第12話思い当たるフシが……ない!
ハンカチを、置いてきた。
使ってくれるか、わからなかったけれど。
あれは、夢ではなかったんだな。
真希奈さんは、今、スナック「令嬢」でアイナ嬢として働いている。
そっけない名刺に書いてある。
もちろん、本名は記載されていないし、メアドその他の連絡手段となりうる情報もない。
まあ、オレは開店前に来てタダでミルクを戴いてしまうという、迷惑な闖入者(ちんにゅうしゃ)にすぎなかったんだろう。
そういうことだ。
オレは、アイナ嬢の名刺をコンピュータールームのシュレッダーで裁断して、そのまま捨ててきた。
今、学園では毒ガス対策で、教員も生徒もゴリラの防護服を着ている。
だからぱっと見、実際に彼女が登校しているのかどうかはわからない。
真希奈さんは、今日も「令嬢」で働くのだろうか。
ていうか、ロロロ・ロシアンルーレット爆弾ってなんだ。
ロシアが関係してるのか?
物騒な遊びにたとえただけか?
政府は、すぐに対応できる態勢にあった。
それは――こうなる危険性に気づいていたってことだ。
人間の身内で生成される、毒ガス――加齢臭のもと。
確かに、たしかにおそろしいガスだ。
オレも五歳児になっていなければ、通勤電車で隣に立っただけで迷惑ヅラされる親父と同様になっていたってわけだ。
ふざけているが、嫌がらせとしてこれ以上のものはない。
男女の区別なしに、腐りかけの匂いが自分の体から発散されるのを我慢できる者はそもそもいないだろう。
ていうか。
誰がそんなもんを作り出したんだ?
暇な奴なのか?
いや、加齢臭の仕組みを解明しただけ偉い。
悪用しなければ、だが。
相当、研究しているはずなんだ。
だが、そんなものを世にばらまいてどうする? アホか。
しかも、学園都市だけに限定して……って、テロか?
テロなのか?
無差別じゃなくて、この学園都市に宣戦布告してガス爆弾、落としたっていうのか?
そして政府は、敵が誰だか、知っている――?
ああ。
考え事をすると腹が減る。
貧しきは、滅ぶべし。
他に何と言えばいいのか、わからない。
目が回りそうだ。
くらくらする。
「低血糖」という言葉がぼんやり浮かんだ瞬間、呼吸困難になりオレは意識を失った。
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