第37話僥倖

 混乱している。

 オレは……誰だ!?

 いや、記憶喪失とやらではない。

 腕が、足が。

 胴体が……でっかく。

 パワードスーツは脱いだのに、ちょうど背の高さにある鏡を見たら、オレ……オレは!

 そうだ、オレはスナックの二階に居候していた。

 だけど、お店は何者かに破壊されて、オレはこっそりと自宅に帰って自分のベッドで寝たのだ。

 そうしたら、夜中にむやみと息苦しくなって、甥っ子の服を脱いだ。

 そのまま、また眠ってしまったけれど、起きたらやたらと部屋が狭く感じて。

 なにがあったのかはわからないが、息苦しいので顔を洗った。

 そうしたら、蛇口はワンプッシュで水が出るし、踏み台もいらなかった。

 大きな鏡をみたら、そこには、ちょぼちょぼとあごにひげの生えた男前がいた。

 オレ!?

 ヤベエ! 本来の意味でヤバイ。

 オレはぷつぷつという感触を確かめるようにあごをなでた。

 童顔なのにひげとか生えてるとアンバランスでキモイ。

 いや、問題はそこでなく。

 オレ……元に戻った!?

 オレは、ベッドの枕元に山積みになった、衣類の中から一番無難そうなブルーのYシャツの上に生成りのベストとチノパンを履いた。

 え? なんでって? オレのイメージはそうなんだよ。

 母親が買ってくるの。

 お仕着せだよ。

 ファッションなんか知るか。

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