第19話健全ってなんだよ!?

「桜木。よお! なにしけた面してんだ?」

 見かけはあんなだが、声でわかる。

「クズキくらいだよ。こんななりのオレに声かけてくるの」

 オレが顔面をなでおろすと、クズキは苦笑する。   

「まあな。で、電動車イスはどうだった?」

「え? なに」

 借りたのだ。

 フェスティバル用に。

 こいつから。

「なあにって、いやだから……」

「ちゃんと調整してるよ。ロボット部が」

「そっか。じいちゃん死んじゃったから、返さなくていいぞ」

 きゅっと下唇を噛んで、クズキは言った。

「それは……サンキュな」

 なんだかんだ言っても、クズキは心の友だなあ。

 そう思って噛みしめていると、

 なんだありゃ!?

 雲のまにまに、光の筋を遮ってはふらふら浮かぶ、銀色の物体。

 それも器用に前後左右にふれる。

「無人機か!?」

「まあ、そうだろう」

 クズキが言った。

 落ち着きはらってんじゃねーよ!

 オレは、あれを見たときから寒気と吐き気でいっぱいだ。

 どうしたっていうんだ?

 なにか……なにかを思い出す。

 光った!

 どんがらがっしゃーん!

 体育で使う、合図用の大太鼓を、空からいっぺんに落としたような爆音。

 こりゃいけねえ!

 様々な想いが錯綜した。

 オレは、いつのまにかクズキの下になっていた。

「おい、早くどけよ!」

「まにあった……」

「苦しいんだよ、おりろ!」

「あ、ああ……」

「ふいー」

 猿の防護服は、ずいぶんとカサのある毛むくじゃらだと思ったら、毛の一本いっぽんがチューブになっている。

 これ、てっきりドレッドなのかと思っていたぜ。

「これはな、加齢臭を無毒化して発散させるメカニズムなんだよ。皮膚呼吸対策な」

「どうなってるんだ? 加齢臭って汗腺からでる分泌物が酸化してできるもんなんだろ」

 ちょっとググったら出てきた。

「その加齢臭のもとが、大量にまき散らされてるんだ。たまったもんじゃないよ」

「そっか」

 じゃあ、大げさな防護服も必要なわけだ。

 しかしなんで、オレのとこには来ないんだよ。

 防護服一着がないために、えらい目にあいましたよ、オレは。

「クズキ、ロロロ・ロシアンルーレット爆弾ってだれが落してるんだ? それも学園都市にだけなのか?」

 すると、クズキは妙な反応を返した。

「んん。知らせてもいいもんかなあ……」

「なあんだよ! 友達がいのないやつ」

「ばらすとアレがなあ」

「てめ、知ってるなら早く言え!」

「うーん。とりあえず、合コンをセッティングしてもらわないと……」

 なに言ってんだ?

「ゴリラの合コンなんて、需要あるのか? いや、かまわねえけど。おまえらがどんなシュミ持ってようと。毛をひっからませて何をしようと勝手だよ?」

「健全なつき合いがしたいだけなんだよ。オレらは」

「すりゃあいいじゃん?」

「オレらはおまえみたいにはいかねえの、モテに縁遠いからさあ」

 そんなの知ってる。

 だからなんだ! オレにはオレの事情がある。

 そう言うと、クズキは気になることを言い始めた。

「そりゃあなあ。ケイ、事情がないやつの方がめずらしい。誰にだって、本当は事情があるはずなんだよ」

「はず、ねえ」

「おまえみたいにロマンチックな面してねえから、言わねえだけで。欲しいもんも欲しいといえない奴らの事情とやら、いっぺん聞いてみたらいい。おまえだけじゃねえぞ?」

「わからねえよ。そんなの」

「いっぺん外の世界を見てみたら? つってんの」

「わかりたくもねえよ」

 オレはスナック「令嬢」に急いだ。

 本当の年相応でない、願いに敗れた男の涙。

 笑ってください、アイナさん。

 夢に破れたこの汗のしずくが、もしも本物ならば。

 あなたはなんと言いますか?

 黙って笑ってくれますか?

 ただただおかしがって、許してくれますか?

 オレは……ただ。

 ただ……。

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