第17話一緒にいたいんだ

「ごめんなさいママ」

 オレは真希奈さんが「令嬢」の二階に借り棲みしていると聞いて、自分も一緒にいられないかと必死で食い下がった。

 行くところがない、両親もいない、と嘘をついて。

「まあ、一人も二人も同じだわ。でも、店の仕事は手伝ってもらうわよ」

「ママ、この子に酒瓶持ってこさせるなんて無理です」

 オレは頭をかいた。

 その通りだったから。

「でもボトルの埃をとって、磨いてくれたらうれしいわ」

「ア……」

 後で確認をしたら、店のボトルのほこりなどをとる作業は、真希奈さんが初めて行った仕事なのだそう。

 このお店とママ、双方の重みが、真希奈さんをつなぎとめている。

 ならば、オレはこの場所が、彼女の癒しであったらいいと思う。

 一日、店の窓や鏡を磨き、床をモップでこすった。

 キレイな住まいは、それだけで癒しなんだ。

 怒りっぽい人も、喧嘩ばかりしている夫婦も、寂しい人も部屋をきれいにすると穏やかな気持ちになる。

 他者との物理的距離も、心を落ち着ける役に立つ。

 が、今は掃除そうじ!

「まあ、まめまめしいこと。なんてお利こうなの」

「へへっ」

 オレは少し得意になった。

 だけど、真希奈さんの遅い帰りに、少し胸がすうすうする感じがした。

 彼女、あの格好でどこでなにをしているのだろう。

 オレは学園にもいけないしな。

 このままっていうのも、頭が痛い。

 事情は知らないけれども、ああ――ご両親がってのもあるけれど――真希奈さん、このままじゃあ……。

 はあ。

 オレが気をもんでいてもしかたない。

 こんなに頭がおかしくなるほど考えても、彼女は彼女。

 オレにできることはないしな。

 いや……一つだけある。

 ロボット部には大学の研究室につてがあると聞く。

 もしかしたら、真希奈さんの役に立てるかもしれない。

 しかし、大学も同じ学園都市内だから、みんなゴリラなんだろうな。

 どうするかな。

 五歳児じゃ、防護服は必要ないって、電話で頼んでも配ってくれなかったしな。

 けど、なんで俺が幼児化してるって知っているんだ? 

 グルになってるんじゃないだろうな?

 ゴリラハントしていいかな。

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