第22話布団のむこうがわ

 身が縮むような、寒い夜。

 オレは一人で「令嬢」の二階にいた。

 急な階段をトトトッと上ったところにある、アルバイターの休憩室兼、寝室だ。

 マジ寒い。

 奥まった方から風が吹いてきて、仕切りであるガラスサッシを開けると、仏壇横の窓が開いていて、嫌な気分になった。

 アイナさん(真希奈さんだ)とは相部屋になったけれど、あれやこれや、それやどれやらでまともに口をきいてない。

 真希奈さん父の、見舞いの話が出てからは、あちらが避けている気がする。

 やはり、都合の悪いことでもあったのか?

 おとうさんの病状が思わしくないのか?

 聞くべきじゃない。

 聞くべきか?

 ――そこまで踏み込むのか?

「アイナさん、いや真希奈さん」

 踏みこむべきじゃない。

「あの……おとうさまの御具合はどうなさいましたか?」

 ふと、敷いた布団の向こう側に、赤い眼鏡をかけた真希奈さんが、音をたてて教科書をふせて、ゆっくりこちらを見るのがわかった。

 そこに険悪なものはなかった。

 ぎこちなくなってしまったオレの視線をからめとるように、真希奈さんは言った。

「どうも」

「え?」

 真希奈さんは、眼鏡を片手で外すと、枕元に置いた。

 ぱっと髪を空に舞わせて、そのまま背後に倒れこむ。

「おやすみ」

 え? え?

 オレ、なんか変なこと言ったかな? 敬語間違えたかな? タイミング的にウザかったかな?

 胸の底が冷えて、オレはその夜眠れなかった。

 真希奈さん――。

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