第25話プロトタイプの罠
「あれっ、クズキ」
オレは思わず声を出した。
ヤツが「令嬢」前の電柱からこちらを見ていたからだ。
なぜそのとき、相手をクズキだと思ったのか……それはプロトタイプの毛がもっさもさした防護服を着ていたからだ。
「なんという素早いやつ」
不思議に思い、迷っていると、ヤツはオレを待っていたかのように、手招いた。
むーん。
なんだよ、クズキ!
「こっち、こっち」
「おまえ、なにしてんだ? 出て来いよ」
「クラスで有名になってるんだぜ。近江先輩がミズショーバイしてるって」
なんだって! 有名だと? ばれてたのか!
「近江先輩が? バカを言うな!」
どうしよう。
勘違いだと強く言いたいが、それではなぜ知っているのかと疑われる。
オレも関係者だとは言えない。
「それより、学園に戻れば? あてにならない噂にどこまで踊るんだおまえは」
「知らねえのか!? 近江先輩、ご両親がいなくなって、家出中らしいって」
「学園には来ていたんだろ?」
とっさにそんな言葉が出た。
「だからだよ、本人が名刺を配ってたらしい」
そんな!
ピキッ。
これは……真希奈さん。
まずいぞ、ちくしょう!
オレは叫びたかったが、なにくわぬふりで、いつものようにおちゃらけた。
「そんなの、クズキのうっそだー」
「本当だ!」
「またまた~~」
「おまえだって、知ってるだろう!」
知ってるけど、おまえの情報源どこだ?
なぜ知っている?
ヤツが手にしているのは、妙にてかてかしたカード。
割とちいさい。
名刺サイズ……って名刺!?
「な、なんでこれが!」
「先輩が配っていたらしき名刺だ。コンピューター室に捨ててあったんだな」
ちくしょう! あれを復元したのか!
「は、暇だなあ~~おまえも」
と言いながら、目は名刺にくぎづけだ。
こんなもの! もう一度破いてやる!
オレはクズキの手からカードを取り返そうとぐいぐいひっぱった。
離せよこいつ!
「おっと、これはもうオレに所有権がある。捨ててあったんだからな」
「おまえ、まさか……よからぬことを……」
復元された名刺。
オレが睨んだら、クズキはしょうがないなと、肩をすくめた。
「あくまで噂だけどな、今のところ」
オレは思い出した。
あの名刺には、真希奈さんの特徴など一つも書かれていなかったこと。
それなのに、わざわざコンピューター室まで行って、裁断した名刺をしっかり読めるまで復元したこと。
それをオレに見せたこと。
――しまった! こいつはクズキじゃない!
「ヘルメットをとれ! 顔出して話しやがれ!」
「……じゃ、また明日な」
このゴリラ!
「顔見せろってんだよ!」
「一週間後が楽しみだな、桜木」
「おまえは誰だ!」
「言っておくが、オレは嘘をつかない主義だ。だが、本当のことを言うとは限らない」
それはクズキの声なんかじゃなかった。
ゴリラの防護服だけ同じプロトタイプだったが、声が違う。
なぜオレはこいつをクズキだと思ってしまったんだ!?
「くそお!」
今は学園都市内が閉鎖されつつあるから、真希奈さんは逃れようと思ったら自分の意思で郊外へ出るか、姿を隠すほかない。
学園に知れたら、この世の終わりだ! 身の破滅だ!
早く彼女に、このことを知らせなくちゃ!
……でも、噂が立ってるなんて、さっきのゴリラが言ってただけのこと。
実際はどうだかわからないぞ。
いや、迷っていたら手遅れになるかもしれない!
とにかく真希奈さんに会わなくちゃ! 早く!
オレは「令嬢」の裏口へ回った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます