第16話フラグは立たなかった

 四人から聞いた情報によって、商業街の裏路地へさしかかったところで、大きいゴリラに囲まれて、奥へ奥へと押し込まれていく、か弱そうなゴリラを見つけた。

 一頭のゴリラが、獲物の頭部を無理やり引っこ抜く。

 現れたのは恐怖に頬をひきつらせた、金髪の女――女っていうか! 

 真希奈さんじゃないか!

 助けなくちゃ!

 オレは、とっさにゴリラの群れをスクリーンアウトして、彼女の毛むくじゃらの防護服に包まれた腕をとった。

 だいぶごつごつしてるが、そんなの気にしてる場合じゃない。

「こっちへ!」

 言ったとたん、一頭のゴリラが蹴りを入れてきた。

 軸足にしていた方の膝をやられた。

 きたねえな。

 喧嘩技もってるなら、容赦しねえ。

 オレはがくがくとする膝を庇いながら、相手の急所を狙って男の魂をパンチした。

 効いた……ような感じはしない!

 クソッ。

 防護服はさすがに硬い。

 そのとき、

「火事だ! 路地から火がでたぞー。消防車よべ――」

 叫び声がして、他のゴリラは逃げて行く。

「けっ、見逃してやるぜ」

 オレはもう一度、真希奈さんを引っ張って表へでた。

 足がしびれていたが、火災に巻き込まれては大変だ。

 すると出口からこちらを見ていたゴリラが、ゆうゆうとやってきて――

「よかった、おまえに何かあったら、どうしようかと……」

 真希奈さんは声だけで分かったのだと思う。

 捕まえていたオレの手を振り払うと、まっすぐ目の前のゴリラにすがりついていった。

 見知らぬ男が、これまた悠然とヘルメットをとる。

 オレは――なんて無駄なことをしたのか、と小さな自分の手を見た。

 本当に……こんな小さな手でなにができたというのだろう。

 世界が、現実感をなくす。

 真希奈さんが、遠かった。

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