第40話告白の前に

 待ちに待ったこのシチュエーション。

 踊り出したい黒猫のタンゴ。

 今日は日曜日。

 真希奈さんの、オフ日だ。

 あー、でも。

 何時に待ち合わせしたっけ?

 ああれ?

 時間の指定を忘れてたよ!

 これじゃあ、髪型、服装を整えるタイミングがわからない。

 時間が経って、汗なんかかいたりしたら、すぐくずれちゃうもんな。

 ああ、ゴリラに生まれたかった。

 つーか。

 なんで人間は服や靴なんかを発明したんだろう。

 ゴリラでいいじゃん。

 と、オレが現実逃避まじりに、ダーウィンの進化論は退化だと考えていたとき。

 玄関のドアベルが鳴った。

 母親が出ないかなと思ったが、れいによって家族は出払ってるらしい。

「はい」

 インターホンで画面を見たら!

 白黒だけど、すこし緊張した面持ちの真希奈さんがいた!

「なんで!? なんで家がわかったの」

『ママに聞いたの。お返しよ』

 もう、困るな本当。

「ちょっと待ってて!」

 オレは洗面台に向かって、丹念にひげをそり、ジャケットまではおってしまうと、髪型を作り始めた。

 あれから、ゴリラの防護服は回収された。

 ロロロ・ロシアンルーレット爆弾の効果が切れたんだって。

 オレの姿が元に戻ったのも、空気中のガスが薄れてきたから。

 原理はわからないけれども、ものすごいテクノロジーだと思う。

 やっぱ、科学部はこのままいけば世界征服できちゃうんじゃねえの?

「わっ!」

 後ろから声がかかった。

 驚いてオレは頭をくちゃくちゃにしたまま、ふりかえってしまった。

「いかしてるじゃない」

 白いブラウスに、清楚なスカート姿の真希奈さんがいた。

「こ、これは。いや、なんで入ってくるんだよー!」

「勝手知ったる君のおうちだからだよ?」

 内心オレはもう駄目だと思った。

 告白するなら、綺麗な場所で。

 心を込めて、相手の目を見て。

「好きだよ」

 と……。

 なのに、こんな頭じゃ告白なんて。

 まさに告白する相手に見られてしまうなんて!

 ……いや、いい方へ考えろ。

 お使いを、頼むんだ。

 そして、その間にきちんとする。

 ようし、完璧な計画。

「ああー、真希奈さん。デートするまえに、コンビニで朝ごはん買ってきてくれるとうれしいんだけど」

「あるよ! オムレツとカツサンド! 好きな方選んでいいわよ」

 がく!

「……でも、デート、だったんだ。へえ、そうかー。デートのお誘いだったのかー」

 うるさいよ、真希奈さん。

 テーブルにオムレツを出しながら、ハミングなんかしている。

 本当にもう。

 わかっているくせに!

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