第9話らりるれパラレルるるるるるー

「ロロロ・ロシアンルーレット爆弾?」

 吃音ではない。

 腰から上だけドレス姿のアイナさんが、説明してくれた。

(ネコ耳がどうとか、言っている場合じゃない)

「でも、この分だと日本は無事だったんですね? 自分だけがおかしいなんて、わからなかった」

 アイナさんは、首をかしげながら水と地図を出してくれた。

 喉が、乾いてたんだよな。

「無事なわけないでしょう。現にあなた、わけもわからずさまよっていたでしょう?」

 それはまあ、そういうことに……なってるなア。

「その防護服、よく見せてくださいませんか?」

 カウンター席によじ登ったオレは、無遠慮に両手を差し出した。

 だって、これしかないもんな。

「うん」

 アイナさんは、ヘルメットにあたる、着ぐるみ(にしか見えない)頭をもってきた。

 それは両手にズシリと重たい。

「中はメッシュで送風機つき。ずいぶん快適につくってあるんですねえ」

「そうなの。ゴーグルもはずせるの」

 アイナさんは、グラスをピカピカに磨くと棚に戻した。

 どうやら、つい最近アルバイトとして始めたよう。

「手つきが、少々雑だね」

「え?」

「いえいえ」

 わかる。

 何年勤めても、たどたどしい手つきの人はいるんだ。

 それはオレのことか。

「いやいや、アイナさんは知るわけないし」

「変な子ねぇ」

「ところで」

「なに? ぼうや」

「ぼうやというのは、やめてください。オレ、いや、わたくしには桜木圭吾という名前があります」

「……ぼうやは、おいくつ?」

「十五になります」

「……お砂糖よ」

「ブラックで」

 嫌いなコーヒーを飲むことになった。

「子供のくせに、背伸びして。ミルクになさい」

「そんなにあなたと違わないでしょう。紫乃宮学園二年生、近江真希奈さん」

「ここではアイナ。名刺、あげたでしょ」

 と言って手鍋を持って、奥へ入った。

 アイナさんは、コンパクトを持ってきてパクンとあけた。

 鏡をつかえと?

「おやこれは、妙な」

 オレは、おどけたファニーフェイス。

 いや、そこには五歳くらいの青白い顔が、どんぐりまなこでこちらを見ていた。

 うーん、やっぱりか。

 べつに知りたくもなかったんで無視してたんだが。

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