北阿古霜帝國民族誌《エッタ・イグニブラ・ユト・ザデュイラル・ゼネプブイサリィ》 by 富士普楽 様
「完結作品を掘り起こす!【Part5】」というスコップ企画に参加して頂いた作品です。
本作を読み始めてすぐ、「とんでもない作品をひいてしまった…」と思いました。
本作は、文化人類学者を志す青年の手記形式で語られていきます。
基本的に話の冒頭で設定語りをするような作品は推奨されない事が多いですが、この作品はバリバリそれをやってます。
そして私はその設定に強く惹き付けられました。
設定はこの作品独自の言語から、人物名や地名も語感に馴染みがないものばかりで、初めは登場人物の名前さえ覚えるのに苦労しました。
でも一度も「ここで読みやめようか…」とはなりませんでした。文章のどれもを流し読みする事なく、じっくりと読み込みたくなる作品でした。
タグの「カニバリズム」を見て、私は即座に興味を惹かれました。
このお話は、人を食べる魔族(食人種)の住む土地に、上記に記した人族(異食種:人以外を食べる種)のイオが留学に赴いた際の記録のお話です。
ガラテヤの国に住む人族(異食種)の人々は、昔から人を食べる魔族(食人種)はけだもの、食人鬼だと彼らを嫌悪していました。
しかし学者の卵であるイオはその考えに疑問を抱いていました。
魔族の姿形は自分達と(鋭い犬歯と角があるが)大して変わらない。彼らには彼らなりの独自の文化がある。
魔族は人族を食べるが、彼らが最も好むのは同族の肉である。話に聞く通りのただのけだものでしかないのなら、同族同士で殺し合い、ここまでの繁栄には至らなかったはずだ、と。
イオは自分の知的好奇心を満たす為に魔族について調べますが、ガラテヤ国内では魔族の悪行についておどろおどろしく語られるばかりで真実味が感じられません。
ならばと考え、彼は魔族の住むザデュイラルの国に留学する事にするのです。
当然ながら周りは猛反対しますが、彼はなかなかに頑固者でついにそれを強行してしまいます。
これは留学先で、彼が実際に体験した体験記です。
話の中で、「この人は死に役です」と明記される場面があります。
小説として驚きの種明かしですが、その種明かしをされた状態で読むのがなんとも不思議な感覚にさせられます。
しかしこの作品は人を食べる者達の話なので、この種明かしは重要な意味を持っています。
その何とも言えない居心地の悪い感覚を、主人公であるイオと共有する事が出来るからです。
いくら望んでも、どうにもならない事がある。
そういう絶望を感じさせるお話って、苦しいんですが私は好きです。
とてもリアルに世界を見ている気がするんですよね。
作中のシーンで、実際に人体を解体するシーンが出てきます。
記載される前に、今からそういった描写がありますよと明記されているので、読むか否かは読者の判断に委ねられます。
私はグロいのが苦手で、他作品でむごいシーンがあったりするとそっ閉じする事があるのですが、この作品に関してはここも読んでおこうと思わされました。
結果は、気分が悪くなる事もなく最後まで読む事が出来ました。
が、やはり注釈にもある通り、安易にこのシーンを読むのはおすすめしません。それなりの覚悟をする必要はあるのかなと思いました。
それぐらいにインパクトのあるシーンではあったのですが、でもその解体シーンまで読み進めた方は、ここもきちんと見ておくべきだ、という気分にさせられるのです。
その行為に残虐行為以外の何かを感じられるので、普段は読めない筈のシーンを読み終える事が出来たのだと思います。
作者様の近況ノートに書かれた参考文献リストも覗かせて頂いたのですが、その量に驚かされました。
この知識量があって初めて、主人公イオの学者の卵としての知的好奇心や詳細に物事を捉えようとする姿勢の現実味を感じる事が出来るのだろうなぁと感嘆しました。
それぐらい、彼は時に狂信的ともいえる行動を取るのです。
なかなかに強烈な題材ですが、本作の魅力は血生臭い所ではないと思います。
主人公のイオがなかなかはっちゃけた人物なので、魔族達との掛け合いも楽しく読めますし、異文化交流でお互いにきょとんとし合う様は読んでて笑えます。
イオの目を通して、食人鬼と言われる魔族達の本来の素性を理解していくのはとても興味深かったです。安易に納得出来ない所が特に!
理解は出来るが、共感はしない。
実際の異文化交流でもある事だよなぁ、と思います。
きっと私同様、"その瞬間"を貴方は固唾を飲んで見守り、目を離す事が出来なくなるでしょう。
ぜひ、ご覧下さい!
【
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます