第5話 同人シナリオは安いのか

恒例のタイトル詐欺である。同人シナリオが安いか高いかの是非を問うわけではない。また大手サークルによる異様に安い価格設定による価格崩壊の話をするわけでもない。さらに言えば、「貴方の好みのシナリオ書きます」と数千円程度で募集をかけている身の程知らずの話でもない。


シナリオ本といっても様々な価格をつける人がいる。2本で2,000円であったり、5本で1,000円であったりなど千差万別だ。


例だしたので、この2冊について顧客目線で考えてみよう。

と言いつつ本題に入る前に、今わざわざユーザーを「顧客」と呼ぶことについて説明する。

この場で「同人誌」は同志同士が~などというとおかしくなるのは、1つに原価割れにならないようにする以上の価格設定つまり利益を生み出させるような価格にした場合、同志相手に配るのではなく明確に商取引の段階に突入する。第2に同じく商取引だが、同志に向けたつまり自分の性癖を書き綴ったものではなく、例えば「初心者が見ても遊びやすいように」などといった対相手を考えたよう努力をしている以上は、自らの性癖に突き刺さる人以外の不特定多数に見てもらいたいという努力があるからである。


顧客目線の話に戻そう。

顧客から見て、値段が安い/高いと思うのは二通りだ。

・金額そのものが高い/安い

・内容や分量に対して高い/安い


金額そのものが高い/安いはあまり関係ないだろう。というか高々数百円数千円程度であるし。これが1冊10万越えになるとちょっと考え始めるが(死海文書の翻訳買うか金額的にきついのですごい悩んでる)。


内容の方だ。上で出した例でいえば、シナリオ2本収録2000円だが1冊200ページと言われたらきっと安いと感じるだろう。しかしシナリオ2本収録2000円1冊32ページは高いだろう。そしてシナリオ5本1000円32ページは安く感じるだろう。

即ちページ単価とシナリオ1本当たりの単価だ。


今のセッションの形態を考えると、長いシナリオで何日もかけてオンセをするのか、短いシナリオを何本もやるのがいいのかは個人それぞれであるので、ページ単価が良いのとシナリオ単価が良いののどちらがいいかは判断がつかない。

しかし、値段だけを見ているが、その同人誌を買い遊んでみてわかるのは、シナリオ5本1000円であっても、1本遊んだら、これ買う意味はあったさて次のシナリオをやろうという気になるだろう(もちろんシナリオが面白かった場合であるが)。

これはバリューエンジニアリングで言うところの顧客満足度だ。


同人誌の発行側の立場から見よう。

発行側は簡単だ。自分が書けた工数や資料代などの原価から金額を設定すればいい。価格崩壊だろうが暴利だろうがどうでもいい。


さてここでようやく本題に入る。

同人誌の価格が高いという話になるとでてくる「この金額は安い」という反論だ。しかもこの話が出てくるのは往々にして「シナリオ5本1000円」の方だ。

普段シナリオを書く人からすると、シナリオ5本1000円(即ちシナリオ1本200円)は安く感じるだろう。しかも理由は、「自分が書くとシナリオ1本5000円近くはするから」だ。


今回取り上げるのはこの発言だ。

まず、シナリオ1本書く金額は1本当たりの原価だ。しかし購入するときのシナリオ(ここでいう1本200円)はシナリオは製作者がかかった原価と頒布部数から売値を設定し、その売値を内容物で割ったものだ。物の数が違う上に個別原価計算と総合原価計算比べて「何が安い」だ。

そんなもん大量生産品の方が安くなるに決まっている。木材買ってきて切って棚作るよりホームセンターでカラーボックス買ってきた方が安い。


製作者の工数低減も考えられていない。同人誌を作ってみるとわかるが、時間使わない術は実はかなりいろいろある。InDesignで雛形最初に作っておけば後の本は型に流し込むだけである。シナリオなんて書けば書くほど本人の技量上がるだろう。


そして「自分で書いたら5000円」は顧客目線でもなんでもない。顧客にとってシナリオ1本200円なんて実際に買ってみると心底どうでもいいのだ。収録されているシナリオ5本とも全部ゴミくずだった場合、いくらかけようとそのシナリオ集の価値は0円だ。顧客がこのシナリオ集の価値をいくらだと思うかは、製作者が決めることではない。


「自分で書いたら5000円」が無駄な発言だと思うのは、この発言をする人間が原価の話しかしない。「このシナリオは休日コンベンションで立ててその日一日満足できる代物です」という話があっての、「自分で書いたら」であろう。大体「高い」などと文句言うやつは安くしても買わない。そんな顧客にもなりそうもないクズ相手に、原価だけの話をするのは口喧嘩として有効ではあるが、製作者側が、管理会計を考えている素振りも見せずに原価の話だけをするのは浅はかだ。そんな一部分だけを切り取ったものはtipsとしても役立たずだ。


世の中には無料で本当に面白いシナリオも、かなり高いのに全く面白くないゴミもある。今は同人シナリオが活発で、シナリオ集が売れる時代なのだ。「シナリオは自分で書くもの」という至上主義は前時代の遺物だ。そして同人誌で税務の話が出てくることも少なくない。同人誌作ってその手の話している人が簡単な管理会計を考えていないような発言しかしないのはいかがなものかと思う。

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