第34話還るところ

 ロボット部が主催のイベントだが、撮影許可をもらって名札をもらったはいいけれど、スマホに連絡が入った。

「ぼうや、どうしよう。どうしたらいいの?」

 スナックのママだった。

「そこはどこ? なにがあったの?」

「わからない。突然大きな音がして、お店が……お店が……」

「お店だね。周りに誰かいる?」

「ああ……ご本尊様が……燃えてしまう」

「二階の? 旦那さんの御位牌のあるところだね?」

 ママの説明は要領がつかめないけれど、なにか店が燃えてるらしい。

 画像を送ってくれと言ったら動画で、画面の角にママの指と、黙々と立ち上る黒煙の中に瞬間的に銀色の無人機が見えた。

「あれは!」

 オレは折り返し連絡で、

「安全なところへ逃げて。絶対出てきたら駄目だ」

 言い置いて、パレードの目玉、パワードスーツを装着し起動した。

 わお! 視点がちゃんと大人だ。

 久々に路面をこの高さから見下ろしたぞ。

 タッチパネルで動く。

 これなら簡単!

 パレードの練習しているうちに、一方ではスナック「令嬢」は無人機による攻撃を受けてしまっていた。

 なにくれとなく親切にしてくれたママのために、ようし! 一肌脱ぐぞ!

「おい、ケイ。なにしてる!」

「え? ロボット部のパワードスーツを借りてるんだけど」

「それは今日のパレードで部長が装着するんだよ!」

 うるさいのにつかまった。

 この、青白いのにやたらと納豆の粘りを利かせた性格が、夢の実現を促進するんだなあ。

 だけど、融通きかなそうなとこが玉に傷だよなあ。

「何事も試運転が必要だよ。それに人助けだ」

 ママがものすごく、たいへんなんだ。

「おまえは経営の苦しさがわかってない!」

「今はママの方が苦しんでるんだよ」

 ぴくっと他のロボット部員が反応した。

「充電器、携帯用だ。持っていけ」

「うん。助かるけどどうして?」

「ロボット部の宣伝になる!」

「さようですか。んじゃ、遠慮なく」

「スピード違反に気をつけろよー」

 んなこと、言ってられるかよ。

「人命が危ういんだぞ!?」

「急がば回れ!」

「くそ、初乗りなのに、注文が多いな!」

 まあ、失敗はできないんだけど。

 ん? まてよ? 急がば回れ? そうか! ここからスナックまでの道のりで、店に一番近い消火栓が、道をぐるっと迂回したところにある! 三人がかりでの消火活動が、このスーツがあれば、一人でできる!

 でかした! オレ! ヒーローになっちゃうなー。

 どうしよう。

 って、急げ! 

 今は一分一秒も無駄にはできない。

 そして、ああ。

 真希奈さんはどうやら無事だったようだ。

「アイナさんは、ここにはいなかったんだね?」

 二階のご本尊様を助け出したオレに、ママが言った。

「実は、アイナちゃんは、おとうさんのところへ通ってるの。退院が早まりそうなんですって。だからその手伝いに」

 そうだったのか! よかった。

 けど、オレは一番肝心なことを忘れていたんだ。

 真希奈さんが、一時的に身を寄せていたスナック「令嬢」がなくなれば、彼女は家へ帰るほかない。

 それは、いいとしよう。

 スナックが、何者かに爆破されたのはよくないが、百歩譲っていいとしよう。

 オレは、スナックでの彼女としか接点がないのだ。

 近江家なんて、知らない。

 やたらでっかくて、警備が厳重なんだろうな、としか思い浮かばない。

 由々しき問題……。

 がっくり。

 そうは言っても、今日は当日。

 パレードに使う、電動車いすをクズキから借りた手前、一目でも見ておかなければ面目が立たない。

 まあ、実際はそういいもんでもなかったんだけどさ……。

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