入れられて、多少のショックはあったものの、脳震盪には至らなかった。

「け、これならクズキの捨て身のジョークの方がまだ、クルぜ!」

 オレはこんなことではダウンしないぜ!

「この野郎!」

「こっちの言うことなんだよ! 真希奈さんに謝れ!」

 気合い一発。

 相手の顔面にストレートに決まった。

 サッカー部エースは鼻血を垂らして、えづいた。

「まって!」

 真希奈さんに、腕をとられてオレは一瞬、何事が起ったのかわからなかった。

「私が悪いの……」

「違う! 真希奈さんは、ご両親のために……」

「ううん。そうじゃない。ごめんなさい」

「なん……」

 オレが逡巡してる間に、サッカー部エースは立ち去っていた。

 映画館スタッフが、迷惑そうに、血のりを見つめた。

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