第6話  “それ“

『hello…slamat pagi…안녕하세요…สวัสดีค่ะ…Γειά σου…こんにちは、こんにちは。堂守さんは日本人だったのですね。大丈夫です。我々の翻訳システムは宇宙のあらゆる言語に対応しております…それはそうとして、先程は階段から落としてしまい、申し訳ありませんでした。なにせ、あなたに使うのが初めてだったもので…ああ、そうでございました。自己紹介がまだでした。私は地球からはるかかなたの星から逃れてきたものです。私たちの星は数千年前に隕石の衝突が相次ぎ、私たちが住めないようになってしまいました。それで私たちは数億単位で旅客団を組んで、方々へ新しい住処を探す旅に出たのです。そして、私たちはとうとう、とても住みやすい環境が整っている、この地球を発見したのです』


デジャヴだ。どこかでこんな話を聞いたことがあった。それにしても、これは夢なのだろうか。


『いいえ、夢ではありませんよ。』


ギクリとした。どうやら私の心は“それ”に筒抜けのようだ。


『そうです。我々は他の生物の意識に入り込むことができるのです。もっとも、今はその逆で、あなたの意識が私の意識に入り込んでいるのです。体の感覚がないでしょう。それがその証拠です。』


私の体はどこにあるのだろうか。あの階段に置き去りにされているのだろうか。きっと梅小花くんが最初に発見するのだろう。意識のない体をなんと呼ぶのだろう。植物人間という言葉をどこかで見たことがあるが、私の肉体はそうなってしまったのだろうか。


『いいえ、誰もあなたのことを発見はしていません。』


どういうことなんだ。


『私たちは、人類と共存するための基地を日本に作ることにしました。争いが起こらないように一時的に日本の国民を回収させていただきました。もう争いはこりごりなのでね。もちろん、あなたの体もです。日本の国民の皆さんは、私たちの宇宙艇の中でコールド・スリープをしています。その間に、みなさんの意識の中に私たちの仲間がお邪魔して、日本に我々と共存することを受け入れてもらえるように説得しています。』


私だけが、この宇宙人の意識に入り込んでいるということか。周りには頼る者もいないし、本当に自分だけで考えにといけない。どうして私だけがこんな風になったのだろう。


『理解がお早くて助かります。でも、それを見込んであなたを選びましたから。あなたには我々の実験のお手伝いをしていただきたいのです。」


嫌な予感がしてきた。


「いえいえ、あなたを傷つけるようなことはありません。具体的な方法をご説明いたします。まず、この実験の目的は人間の体を私たちの仲間が操作できるか確かめることです。」


私の体はまだ存在しているのだろうか。


「あなたの体は、全ての生命維持活動を一時停止した特別な状態で横たわられております。もちろん死んでいるわけではありません。あなたの体内で時間が止まっているだけです。どうか、協力をお願いいたします。」


私は他にどうすることもできないので、その提案を受けることにした。


「ありがとうございます!では、早速始めます。」


もう堂守瑞季の意識は途絶えていた。




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フィジカルとメンタル 莉菜 @mendako

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