第35話ありがとう

『なんだよあれ』

 パレードを見ているらしきクズキがメールしてきた。

 うんうん。

 いくらロボット部だからって、車いすの六神合体はないよなあ。

 と返すと。

『そうじゃなく。なんでじいちゃんの形見が右足の部分なんだ。もっといいとこあると思う』

 合体はいいのか……。

『あのパワードスーツは、ところどころ焦げてるけど、そこがいいのか?』

 オレは、

「演出だよ」

 と一言返した。

 だってしょうがないもんな。

 火事場に入ってったら、シーリングファンのプロペラが落ちてきて危うく頭がぺちゃんこになるところだった。

 すんでのところで、あたらずに済んだ。

 オレ、体が五歳児でよかった……。

 パレードがすんで、ロボット部の本部があるテントまで行ったら、例のパワードスーツは直しに出されるところだった。

 うう……ごめんよ。

 しかし、何者なんだ? ママの大切なお店を破壊したのは! 

 ボロボロのパワードスーツを見つめていると、背後から人の気配がした。

 パッと入り口から光が入り、オレはさっとふり向いた。

 オレは逆光に驚いて、眼前を覆った。

「ケイゴ君……」

 え? その声は……女の人だ。

「真希奈さん……? どうしてこんなところにいるの?」

「ばか」

 むっ。

「馬鹿とはなんだよ」

「自分が呼んだんでしょ?」

 そう言って真希奈さんは、どうなっているのかわからない胸元から、スマホを出して、その文面を見せた。

『きたる**日、楽しいパレードがあるよ! 一緒に観よう? *月**日。オレ』

「なにこれ、頭わるそうな文章。もっとましな言い方があるだろうよ。誰だ、オレって」

 と、差出人を見たら桜木とあった。

「オレって、オレのことー?」

「そうよ、だから楽しみにしてたのに、しけた顔しちゃって。眉根よせちゃってばっかり!」

 真希奈さんは怒ってるみたいなんだけど、その晴れ晴れとした顔は決して悪いもんじゃなかった。

「え? オレってそんな顔してたかなあ?」

「してました!」

 うう、自覚ない……。

 でも、これを見て楽しみにして来てくれたってことは、やった! オレ嫌われてない!?

 うれしい。

 誰だか知らないが、メール送ってくれてありがとう。

 いや、送り主はオレなんだから、オレ、ありがとう! サイコーだよ。

 でもそうすると、オレはいつこんなメールを送ったんだ? そんな暇はなかったような……。

 顔を上げると、テントの出入り口付近で、でっかい背中が見えた。

「あ、あれは……!」

 オレはテントを出ると、立派な上背に話しかけた。

「おい!」

 と言うと、ゴリラのプロトタイプが、背を向けたままぐっとサムズアップしてきた。

 やっぱり!

「クズキ! ありがとな!」

 すると、ゴリラはうきうきした足どりで、手を振って、彼女(だろう。ワカコちゃんだなきっと)の肩を抱いて歩き出した。

 その横にもう一匹プロトタイプがいた。

 オギだろう。

 小柄なメスゴリラが一緒だ。

 新型の防護服のサナちゃん先輩が、もっていたポシェットの中から、小型端末機を出して、ピピッと操作するのが見えた。

 すると、オレの背後からスターウォーズのテーマが聞こえてきた。

 明るい、真希奈さんの声がする。

 オレは胸が熱くなって、彼らの背中にサムズアップした。

 おまえら……オギ、クズキ、サナちゃん先輩!

 ……ありがとう!

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