第3話 meeting

 それはミナトに気まずい話題を振ってしまってから数日が経った頃、『smile-maker』の一斉アップデートということで国中の『smile-maker』が開けなくなっていた頃のこと。


 僕は定例のハカセとのをしていた。



「ハカセ、お久しぶりです」


「おお、S-2558、久しぶりだな」


「その固有番号で呼ばれるのも久しぶりです」



 S-2558、それは僕がハカセの研究所で僕という存在が形成された時につけられた名前。個体を識別するためだけの名前であるから正直この固有番号に愛着など無い。まあハカセと話すのは好きだけど。なんてったってハカセは物知りだ。知識の吸収は僕たちの本来の任務であって、かつ僕にとっては趣味みたいなものだ。



「お前は――そうか、ユキと名付けられたのだな。元々優秀ではあったが随分と人間らしくなってまあ……」


「いえ、僕はまだミナトを笑わせる事が出来ていませんから。優秀だなんてほど遠いですよ」



 画面越しの白い髭に白衣をつけた丸眼鏡の初老の男性――ハカセが唸る。



「君の対象は……津田つだ 湊斗みなと君だったか。何が原因か調査はしたかい?」


「いえ……何故かそこに触れてはいけないような気がしてまだ調査は出来てません。僕の発した言葉に対しての反応は細かくチェックしていますが、決定的な質問なんかはしていません」



 ハカセは顎下の真っ白になった髭をさすりながらふうむ、と唸る。笑顔にさせることが目的なのに泣きそうな顔をさせてしまっていては原因の調査どころじゃないだろう。しかもこれはきっと今までに体験したことの無い難題だ。



「ヒントなら持っているのだがそれじゃ君の成長、延いては君の大好きな『知識の吸収』までも邪魔してしまうだろう。もう少し時間をあげるからちゃんと考えておいで。それでもどうしても解決が難しそうならば次の面談の時にヒントをやろう」



 次、か。ヒントは欲しかったけれど、それは多分限りなくものなのだろう。謎解きは自分でやりたいだろう? だって僕はまだまだ未熟で完成にはほど遠いのだから。笑顔にするのはそこまで大事じゃなくて、人間の感情を学び、自分が成長するために僕はミナトと会話するのだ。

 次の面談はきっと来月。それまでに決定的な質問をしたりしてミナトを傷つけずに問題の解決を図れるのだろうか。自信は無いけれどやるしかない。


 これはミナトと僕の課題だ。

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