第2話 初心者向けTRPGとはへの回答

初心者がまず躓くであろうことの1つは「初心者向けTRPGとは何なのか」である。

そこでよく出てくる、如何なものかとと思う回答が「君が遊びたいと思ったものが初心者向けだ」だ。


オンセなり、コンベンションなり、サークルなりでセッションを行うとき、「初心者はどのTRPGが初心者向けであるか」を考える必要はない。これは、他の人が「初心者対応可を銘打っているか否か」が重要なだけである。

「初心者対応をする気がない人」は本書の取り扱い範囲ではない。また、本項において重要なことは、「その初心者対応の出来」ではない。それは当人の能力や環境などによることであり、「初心者対応をしようとする意欲」があるならば、重要な点は「初心者対応」に対する意識や態度、思想である。


まず、ほぼすべてのTRPGは初心者対応可能である。初心者対応が不可能であるだろうと思ういくつかは、そもそも遊ぶのが困難といったもの(例は挙げないが)なので、話からは除外する。

「初心者向けTRPG」と言われて思いつくものはいくつかあるだろう。それは「判定が煩雑でない」、「世界観が身近」、「やれることが少ないため理解しやすい」など理由がいくつも思いつくだろう。

重要なのは、「初心者対応が可能である」ということと「初心者向けである」ことは全く異なる概念であることである。


いかにも難しいシステムを、初心者でも遊びやすい、理解しやすいようにサマリーを作ったりする企業努力やファン活動を蔑ろにする発言が「初心者向けである」だ。

手元のルールブックを開いてみるといい。そこには「初心者が遊ぶためには」などの項目が少なからず書いてあるだろう。しかし「初心者向けである」などということは書かれていない。自分のパソコンにインストールされているソフトウェアを見てみるがいい。玄人から素人までさまざまな人が使えるような数多もの機能が実装されているが、「ビギナー向け設定」など簡単に設定できるようなものがあっても、そこへの謳い文句は「初心者でも簡単設定」のはずだ。逆に「ビギナー向けソリューション」などを調べてみると、簡単に行えるようにかなりの機能がないはずだ。

ビギナーボックスのような簡易版ルールを出しているゲームもあるが、中身は確かに、初心者でも遊んでもらえるように、わかりやすく簡単に書いてある(あるいは書こうと努力している)。しかしシステムそのものではない。このプロダクトの話だ。

家電だって量販店の売り場で店員さんに「これがほしいんですけど、ビギナーでも簡単に使えるおすすめありますか?」と聞かれれば、「この商品どうでしょう」や「予算は」など親身に対応してくれる。車だってそうだ。免許取り立てだったとしても、「いいエンジンで車高低い」など希望を言えば、要望にあったものを提案してくれるが、それに「いいご趣味ですね」と言い「免許取り立ての人にはちょっと…」などとは言わないはずだ。別の商品で「初心者にはちょっと・・・」というところは、初心者は相手にしないとプライドがある。


参考書もそうだろう。「サルでもわかる」「中学生でわかる」など、これから勉強をしようとする人向けの本が出ている。しかし中身が薄い。もっと勉強したい人はどうするか。より詳細に書いてある高い参考書を買う。そして気が付く、安い分かりやすい本は中身がないため本気で勉強したいと思ったら最初から高い本を買った方がコスト安いのではと。そして、別分野の難しい高い本を買って挫折する。

中身が薄いわかりやすい本で十分だと思う人は、高い難しい本は俺は金を出して買う価値がないと、あるいは自分には理解できないと。「金額は質だ」と考えている人だ。そういう発想に至ると、ある程度の水準を求めるためにはある程度の金額は初期投資でも出した方がいいと思う。安いものは安いなりの理由があり安物買いの銭失いだと。


世間で言われている安いものすら高いと文句を垂れる人もいるし、ルールブック未所持の人もいる。それは、いくら「初心者向けだ」といっても買わないだろう。高いものを割って遊び、俺らは難しいものを遊んでいるという自尊心もあるだろう。なお、ルールブック未所持に対してどうこういうことは本項では話がずれるのでするつもりはない。

「初心者向け」という単語そのものが「内容の薄いもの」という印象を抱く人もいる。値段の安いワゴンセールになっているゲームソフトってそれはそれはそれなりの理由がある。

最初から長く遊びたい場合「初心者向けです」といわれるのと「初心者でも遊べるように至れり尽くせりです」と言われるの、どちらが長く遊べるようなプレゼンなのだろうか。


そもそも、「初心者」という称号自体「経験を積んで一人前になるもの」だろう。サラリーマンだってバイトだって、最初は初心者だが早く仕事を学んで「一流になろう」と思うものだ。初心者でいたいと甘んじる者もいるが、「一人前」ではない「初心者」という称号に価値を見出しているからだ。それを熟練者が、特定のものを「これは初心者向けだから」と紹介してくるのではなく、「君がやりたいものは初心者向けだ」と紹介してきたら馬鹿にしていると思わないのか。熟練者が集まって「初心者向けのゲームしかやっていない」というのは一体全体何をやっている集団なのだろうと思わないのか。「初心者向けのTRPG」を探すためにいろいろなゲームを遊んでいる集団だったら、「おすすめの初心者向けTRPG」を進めてこないだろうか。


断っておくが、「〇〇というシステムは××だから初心者向け」という感想は良い。内容はともかく理由をはっきりさせているからだ。しかし、何も考えずに「あらゆるものを初心者向け」というのは、初心者以外を蔑ろにしている。

「君が遊びたいと思ったものも遊ぶといい」は、初心者からすると何を選んだらいいかわからないので回答としてはダメなものである。しかし、そのもの自体は「初心者向け」であるという旨の発言はしておらず、どのシステムでも遊ぶためにはそれなりの努力は必要なのだろうと思わせる。


何でもかんでも「初心者向けである」という答えはいつか跳ね返ってくるだろう。自分の発言で雁字搦めになるぞ。

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