第39話ラブリーグラタン
一方で、オレは確かめたいことがあった。
だから、スナックのママの娘さんが開いている喫茶店に出向いた。
そこに真希奈さんはいた。
オレは秘密の暗号で真希奈さんにサインを送った。
『お店の・外で・待っている』
と……。
これで通じてくれれば、オレの初恋は成就する。
間違いない。
彼女は……真希奈さんは。
カフェテリアで風に吹かれていると、気配もなく注文を取りに来た。
「ご注文はいかがなさいますか?」
「真希奈さん!」
オレはふりかえって見た、髪を黒く染めた彼女を。
この目で、はっきりと。
「ケイゴ……気づいたのね」
真希奈さんはもとから黒髪じゃない。
幼等部のころから金髪だった。
「きれいに染まってるね。どこの美容院なの?」
「母が買ってくれた髪染めを使ってる」
「え? もしかして白髪染め?」
「うーん、そうかもしれない」
オレは、腹の底から笑うと、彼女が持ってきてくれたグラスの水を飲みほした。
「だまされたよ。中等部からの三年間、ずっと別人だと思っていた」
「細かい嘘は、女は得意よ」
彼女も笑った。
幼等部のとき、二人で作った秘密のサインは、二人にだけわかる暗号みたいなもんだ。
それを……憶えていてくれた。
それだけで、オレは……。
「あ、いかん」
涙を流すのは早い。
「明日、桜並木の川べりで待ってるよ」
「かしこまりました」
あまり、注文に時間をかけていると、疑問に思われてしまうのだろう。
真希奈さんは、その一言を最後に、店内へ戻ってしまった。
オレは、また彼女と接点を持つことができて、幸せだった。
ここなら毎日だって、大手を振って通い詰められる。
「お待たせしました」
運んできたウエイターの手元を見ると、白い深皿が目の前に置かれた。
「え? これは……」
ホワイトソースと、チーズの香ばしい焼き目のついたグラタンだった。
「特別メニューです。食後に紅茶もしくはコーヒーがつきますが、どちらになさいますか?」
むう。
真希奈さんめ。
「コーヒーをアイスで。ミルクと砂糖はいりません」
オレが見栄を張るのを、知っててこういうことをするんだから。
オレは猫舌なんだよ。
アツアツのグラタンは食べられないの!
わかってるくせに、こんなおちゃめをしてくる真希奈さんは、もう大丈夫なんだろう。
たとえ、オレがいなくても。
その束縛しない自由さが、気楽で心地よかった。
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