第27話仲間じゃない

「あはあ! なにをそんなに泣いてるの? 今更そんな、子供みたいに気をひこうったって無駄なんだから!」

「……」

「知ってるのよ。幼児化するまえ、あなた他校の女の子をフりまくって泣かせてたんでしょ? それも私の気をひくためなんでしょ?」

「……」

「なんとかいったら? モテモテのチャラ男君!」

「……」

「事件が起きて、都合よく私の目の前に現れたってわけね! もう知らない!」

 なにを、言っているんだ。

 真希奈さん、オレにはわからないよ。

 オレは敬語もなにも振り捨てて叫んだ。

「馬鹿な事言ってないで、早く帰ってこいっつってんだ!」

 真希奈さんは、一瞬だけ黙り、じっとオレを見た。

「知らない! あんたの思い通りになってたまるもんですか!」

 さよなら! と言って、真希奈さんは駆け去った。

 カウベルを鳴らして、開け放ったドアから身を滑り込ませてきたゴリラとすれ違うと、彼女はちらりとこちらを見て、ヘルメットをかぶる。

 ゴリラの紅い目がチカチカッとして、通信回線で誰かとコンタクトをとっているのがわかった。

 スマホをかなぐり捨てて、彼女は行ってしまった……。

「拾わなくていい!」

 オレはドア口付近の、身をかがめようとしていたゴリラに言った。

 そいつは斜めにオレを見て、一瞬肩を震わせた。

 そして、真希奈さんのスマホをオレが拾い上げると、

「こいつは驚いた。まだ五歳児のままとはな。科学部の薬もよく効くもんだ」

 何者だ! クズキに化けてた(って、オレが勘違いしただけだってほんとは知ってる)奴とは違う。

 防護服がなんとなく最新ぽい。

「なぜ薬のことを……おまえ、科学部とグルか!?」

「さあね。じゃあな。真希奈はオレがもらう。おまえはそこで指をくわえてな」

「なにい!」

「「こいつ!!」」

 そのゴリラは振り返りざまにゴリラ二人に殴られた。

「ケイ、近江先輩を追うんだ」

「このやんちゃくんは、私たちにまかせて!」

 外から追いかけてきた、オギとサナちゃん先輩が、マスクをとって言った。

「こいつは近江先輩にべたくたしてたやつだ!」

「あからさまに怪しい! マスクを外しなさい!」

「け、県警に訴えるぞ!」

「マスクをとったくらいで警察は動かないわ! ジッとしてなさい」

「知るか。うおー」

「暴れるな! っくそが!」

 勢いをつけて、まさに本物のゴリラのように二人をふっとばして、そいつはダッシュをかけた。

 迷ってる暇はない。

 もう、真希奈さんはゴリラたちに紛れてしまった。

「えーい、行かせるもんか、おまえを!」

 二人がタックルをかけて追いすがった。

 そいつは計算外だったらしく、足をとられている。

「頼む、オギ、先輩!」

 真希奈さんを、追いかけなきゃ!

 オレは走った。

 走りながら、オレは情けなかった。

 泣きっ面をさらしたからじゃない。

 真希奈さんに、まったく信用されていないオレって……。

 くそ!

「いつ……オレの思い通りになれつったよ? いつオレがそんなこと言った!?」

 わけがわからないよ。

 足が痛い。

 ぶかぶかのスニーカーが、靴擦れを起こした。

 だけど、見つけなきゃいけない!

「このままじゃ、真希奈さんが危険なんだ。ちゃんと話くらい聞いてよ。ああ、わからずや!」

 オレは足を引きずりながら、界隈をさまよった。


 そのとき、真希奈さんのスマホが鳴った。

 オレのじゃない。

 スターウォーズのテーマだ。

 通話に出ると、女の子の声がする。

「サナちゃん先輩!」

「その呼び方はどうなの?」

「ごめんごめん。えーっと」

「まあいいわ。私たち、ちょっと囲まれちゃってるの。あなたの仲間だって言ってる。どうしたらいい?」

「仲間? オレの? そんなもんはいないよ。人違いだ。オギに聞いて」

「それが、今ばらけちゃって……」

 スマホから(多分カラオケ店の)備品をどうにかする音が聞こえ、相手が変わった。

 オギだ。

「ケイ、どこであんなやつらと知り合ったんだよ? オレら拉致られるとこだぜ?」

「おう、そこにクズキはいるのか? いないよな」

「ああ。影一つない」

 サナちゃん先輩と一緒にオギはいたし、クズキは今、合コンセッティングしてくれって連絡が来たばっかりなんだ。

 あいつは、ソレばっかりな。

 オギとクズキ以外の、モブはオレの仲間じゃない。

 その他は、親が必死で稼いだ金をばらまく嫌味なクラスメイトくらいだ、そんなんにかまける時間はないね。

「いいから、適当にたたんじゃって」

「ええーっ、いいのお?」

「うん、あ! 怪我しないように気をつけて。それじゃ」

「気をつけてって……」

 オレは、オギが何か言いかける前に通話を切った。

 こみいった話は、苦手だ。

 物事は、一秒でも早く切り替えたい。

 一秒で! たどり着きたい……真希奈さん! ああ、真希奈さん!

 その時は、あとでどんなに後悔するか、思いもしなかった。

 オレはシューマという男のすることを、どこかナメていたんだ……。

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