第21話逃げられない

 オレは一日、考えた。

 誰もオレをおぼえていない、誰もオレを知らない世界。

 それは、見知らぬ外国へ知らぬ間に放り出されたのと同じだ。

 愛する人もなく、気安く言葉を交わす相手もなく……まあ、オレは学園都市内では女好きのする面らしいから、向こうから声をかけられることもあるかもしれない。

 だけど、五歳児の今では……オレ、なんかなあ。

 オシャレでもなんでもねえし。

 小学生になったかどうかもわかんねえし。

 もう一回、人生やりなおしかあ。

 逢いたいなあ……オレはあの頃の姿なのに、もう、十年経つんだなあ。

 わけのわからない事態に、オレの人生まっさかさまで。

 しかも、ゴリラ同士ではヘルメットに着いた通信機で会話が普通にできると聞いて、またびっくりだ。

 いろんなゴリラがいるが、真希奈さんのヘルメットにはゴーグルがついていて、通信中はライトが点滅する。

 そういうのが、街中にはいーっぱいいた。

 オレ、ナチュラルにハブられてる。

 ちょっと、ズルくね?

 あーもう、いい加減にしてくれよ。

 いつもいつも、オレの知らないところでみんな盛り上がってくれちゃって。

 オレのところへ来るのは、決まって頭がおかしくなっちゃった手合い。

『あなたは、私の事、なんにも知らないでしょう? それなのに……』

 おっと、ストップだ。

 なんにも知らないし、いらないよ。

 だから断ると言っているんだ。

『それなのに、拒むの?』

 充分だよ、それだけで。

 知り合いでもないのに……そりゃあ、誰かの紹介で挨拶くらいはしたかもしれないし、どうでもいい相手だと決めつけるには早いだろう。

 しかし、それとこれとは別だ。

『別に、オレじゃなくてもいいんじゃない?』

『あなたには私じゃないとダメなのよ!』

 すっげー、思いこみ。

 せめてこれが親しくなった後ならまあ、考える余地はある。

 それが、顔も知らない(おぼえてない)相手なんだもんな。

 ストーカーから始まるラブは、そうそうない。

 もう少し、距離感をつかもうよ。

 オレ、そんなに気安くないの。

 気軽くやっていけないの。

 じゃれあえる仲間ならいるし、アホやって愚痴る相手も足りてる。

 あんたらに、何を期待したらいいんだよ?

 つか、そっちはオレに何を期待しているんだよ?

 そこんとこが、つかめねえ。

 つかめないうちは、疑心暗鬼になるほど心配もするし、疑いもする。

 これが「お友達として」なら、つきあうよ。

 友達は、何人いても構わない。

 あなたの恋女房にしてと言われたら……断る率がぐんと跳ね上がる。

 ていうか、ヒャクパーだな、オレの場合。

 つかめないつき合いというのは、腹の探り合いで本当、疲れる。

 だから、もう嫌なんだ。

 だけど、もう少し簡単に考えるべきだったな。

 今のおれは、学園に行く必要性がない――五歳児だからってのもあるが、学園都市そのものが、機能しなくなってきている。

 どこを見ても、ゴリラばっかり。

 しかも、せっかくの通信機能もそっちのけで、昼間から公園で日向ぼっこだの、夜はスナックでダベるだの、年よりばっか。

 若者が、ほとんど都市外へ出ていってしまったようだ。

 もう、誰にも止められないんだろうか。

 どうして、オレはここにいるんだろうか?

 わからない……。

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