第36話深く考えない

 パレードを見ながら、川べりでふらふらとオレたちは歩いて、葉を茂らせた桜の木の下に座った。

「モテ男君は、どうして一人でこんなところにいるの?」

「幻覚でしょ」

「嘘」

「うん、嘘だよ」

 誰かさんと違って、オレは嘘をつくんだ。

「もう、嘘つきなさい」

「ふん」

 だから、嘘だっていってるじゃないか。

「めげてるケイゴ君、嫌いだな~~」

 うっ。

「そういうことはね、嘘でも傷つくから言わないで」

「あら、そう。自分は嘘ついてもいいのに、私には嘘つくなっていうの」

 そうだよ。

 真希奈さんは、細かい嘘が多い。

 本当も嘘もわからない。

「嘘をつくならさ、どーんとでっかい嘘をつきなよ」

「へえ、どんな?」

 真希奈さんは興味深そうにこちらを見た。

「ワタシハけいご君を愛シテマス――とか」

 彼女はくす、と笑って、

「あら、嘘でいいの? そういうの」

「夢がある嘘はいいんだ」

「私は嫌だなあ……」

 オレははっとした。

 遠くを見つめるその目が、ふいに潤んだ気がしたのだ。

「嘘なんて、ほんとは誰だって嫌いよ」

 ……!

 だ、だって、嘘をついたシューマを真希奈さんは許したじゃないか。

 オレが本当のことを言ったって、信じなかったじゃないか!

 傷ついた。

 もう、オレ、本当に傷ついたぞお!

「き、きっと、男と女じゃ嘘も方便の具合が違うんだ」

「あら、方便でいいの? そういうこと言うのが?」

「い、いいんだよ……しょせん、愛なんて幻想だ」

 オレはぎくしゃくとして立ち上がると、飲み物を買いに行った。

 手にコーラとウーロン茶を持って戻ると、もう、彼女の姿はなかった。

 きれいな川面にキラキラ光る太陽がまぶしく照り映え、美しかった。

 オレは苛立ちまぎれにウーロン茶を川に流し捨てた。

 おっと、コーラは飲まないとね。

 こういうのって、いろいろ川の水を汚しそうだからさ。

 しゃがんで、寂しくストローを吸うオレ。

「これ! 魚が逃げるだろうが!」

 そう、苦情を言ってきた人があった。

 オレはコーラにむせかえって、上から下までその人を見た。

 その人は防護服を着ていなかった。

 そのかわり、華奢なつくりの釣竿をもって、ふりまわしてきた。

 しわっしわのジーちゃんだった。

 七分丈のジーパンをぶかぶかに履き、青い半そでのTシャツを着ている。

「あの、魚なら、このへん、パレードの振動でどっか行っちゃったと思いますよ」

「そんなわけあるか! さっきはいい引きがあったんだ。子供だからって、嘘はいかん! 嘘は! 川にゴミを捨てるな! 汚染! 反対!」

 うわ! 叩かないで! 釣竿、痛い!

「いてて! いて! あの、釣り針が、いたた! 耳に! 絡んでる。からんでるから!」

 そのあとはガーミガーミとうるさかったけど、まあ。

 ひとりでいるよりはいいなって、思ってしまったんだ。

 逃げたけどさ。

 オー、いて。

 血が出たぜ。

 暴力! 反対!

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