第24話親友ってやつ
「クズキ――」
「なんだ?」
「あのな――」
オレはちょっとタメてから呼吸を一つ。
わかっている。
オレはこいつを利用しようとしている。
オレの中のモヤモヤを晴らすために。
くよくよすんな、と言ってもらうために。
「オレ、ゴリラになりたい」
「はあっ?」
「オレ専用の防護服、どこかにないかな。そもそも学園都市全体に配る手はずだったんだろう?」
「理屈で言えば……そうなんだろうな」
「そんな大がかりなことを計画しながら、オレのだけないって、なんなんだ? 悪意なのか?」
「いや、それは……」
拡声器の向こうでもごもごやっていたクズキは、さんざん待たせたあげく、ヘルメットをとって頭をかいた。
「この防護服は、科学部が考案したものだからなあ。お偉いさんが間違ったことするとは思えないんだがなあ」
そういうクズキの髪の毛は、汗ばんでしっとりしていた。
「そう、快適でもないのか? その防護服」
「いや……オレのはプロトタイプだから」
「なんなの、それは」
「だから、試作品」
「わかるよ、言葉の意味は。どうして、おまえに行き渡ったのが、試作品なの?」
クズキは黙って唇をひん曲げている。
「どうしてって、科学部が」
「科学部が?」
「プロトタイプを……」
「今、クズキが着てるやつな」
「学園に持ち込んでいたやつを、拝借したから……」
あの、車座になって歌っていたやつはおまえか!
「他にも、おまえみたいなのがいるの?」
「うん」
「何人? だれとだれ? 言ってみ」
「誰とはいえないよ。ただ、あれだ。ピカッと光ったら、教室にいたやつらは即、着たよ。だってそういう宣告があったんだ」
「オレは知らない」
「うん。だから、飴あげた」
はあ?
「朝っぱらから、科学部が学園都市全体を実験室にするってメールが届いてて、馬鹿だろあいつらするわけねえって思ったけど、解毒薬をくれるっていうからマジなのかなって」
解毒薬……?
「ほら、飴やったろ?」
あの、プチプチした食感の?
「もしかして、ソフトキャンディー?」
クズキはこくんと首を縦に振った。
「思った通り劇薬みたいだったから、ちょい心配になって」
都市を出て行かなかったのは、そういうわけらしい。
「ひとを、実験台にするなよ」
「オレに、言われてもなあ」
「で、合コンはなんの意味があるの?」
「健全なおつき合いを始めたいから?」
そこはひねりなしかよ!
あ、眠い。
突然、目の前から何もかもが消えて、ふっと気づいたらクズキの顔が目の前。
「脳震盪か?」
やばい。
ヤバイ、ヤバイヤバイ。
なにがなんだか、わからない。
オレは、クズキの腕の中で浅い呼吸をくり返す。
「なんだ? 今のは」
「いつものやつか?」
「多分……」
脳が、拒否反応を起こしやがった。
今日は岸本先生はいない。
学園以外でお世話になったこともない。
クズキみたいなのといると、いつ気を失うかわからない。
ええい、面倒だ。
「オレはスナックへ行く!」
あ。
思わずスナックって言っちゃった。
店名言ってないからいいか。
「スナック菓子? 味覚まで幼児化したのか?」
がく。
もう、知るか。
「ア! おい、走ると脳みそゆれるぞ!」
「おまえにコケにされるよりましだ!」
「深呼吸を忘れるなー。なんでもがむしゃらにやれってんじゃねえぞ。呼吸だ、呼吸!」
ありがたい助言だよ。
否、オレの脳みそが揺さぶられるのはクズキたちといるときだけだ。
だから、ここは走り去るのが一番。
「ふあああ! 眠い」
口に出してから、そうだったと気づく。
夕べろくに寝てなかった。
ぼやいてみないとわからないほど、オレはオレの苦しみに対して鈍感だった。
ここ最近の事件で、いささか感覚器官が鈍磨しているらしい。
まあ、その方が都合がいいんだ。
嫌なことはなるべく、ことがすんでから思い出す方が、精神衛生上よいから。
オレは首をふりつつ「令嬢」にとってかえした。
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