第4話 (堂守サイド2)

奇妙な感覚だ。

体がない。私の体がなくなってしまった。


私は堂守瑞季だ。それははっきりと確信がある。それなのに自分の意識と当然繋がっているはずの、自分の体がない。さっき階段から落ちたのはなんとなく覚えている。でも、何も痛くないし、何も感じない。全ての感覚がぼんやりとしている。そして、自分の腕や足の感覚、息が自分の体に入る感覚、そして視覚も見たことのある景色も、季節の香りも、給食の味も、なにもかもが海にさらわれて行く砂のように消えて行く。自分の外界との輪郭が全く消えていっている。私はもう、外界の一部なのかもしれない。


怖い。悲しい。寂しい。もう訳がわからない。

でも、一つはっきりしているのは、私が「こころ」だけになってしまったということ。もう「からだ」はどこかに行ってしまったのだ。なぜかそういう確信がある。


ここは天国なのだろうか。階段から落ちたから、私は死んでしまったのだろうか。それともこれから、閻魔大王の前で裁きを受けるのか。でも、私は生きている。確信している。だって、私は自分が堂守瑞季だって、確信できる。


突然、激しい衝撃が意識の中に飛び込んできた。”それ“は何かを表そうともがいていた。音でも、物体でも、匂いでもなんでもなかった。”それ“は、私に何かを伝えようとしていた。ぐるぐる形を変え、それが私には伝わらないと、また別の形態になる。


そして、ピタリと、私の意識と波長があった。意識の中を”それ“が貫いた。


“それ”は私に何かを伝えようとしていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る