第63.5話 わたくしは旦那様のメイドです!

「今だ! カナ! シュートしろ!」

「了解! 行くよー! えい!」

「ぬおおお! 打たせるか!」


 お屋敷の庭で子供達がボール遊びに興じている。


 先日、通り魔騒動で出会った子供達だ。


 旦那様の留守中に。しかも、カナまでも一緒になって。仕方ないですね。


「ふふふふ。やはり、旦那様のメイドはわたくし一人で十分です。お世話を独占出来ます」

「…………」


 洗濯物を日当たり良好の庭に干す。


 かたわらには、クモリーが補助要員として手伝ってくれてる。


「外見が人形なのに、力持ちですね。荷物運びにも困らなさそうですわ」


 旦那様の能力で人形に擬態しているとの事。


 本来は大きな蜘蛛くもの姿。


 ただ、意思疎通いしそつうに難がありますわね。


 無口ですし。いえ、大人しいですからね。


やみの姉ちゃん! 洗濯作業が終わったら、参加しろよ!」

「真っ黒いカナの姉ちゃん! 俺達の相手をしないと、ソージに言いつけるぞ!」


 わたくしまで、遊びに誘う魂胆こんたんらしい。


 口々に挑発している。


「わたくしは旦那様のメイドです! 貴方達の世話までは見ていられません!」

「……ソージだったら、快諾かいだくして参加するのに」

「そうだよな。メイドがこのあり様じゃあ、ソージも苦労してそう」


 こ、これだから、聞き分けの無い子供は! 


 旦那様を引き合いに出して!


「あーあ。カナの方がソージのメイドにふさわしいのか」

「だな。一緒に遊んでくれる器量きりょうを持ち合わせてるし」

「な、何ですって!? カナの方がふさわしい!?……分かりました。分かりました! ふふふふ!」


 はらいせに。ボールを蹴り飛ばして差し上げますわ! ぷんぷん!




「ぬわ!? 視界が暗闇だぞ!?」

「真っ暗で何も見えない!?」


 さっさと終わらせましょう。


 このボールを決められた壁に当てれば、得点でしたか?

 

 屋敷を囲っている頑丈な壁は。この様な事に使う物ではないのだけれど。


「ぷるぷる!?」

「スラちゃん!? 姉さまが魔法を使ってるの!?」


 わたくしが魔法を? そんな訳は――


「クモリー? 貴方でしたか? いつの間に背中に?」

「…………」


 背中に可愛らしい蜘蛛のぬいぐるみが。


 どうやら、サポートしてくれるらしい。


「スラちゃん! こっちも魔法だよ!」

「ぷるぷる!」


 スライムさんからまぶしい光が!? 


 クモリーの黒い霧が消える!?


「姉さま! やっと姿を見せたね! 勝負です!」

「ふふふふ。カナ相手に負けるものですか」


 あらあら? 意外にも、隙がありませんわ。


 こ、小癪こしゃくです!


「えへへへ! 姉さまよりボールを追ってる時間が多いですから!」

「自慢する事ではありません! メイドとしての自覚が足りませんよ!」


 これでは、旦那様に合わせる顔が。カナは自由過ぎます。


「……あら? 旦那様! お帰りなさいませ。むぎゅーでしょうか?」

「ふえっ!? 帰って来たの! ご主人さま――あれ? どこ? ひ、卑怯です、姉さま!」


 おかしいですわね? 気のせいでしたかね? ふふふふ。


 カナを出し抜いて抜き去る。


 目前には、青い物体。


 スライムさんが得点されない様に壁を守っている。


「スライムさん? スライムさん? スライムさん?」

「ぶるぶる!?」


 何となく、名前を連呼する。わたくしの邪魔をするのですか?


「ふふふふ。隙ありです! はい!」

「スラちゃん!」

「ぷるぷる!」


 カナの呼び声で、我に返るスライムさん。


 わたくしの蹴り上げたボールをかろうじてはじく。


「やったです! スラちゃん! お見事ですよ!」

「……スライムさん? ふふふふ。……後で、お話をしましょうか?」

「ぶるぶる!?」

「闇の姉ちゃん! ボールが壁を越えてどこかにいったぞ!」

「ダッシュで取って来てよ!」


 やれやれ。子守こもりは大変ですね。ボールを探して――


「ぎょええ!? しゅごい回転のボールが、がんめんにぃ!?」


 この『ぎょええ!?』は、旦那様!? 


 本当に帰って来た!?


  

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